〜The after of FF7AC〜 <2>
 
 
 
 
 

 

 

 ここはカームの街……いや、ミッドガルに比べたら「町」といったところか。

 距離的にはそれほど離れていないが、まったく別世界のような美しい風景が開かれている。

 町も自整然と整っていて、それで木のぬくもりと煉瓦のあたたかみを感じるような作りで、私も気に入っている。

 

 最初の目的地はここだ。

 かつての旅路では、私はこの地に同行してはいなかったが、セフィロスの足取りを追っていた彼らは、この町に足を運んだのだという。

 

「けっこう、遅くなったな」

 クラウドが背の大剣を取り外しながらそう言った。

「おいおい、酒場にレッツゴーじゃねーの? 情報収集は人出の多いとこじゃねーとよ」

「さんせー!」

「さんせーって、オイ、ユフィ! おめぇは連れてかねーぞ、ガキ!」

「なによ、シド! 差別! さべ〜つ!」

「ちょっと、よしなさいよ、ふたりとも。今日はさすがに疲れたし、このまま宿に行きましょう。チェックインの時間もギリギリだし」

 ティファがまとめた。

 私も早々に室で休みたかったので、その意見に頷いた。

 

 以前も泊まったことがあると言っていた宿。旅の始まりということは、まだパーティの人数が少なかったころだろう。

 木造りの、こぢんまりとした宿は、二人部屋ばかりだ。

 女性二人はいいとして、後のメンバーもふたり組になる。正直、ひとりの方がいいのだが、旅路では贅沢を言うわけにはいかない。 

 特に希望を言うこともなく、黙っていると、クラウドがあっさりと、私の腕を引いた。

「じゃ、俺、ヴィンセントと一緒な。みんな、ゆっくり休んでくれ。……お休み」

 クラウドと同室か……嫌なわけではないのだが、彼はむずかしい。いや、むずかしいというのは適当ではないか。だいたいむずかしいでは意味がわからないだろう。

 

「行こう、ヴィンセント」

「あ、ああ」

 一番端の室を開けると、クラウドはさっさと中に入ってしまった。その後を追うような形で中に入る私。

 ふたりきりになるのは、久しぶりだ。

 

「ヴィンセント、先に風呂入ったら? 疲れてるだろ」

「いや、クラウドが先に使ってくれ。私は髪が長いから……その、時間がかかるし」

 言い訳のように、私はつぶやいた。

 先に入ってしまうと、待つ側は手持ちぶさたになる。入浴を終えていれば、横になってしまってもいいが、湯浴みをする前にベッドを汚すようなことはしない。

 意外にもクラウドは、潔癖なところがあるのだ。それゆえ、順番の先を譲る。

 私の意図を読み取ったわけではなかろうが、クラウドはすんなりと浴室に消えた。

 

 

 

 ……最初の……セフィロスとの闘いが終わった時……ライフストリームが星を取り巻き、長い旅の終焉を見たとき……

 クラウドが言ってくれた。

『一緒に行こう』と。

 ああ、それはただ、私も彼も……他の者たちとは異なり、待っている者たちや帰るべき場所が無い者同士だったから、そう言ってくれたのかも知れない。

 旅の途中で、クラウドはコスタデルソルに別荘を持った。そこに一緒に行こうと……

 

 それは、思いも掛けない申し出で……なぜ、彼がそんなことを言い出したのかわからなくて……それよりなにより、その誘いをひどく喜んでいるおのれが信じられなくて……

 

 ああ、よそう。

 今はそんなことに思いめぐらせている場合ではない。

 

 まだ、私の物語は終末を迎えてくれない。だが、この旅が……二度目のこの旅が終わるときこそ、あまりに冗長に過ぎた私の物語も、終結を迎えるのだろうと思う。

 今度こそ……永久のやすらぎを得ることができるのだと……そう信じたい。

 

 (……セント)

 

 その終わりの時……できることなら、クラウドがこれ以上苦しまなくて済むよう……他の者たちが誰ひとり欠けることなく、新たな世界を迎えられるよう……

 

 (……セント……ィンセント!)

 

 ただそれだけ……願ってやまない……

 

「ヴィンセント!」

「……あ」

「どうした? ぼうっとして。いや、アンタが惚けてんのはしょっちゅうだけどさ」

 ああ、また私はおのれの物思いに沈んでいたらしい。

 クラウドが少し意地の悪そうな微笑を浮かべて、私の顔をのぞき込んでいた。風呂から上がってきたのだ。

「あ、いや……」

「ヴィンセント? なんか顔色悪いぞ?」

 白いバスローブに、前髪のしずくが落ちて消えた。

「…………」

「なに? マジで具合悪いのか? おい、まさかさっきのモンスター……」

 カームの平原には毒牙を持つモンスターが出没する。それゆえ、そこを通る旅人は少ない。案の定、我々も彼らの洗礼を受けるハメになった。

 もちろん油断していたわけではなかったが、わずかに二の腕をかすられたのだ。

「違う……あの後ちゃんと毒消しで手当てしただろう。心配ない」

「あ、ああ、でも……」

「少し神経質になっているのではないか? クラウド……」

「そんなことないけど……ちっ、うっかりしてたよ。俺、ちょっとユフィんとこ、行ってくる」

「ユフィ?」

「マテリアもらってくるんだよ、『かばう』は確かアイツが持ってたはずだから」

「クラウド? そんなもの……」

「あー、いいから、アンタは早く風呂入っててくれ! ゆっくり温まるんだぞ」

「あ……ちょっ……」

 私はさらに制止しようとしたが、クラウドはさっさと部屋を出て行ってしまった。バスローブのまま、女性の部屋に行くのは問題があるのではなかろうか?

 年齢を経て、少し落ち着いたと思っていたが、根本のところは変わっていないらしい。

 いや……私はそんな彼のことを、とても好ましく思っている。

 

 この上、わざわざユフィの部屋までクラウドを止めに行くのもおかしなものだ。私は彼の言葉に甘えさせてもらうことにした。

 ガントレットを外し、手袋を脱ぐ。マントはそのままコート掛けに引っかける。ついでにクラウドの脱ぎっぱなしの上着も、皺をのばし私の服の隣に掛けておいた。つまらぬことだが、私はついこういうことが気になってしまうのだ。

 脱衣所の扉を閉め、服を脱ごうとしたところ、バスケットにクラウドの服が脱ぎ捨てられたままだ。簡単に畳んで、ベッドの上に置きに戻る。クラウドはまだ戻ってきていない。ユフィとの交渉が長引いているのだろうか。

 

 今度こそ、服を脱ぎ捨て、私は浴室に入った。

 中には不愉快なことに大きな鏡がついている。これではいやがおうでもおのれの姿を見ることになってしまう。

 精気の感じられない、不気味に蒼白い肌、血の色の瞳……そして罪の色に染まった漆黒の髪……自分の身体で好きな部分など、どこひとつとして無い。

 こんな肉体を欲する彼の気持ちは、よくわからない。

 

 丁寧に身体を洗い、湯に浸かる。

 クラウドはゆっくり温まれと言ってくれたが、私はのぼせやすいのだ。以前一度アイシクルロッジの浴室で倒れてから、気をつけるようにしている。あのときは、パーティのメンバーだった、クラウドとシドにひどく迷惑を掛けてしまったのだ。

 

 のぼせる前に湯から上がり、バスローブ……ああ、あいにく色は白しかないらしい。それを身に纏うと、私は室に戻った。クラウドにつられて、うっかり部屋着を忘れたのだ。

 さすがにクラウドはもう戻ってきていた。