~ 美女でも野獣 ~
~ FF7 ~
<30>
第二部
 バレット
 

 

 

 

 

 死ぬのかな……

 クソ……死にたくねぇよ……マリン……

 

「ク、クラウド……」

「いいよ、もうしゃべんなッ! すぐにエアリスに応急処置を……」

「い……いいから聞けって……」

 そうだ……

 何も死ぬつもりじゃねぇ……あきらめるつもりもねぇんだ。

 万一に備えて、今のうちに渡すべきだ…… そうさ、もともと、ケット・シーに言われていたことだ。

 

「……ケット・シーからの頼まれ事があってな」

「今じゃなくていいだろ! 手、退けろッ」

 負傷兵向けの手荒い止血はお得意なのか、クラウドは乱暴に俺のジャケットを引き裂くと、傷口に押し当てる。

 自分だって、傷だらけだってのに。

 

「クラウド……一応、こいつ……渡しておく」

 アーミーパンツのポケットに入れた『ソレ』を取り出す。

 ちくしょう……もう指がまともに動きゃしねぇ……

「何だよ、そんなの後に……」

 言いかけたクラウドの声がひたりと止む。

 

「な……大事なモンだろ?」

「……ああ、そうだな。ありがとう、バレット」

 確かに、というように、クラウドは、小さなソレ……黒マテリアをギュッと握りしめた。

 

 

 

 

 

 

「……この……建物は……もうもたねぇ……」

 浅くなる呼吸の中、ほとんどつぶやきにしかならなかったはずだが、クラウドはちゃんと聞き取ってくれた。

「じゃ……この地震はやっぱり……」

「そうだ……時間がねぇ」

 俺がマシンガンをぶっ放したせいで、皆一挙にセフィロスと交戦状態に陥ったが、本当はクラウドとヴィンセントを拾って、そのまま脱出する予定だった。

 ケット・シーが身を挺して、時間を稼いでくれたのだ。

 あれからだって、もう大分時間が経っている。

 

「ケット・シー……命がけで……食い止めてくれたんだ…… 無駄には……できねぇ……」

「わかってる……!」

 クラウドがひとつ頷く。

 それだけですべて把握したという、確固たる受諾の表情だった。

 

「きゃあぁッ!」

「チッ……くそ!」

 ティファとシドの声が聞こえた。

 エアリスが補助魔法で援護しているとは言っても、相手はあのセフィロスだ。足音一つ立てずに、離れた相手に一太刀浴びせる化け物なのだ。

「くそっ! オレはここでアンタとやり合うつもりはなかったぞ、と!」

 諜報と戦闘のプロ……悪名高い暗殺集団タークスも、セフィロス相手では分が悪そうであった。

 

「ティファ! シド! 退けッ、無理をするな! エアリス、こっちを頼む!」

 満身創痍に違いないはずなのに、クラウドのヤロウが大剣背負って、跳んで行く。

 ……最初に出逢ったときは、信用できねぇと思ったが、なかなか大した男じゃねぇか。

 

 

 どぉんッ!

 

 

 地面がバウンドするように大きく揺れた。

 こちらに駆け寄ってくるエアリスが、足を取られてスッ転ぶ。

 

 ……なんだ?

 目の前が暗くなりやがる。

 エアリスは大丈夫なのか……?

 

 がらくたがばらばらと落ちてきて、何も見えなくなった。

 ……いや、こいつはもう、お迎えってヤツが来やがったのだろうか……?