〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 ヤズー
 

 

 

 

「……あ、あの……思うのだが、この奇態な風体の、というのはDGソルジャーのことだろうか? 写真もないから……何とも言い難いのだが」

 皆が楽しく歓談しているところに持ち出したい話題ではなかったのだろう。さきほどの新聞を差し出して、ひどく申し訳なさそうにヴィンセントがつぶやいた。

「ええ〜、またぁ〜!? 性懲りもなくしゃしゃり出てきたのかよ、あの連中!」

「兄さんってば短絡的だなぁ。ヴィンセントは『何とも言い難い』って言ったでしょ。この文面だけじゃわかりゃしないよ」

 なるべく軽く聞こえるように俺は口を挟んだ。

 ちらりと横目でセフィロスの表情を盗み見るが、無表情の中に彼なりの表情がある。彼もヴィンセントと同様に、この新聞記事を目に留めていた。気にならないはずがない。

「まぁ、そうだけどさ〜。『奇態な風体の』とか書かれちゃうと、何だかあの連中を思い出すよね」

 と兄さん。皆が言いにくいことをあっさりと……本当にカルイ。

「うーん、普通の格好をしていれば、ネロなどは十分美青年で通りそうだがな。黒髪でほっそりしていて、少し女神に似ているじゃないか」

「アンタ、バカじゃないの?誰とヴィンセントが似てるって!? キモイんだよ!あんな毒々しい野郎とヴィンセントと一緒にするな!気分悪い!」

 ピンポイント的に爆発する兄さん。今の問題はそこじゃないのに。

「ク、クラウド、いきなり怒鳴ったりするものではない。……すまない、ジェネシス。彼はどうも言葉が好ましくなくて……」

「だってアンタとネロが似てるなんて言われたら黙ってらんないじゃん!」

「大声を出さないでくれ。ジェネシスが困ってしまうだろう……?」

 おろおろと宥めにかかるヴィンセント。なんだかこの辺りのやり取りは、最近よく目にするせいか、わざわざ止めに入る気にもならない。

 なんというか彼ら二人については『平和だなぁ〜』と感じる。

「違うよ、チョコボ。俺が言っているのは容姿的な事柄だよ。髪の色や瞳の色が似通って居いるだろう?」

「似てないもん! ヴィンセントのほうがず〜っとキレイ!!」

「クラウド、いいかげんに……」

「気にしないでもう慣れっこだよ、女神」

 ジェネシスがクスクスと笑いながら、ヴィンセントに向かって気にするなと手を挙げてみせた。

 ジェネシスもセフィロスも……敢えて、ヴィンセントの不安に触れようとはしない。

 例の新聞記事に違和感を抱かぬはずはないのに、黙して避けている。

 そういえば、以前セフィロスが言っていたことがある。

 嫌な予感ほどよく当たるのだと、ことに不安を口に出すと、『言霊』になってしまうのだと。

 

「……まぁな。確かにこの記事の内容にはひっかかるが、別におまえが気にする必要はないだろ」

 セフィロスはテーブルの上の新聞紙をラックに向かって放り込んだ。さもつまらないものだというように。

「だ、だが、セフィロス…… もし、彼らがDGソルジャーだったとしたら……」

「仮にそうだとしても、おまえには関係ないだろうが。連中がこっちに手出ししてくりゃ容赦はしないが、わざわざミッドガルくんだりまで出向いて正体を確かめる必要などないと言っているんだ」

「そ、それは……で、でも……」

 ヴィンセントがわずかに首をかしげ、言葉が見つからずに言い淀む。困ったときの彼のくせなのだ。

「まぁ、そうだな。俺もセフィロスの意見に賛成だよ。そもそも君は、彼らに迷惑を被っている立場であって、あの哀れな兵隊を作り出したのは神羅カンパニーだ。責任は連中が取るべきだよ」

 ジェネシスにしてはキツイ物言いに、気づかれぬよう整った横顔を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 『G計画』とかいったっけ。

 詳細は俺にもよくわからない。

 だが、セフィロスが言うには、ジェネシスの存在はDGソルジャーとつながりがあり、なにより瀕死の彼を救ったのは、あのネロだというのだ。

 つまりジェネシスにとってネロは命の恩人の立場になる。それにも関わらず彼は、ネロを始めDGの連中を結果的に裏切ったのだ。

 ……ヴィンセントをずっと想い続けていたために。

 

「で、でも…… もし本当にネロたちが絡んでいるなら……」

「ん〜、まぁ、ちょっとわからないよね、現時点じゃ。だいたいこの記事だけじゃネロどころか、DGソルジャーかどうかだって不明じゃない。ただのテロリストかもしれないし」

 俺はそう口を挟んだ。

「確かにヤズーのいうとおりだ。神羅カンパニーに不満を抱く輩も多いだろうからな」

 とジェネシス。

 そうなのだ。世界再建を謳い、神羅カンパニーは徐々にかつての力を取り戻しつつある。

 それに対し、快く思わない人間たちも多くいるということだ。

 もちろん現在の神羅は、魔晄エネルギーを使用しているわけではない。現ある意味極まっとうに技術研究、ホテル観光産業、化繊工業など、多岐にわたり業務展開を行っている。現社長・ルーファウス神羅にはそれだけの能力があったのだろう。後は取り巻きがそれなりのレベルだったのか。

 以前、ルーファウスと血のつながりがある赤ん坊が拉致されたのも、その利権を巡ってのことなのである。

「ここには元神羅の人間たちが被害に遭ったって書いてあるけど……まぁ、ある意味自業自得というか…… 運がなかったんじゃない?」

「だ、だが……もしかしたら民間人も襲われている可能性があるかもしれない。他にも負傷者数十名とあるだろう?」

 あくまでも人の良いヴィンセント。正義の味方じゃないんだから、わざわざ出張ヒーローする必要なんかどこにもないのに。

「オイオイ、本当に『女神』か、おまえは。オレたちに関係ない場所で起きていることならば放っておけ」

「で、でも……セフィロス……」

「おまえは自分のことだけ考えてろ、面倒くせェ野郎だな」

「ちょっとセフィロス。言葉が悪い」

 俺は無遠慮な彼の物言いを諫めた。もっとも対処法については、俺もセフィロスと同意見だけど。

「す、すまない。ただ……今、私はとても幸福に暮らしていられるから…… なんだか自分だけが得をしているようで……」

「それはヴィンセントの人柄で得た、快適な居場所なんだから当然じゃない。ああ、もちろん兄さんの協力あってね」

 と、フォローを入れておく。

 万一、一連の事件が本当にDGソルジャーの引き起こしたものであったとしても、兄さんは絶対にヴィンセントをミッドガルへ行かせたりはしないだろう。これまで応戦してきたのだって、直接ヴィンセントを狙ってきたからだ。

 本音では『関わり合いになりたくない』。

 それが俺たちの共通の見解だったのだ。

 

「……もし、君がそんなに気になるなら調べてこようか?」

 宥めるようにジェネシスがささやいた。だが、ヴィンセントは顔色を変えて首を振った。

「ダ、ダメだ、ジェネシス! そんな危険なことをしてはいけない。もし、また怪我をするようなことがあったらどうするのだ! 絶対にひとりで行かないでくれ」

「別に本人が行きたいって言っているんだからどうでもよくね?」

 という兄さんのつぶやきは当然黙殺された。

「いいな、ジェネシス? 身辺が危うくなるようなことをしてはいけない。君の身を案じている人間がこれだけ多くいるのだ。……約束してくれたまえ」

 ヴィンセントにしてはめずらしく、毅然とした表情でそう言い切る。まったくこの人は情ある他人のこととなると、どこまでも必死になれるのだ。

「ふふふ、ああ、わかった、わかったよ、女神」

 満足そうに頷くと、ジェネシスは兄さんの前だというのに、愛おしげにヴィンセントの前髪を梳いた。

「ああ、女神。君はなんて素敵なんだろう。……君が他人のものだなんて、切なくて涙が出てきそうだよ」

「おい、ちょっ……ジェネシス!」

「君のことは大切な友人なのだ。どうか自分の身体を大切にして欲しい」

 ヴィンセントのズレたセリフに、俺は苦笑し、セフィロスは大きなため息を吐いたのであった。