〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 レノ
 

 

「あ、これ美味しい。ねぇ、お代わり」

「兄さん、僕のあげる。そっちのちょうだい」

「カダージュ、好き嫌いはダメって、ヤズーに言われただろ!」

「じゃあ、ロッズ食べてよ!僕これキライ」

「あー、ほらほら。じゃあ、カダ、半分だけ食べてみよう? にんじんにはカロチンが入っているからな」

「お代わり早くしてよ!」

「…………」
 
 無言のまま、目線でクラウドを押さえるヴィンセントさん。

「あ、ヴィンセント、お魚食べる? 俺、骨とってあげるから。よく見えないでしょ?」

「…………」

 これはきっと『ありがとう』と言っているのだろう。少し照れくさそうで、目元が潤んでいる。

「やだァ、全然気にしないでよ」

「ったく気取ったメシを出しやがる。神羅のコックはコイツの足下にも及ばんな! なぁ、ヴィンセント!」

「…………」

 ……きっと、セフィロスの無遠慮な物言いを心苦しく感じているのだろう。

 いや、なかなかどうして、オレも人の心が読めるもんだぞ、と。

 純白のレースが施されたテーブルクロス。卓上には造花ではない、薔薇のフラワーアレンジメント。食器もすべて銀のフォーマルを並べ立ててあるが、どうやらそんなことは、この家の連中にはどうでもよさそうだった。

 ごく日常的な食卓というイメージで、心づくしの料理を平らげ続けている。もちろん、シェフ連も名の通った人々を呼んでいるわけなのだが。

 

「……相変わらず文句言う割にはよく食うぞ、と」

 と、セフィロスの隣の席で言ってやった。

「仕方ねェだろ。ヴィンセントに作らせるわけにはいかないんだからな」

 ガバガバとワインを水のように流し込んで、セフィロスが悪態を吐いた。

「バカ言わないでちょうだい。やけどや切り傷こさえたらどうするの?」

 というのはヤズー。

「へぇ、料理とかするんスか?」

 と、小声で訊ねてみた。うっかり声が出ないのを忘れていて。

「彼はプロ並み……ううん、それ以上の腕の持ち主だよ。おかげさまで、俺たち舌が肥えちゃってねェ」

 またもやヤズーが上手い具合に引き取ってくれた。ヴィンセントさんは、困惑したように首をかしげ、「そんなことはない」と頭を振った。

 

 ヴィンセントさん……

 ……なんつーか、この人だけ、クラウドファミリーの中で浮いてる。

 他の連中は不躾で遠慮のエの字も持ち合わせないような輩なのに、この人は万事において控えめなのだ。赤ん坊の件では、クラウドを説き伏せて、ああいった形で協力してくれたのだから、もう少し意志的なキャラクターかと思ったのだが。

 

 

 

 

 

 

 ラストのデザートが運ばれてきて、ルーファウス社長はようやく口火を切った。

 それまでは深刻な話が出来る雰囲気ではなかったのだから。

「そろそろ話をさせてもらってよいだろうか」

 社長が慎重な声でそう告げた。

 オレたちタークスは、当然事前に事の次第を聞いているが、彼らが社長の話を耳にしてどう判じるか…… それはまったく予想がつかなかった。

 ルーファウス社長は、ナイフとフォークを皿のはしによせ、おもむろに口を開いた。

 意識せずに彼のプレートを見たが、あまり口を付けた様子はなかった。

「神羅カンパニーは世界に対して大きな負債を抱えていると認識している。……そして、はからずも君たちに対しても、言葉にしがたい迷惑を掛けたのだと思う。まずはその点についてきちんと謝罪したい。……申し訳なかった」

 そういうと、椅子に座ったままであったが、彼は深々と頭をたれた。

 ……ああ、この人も大人になったなぁと感じる。

「そんでー? なんなの? 早く言ってよ。ってゆーか、ヴィンセントの薬のほう、もっと急がせて!」

 ぶぅぶぅ不平を口にするクラウドは……あまり成長してなさそうだ。

 

「少し長くなるが聞いて欲しい」

 そう前置きをすると、社長はあらかじめ用意していたレジュメを手に取った。

「……現在、見ての通り、ミッドガルは徐々に復興を果たしている。だが、まだまだ不完全であるし、まったく手つかずの地域も存在する」

 多少言いにくそうなのは、たぶんセフィロスに遠慮してだと思うのだが、図太いあんちくしょうに気遣いは無用だぞ、と。

「経済的にもまだまだだが、人民の心の安定と、社会の秩序が取り戻せていないのだ」

「そうですねェ、いちいちもっともだと感じるよ。立ち直りつつある神羅カンパニーが物質的な援助をしても、人の心を立ち直らせるのは容易な事じゃないからね」

 と口を挟んだのは、こまっしゃくれたヤズーだった。どこまでも痛いところを突いてくれる。

「そう、君のいうとおりだ、ヤズー」

「……それで?」

 と、セフィロスが先を促した。

「……一週間後、皇室の御方が、ミッドガルへ来られる」

「コウシツ? なにそれ?」

 という端的な質問は、無知なクラウド。

「もともと、ミッドガルを始め、こちらの大陸は、そもそもその血統の一族が統一し、今の呼び名があるのだ。……気の遠くなるほど過去の話だがな」

「あー、なんか教科書に出てたな、そういえば。でも、実権なんてないじゃん。どっかの国の『天皇家』みたいなもんでしょ?」

「……確かに、君主制ではないからな。いわゆる為政者とはいえない」

「そうだよね。だって、昔から、警察機関も行政も、形だけはあるけど、ほとんど神羅が仕切っていたもんね〜。形ばかりの政治家連中並べておいてさァ」

 クラウドの強烈な嫌みにも、社長はめげずに言葉を続けた。

 ……ああ、ツォンさんの人を殺せそうな眼差しが怖い。チョコボはまるきり気づいていないようだが。

「……そう。過去、我々神羅カンパニーは、さもおのれが為政者のごとく振る舞っていた。愚かなあやまちだ」

「よっく言うよ〜ッ! 本当にそう思ってんの? アンタが!?」

「……兄さん、まだ話の途中だよ」

 言いたい放題のクラウドに、いよいよツォンさんが気色ばみかけたが、ヤズーがヤツを宥めるのを見て静かに座り直した。

「で? 本題は?」

 セフィロスの促しで、社長がハッと気を取り直す。

「いや……失敬。つまり、確かに政治的な力はなくとも、民の象徴として皇室は尊ばれている。その皇室と、WRO、そして我々神羅カンパニーが協力して世界の再建に尽力するという意味会いで、近々三者会談を行うことになっているのだ」

 皆は黙したまま社長の話に聞き入っていた。

「そして、疲弊した人々に明日への希望を抱かせるためにも、三者会談はなごやかに、かつ華やかに行われなければならない。それだけの力が我々にあるのだと思ってもらうためにもだ」

「……ふぅん、アイディアとしてはなかなかいいんじゃない?」

 と偉そうに『ロン毛オカマ』が言った。よし、これからは心の中でそう呼んでやるぞ、と!

「ありがとう。だが、どこかの会議所に集まるだけではインパクトが足りない。皇室からは皇太子殿が来られるのだが、リーブ長官ともども、オペラの鑑賞会にご招待する予定だ。つまり、三者が非常に良好な関係にあると、出来る限りアピールしたい。それが人々の心の安定を促し、これからの社会へ希望を持たせる、ひとつの節目としたいのだ」

 ルーファウス社長は、面々の顔を見ながら言葉を続けた。

「オペラだけじゃない。初日は大通りのパレードも予定している。そして唯一焼け残った屋外美術巻の鑑賞。……そして会食」

「うっわァ、肩凝りそう。ご愁傷様」

 と嫌みっぽく言ったクラウドに、ルーファウス社長は厳かに言った。

「元・ソルジャー、クラウド。君に私の代役を務めて欲しい」

「ハァァァ!?」

 とクラウドが素っ頓狂な声を上げたのも、無理からぬ事だった。