20数年前から愛してる
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 クラウド・ストライフ
 

  

 

「誰も迎えに来てくれとは頼んでねーぞ」

 果たして、セフィロスは沖に浮かぶ小島に、あたりまえのように居た。

 もっとも、服はボロボロになっていて、裸足という惨さんたる有様は、爆撃の激しさを物語っていた。

 しかし、素手で捕まえたらしい魚を火であぶって、バリバリと食っている様子から、身体はほとんどいいように思えた。

「ここから岸まで飛ぶのは、ちっと距離がありすぎる」

「でももうちょっと連絡を取れるよう頑張ってみるとかさァ!ヴィンセントは寝込んじゃったし、ルーファウスはまともに食事もとらないし、かなり深刻な状況になってるんだけど!」

 ヤズーがあまりにももっともな意見をいった。

 野生の狼そのものといったセフィロスを船に乗せて、俺たちは引き上げるところだ。

「あー、もうとにかく別荘に戻ったら、風呂だな。ヴィンセントたちがアンタのこと見たら絶対抱きつくだろ」

 俺はため息混じりにそう言った。

「いいのか抱きつかせておいて」

 からかうようにセフィロスがいうが、今回のテロから皆を守ったのは彼であるには違いない。

「別にいちいちヤキモチ焼くかよ。それよりアンタ、ホントに身体大丈夫なんだろうな。あんなすごい爆破で……」

「大した傷じゃねぇ。翼はしばらく使えんがな」

「……そっか、ひどい傷じゃなきゃいいが」

「なんでもねぇって言ってんだろ。メシの準備しておけよ」

 屋敷につくと彼はさっさとバスルームに入っていった。

 しっかりと食事のことを言い置いてだ。

 

 茶化してはいたが、飛んで帰れない程度には、やはり負傷したのだろう。あの爆発だ、無傷じゃすまなかったのは当然だろう。

 

「レノ、ルーファウスが起きているなら知らせてきてやったらどうだ。今回はあいつ優先だろ」

「そうだな、と」

 レノが手をひらひらと振って、奥へ引っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、クラウド。今回は世話になった。感謝する」

 俺とセフィロスを前に、ルーファウスはそう言った。

 残念ながらルーファウスは、まだ病床に着いたままだ。新しい傷よりも、DGソルジャー事件のときに負った古傷が開いたのがよくなかった。

「いや、こっちこそ。ごめんな、俺、ほとんど何の役にも立てなかった」

 正直に俺はそう言って、ルーファウスに頭を下げた。

「そんなことはない。おまえのおかげで救われた」

 白いシルクのローブを肩からかけたルーファウスは、なんだか少し頼りなさげに見える。『臈長けた』などという比喩表現がぴったりだ。

「早く怪我治してね、ルーファウス」

 まんざら社交辞令でもなくそういうと、彼は笑顔で頷いてくれた。

「セフィロスには、今回もたいそう迷惑を掛けてしまった。君が命がけで孤児院を救ってくれたことは忘れない」

 ルーファウスがそう言って、手を出した。握手を求めたのだろう。

「別にそいつは勝手にやったことだ。孤児院云々と言うのは、オレじゃなくておまえが命がけで守ったんだろう」

「……いや、私は敵に捕まって、人質にされただけで……」

「それでもあきらめずに、最後までなんとかしようと頑張ったのはおまえだ」

 セフィロスがはっきりとした口調でそういった。傍らの俺も頷き返した。

「セフィロス……」

「まぁ、今回のことでウータイの残党も検挙されたし、少しは身辺も落ち着くんじゃないのか」

「ああ、そうだと……ありがたい。このざまでは人前に出ることが、また難しくなってしまったが」

 ため息混じりにルーファウスがつぶやくと、セフィロスが言葉を重ねるように口を開いた。

「今は休めってこったろ。動けるようになって、また危ない橋を渡るっていうなら、オレたちを呼べばいい。そのときこそは、今度みたいな失敗はしないぜ」

「セフィロス……どうもありがとう」

「クラウド、少し外せ。オレはルーファウスと話したいことがある」

 セフィロスの言葉に、俺は素直に従った。

 そのほうがルーファウスにとってもいいと思ったからだ。

(ルーファウス、もうちょっとがんばって、告白ができりゃいいけど)

 そうつぶやいた俺を、ヴィンセントが不思議そうに見つめる。

 

 あっという間に二十日が過ぎ去ってしまった。

 まだまだミッドガルやエッジ周辺は落ち着きを取り戻したとは言い難い。

 しかし、ルーファウスらの尽力で、徐々に……少しずつではあるが、明るい未来が見え始めている。

 俺はもう一度ルーファウスの寝室の扉を眺め、その後にヴィンセントを促して、みんなの待つ居間へ戻ったのであった。

 

 それから十日後、俺たちはコスタ・デル・ソルの家に戻ってきた。

 中間決算が終わり、ルーファウスの身辺が落ち着いたのを見計らってからだった。

 

 正直、女装にコルセットは、俺にとってなかなか厳しい条件だったが、ルーファウスたちの『本気』を見せてもらったことは大きな財産になった。

 俺は今、神羅の社員ではないけど、一度でも身を寄せた会社が、困っている人々を救う立場で動いているのがすごく嬉しい。

 セフィロスは何も言わないが、少しは俺と同じように感じていてくれたらなぁって思う。

「どうした、クラウド、疲れたのか?」

 ため息を吐いた俺を見たヴィンセントが、気を使う素振りで声を掛けてくる。

「ううん。……ルーファウス、セフィに言えたのかなぁって」

 俺はそんな風に応えた。

「なにを……?」

「うん、セフィロスのこと、まだ好きだって。ずっと想い続けていたんだって」

「そうか……」

 ヴィンセントは一瞬複雑な表情をしたが、すぐに頷き返した。

「なんせ、20年越しの恋だもんね。……ちゃんと伝えられていたらいいなぁって思う」

「そうだな」

 と、ヴィンセントは静かに笑って俺に寄り添ってくれたのであった。