〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<42>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 



「あ、どうも、スンマッセン! お待たせしました!」

 オレは超ダッシュで、皇太子殿とリーブが居るホテルの談話室へ駆け込んだ。

 オペラの開演がやや遅れるという報があり、夕食の時間がそれに合わせてずらされたためだ。

 厳重な警備をした(といっても表向きは雰囲気を壊す物々しさではない)帝国ホテルの談話室は、たぶん今、病院の次に安全な場所だと思う。

 俺はヤズーの容態を確認した後、すぐさまここに駆けつけた。

 途中、何度か本社に連絡を入れたが、やはり誰も出なかったのだ。レノがすぐに向かったはずなんだけど…… いや、時間を考えれば、俺がうるさいほどコールしていたときには、まだレノは本社に到着していなかっただろう。

 悪い方へ悪い方へ考えたくはないのだけど……

 

「……ルーファウス神羅……大丈夫か? 顔色が悪い……」

 皇太子殿は心配そうに俺に話しかけてきた。

 俺が居ない間に大分持ち直したのだろう。皇太子殿は美術館で別れたときより、ずっとしゃんとしていた。

「あ、大丈夫デス。それよりホントすいません」

「貴方がそんなに謝る必要はないだろう。……それより、彼の怪我の具合は?」

 まずそれが訊きたかったのだろう。皇太子殿は何のはばかりもなく、護衛官に扮していたヤズーの容態を尋ねた。

 おそらくリーブも同様に気になっていたのだろう。彼も耳をそばだてる。なんといっても今回の一件……ウチの家の連中が危険にさらされているのは、このお間抜けなWRO局長のせいなのだから。

「あ、ええ、すぐ奥の方に運ばれて行っちゃったから、よくわかんないんスけど……」

 そんなふうに前置きしてみせたのに、じっと俺を見つめる皇太子殿。

「容態が思わしくないのか、ルーファウス殿」

 ……この人、ホント、レオンに似てるよ。この直球さ。

「あ、いや、そう……背中の傷が思ったより深いみたいッス。後、頭打ってるんで、スキャンにかけるとか言ってました」

「そうか……背の傷というのはよくわからなかったな。ああ、彼は髪が長いから……」

 ぼそぼそと独り言を言う皇太子殿。

「ああ、でもね。命に別状があるとか、そーゆーコトはないッスから。あいつ、見かけの割には頑丈ですからね、コレ」

「…………」

「…………」

「あー、ふたりとも、そんなに深刻な顔しないで」

 俺はなんとか、皇太子殿の気を引き上げようとした。やっぱり、この人が落ち込むのはスジじゃないと思うし、カタチだけでも、これからの日程を楽しんでもらわなければならない。オペラハウスには著名人だけではなく、一般の者たちも同席するのだ。

 おまけに、開幕、『皇太子殿のごあいさつ』がある。

 しょげた姿で出られては困ってしまう。せっかくヤズーが身をもって彼らを守ってくれたのだし。

「えーと、これから晩ご飯だからァ。せっかくなんだから、いろいろおしゃべりして食べようよ。丸一日、堅苦しいツラ付き合わせてもつまんないじゃん」

 つい、素に戻って俺は思ったとおりのことを口にした。リーブに目配せされてから、ヤバッ!と思ったのだが、皇太子殿はまったく気づかないようだった。

「……そう……だな。ルーファウス神羅。君のいうとおりだ。残りの予定も少ない。せっかくなのだから、楽しめたほうがよい」

「うん、そう! んじゃ、のんびりディナータイムといこう!」

 俺はなんとか明るい声を出して、彼らを食堂へ誘導したのだった。

 

 

 

 

 

 

 皇太子殿とリーブ、それからよくわかんない、政治家だの芸術家だのが歓談している間に、俺はそっと中座した。表向きは、

『トイレ行ってきます!』

 的な雰囲気で。

 もちろん、ソッコーで本社に電話を入れる。病院からこのホテルに向かっている間中、何度もコールしたが誰も出てはくれなかった。ただ、セフィにそういったすべての状況を知らせてあるから……

 セフィなら、なんとかしてくれていると思う。カダやロッズのことも心配だが、なにより本社に居るヴィンセントは目も見えないし、しゃべることすらできない状態なのだ。

 

 ルルルルル……ルルルルル……

 

 ああ、頼む! 出てくれ、誰か……!

 そう願ったとき……

 

『……神羅ビル本社だ』

 という、無愛想な声……

 だが、聞き慣れたこの無愛想な物言いが、このときばかりは天使のささやきみたいに響いたものだ。

「セ、セフィ!? セフィだよね!?」

『ああ、アホチョコボか。そっちはどんな具合だ』

「それより、ヴィンセントは!? ずっと本社と連絡がつかなかったから……! もう、俺、どうしようかって……」

『子犬みてーにギャンギャン喚くな。オレ様がここに居るんだ。無事に決まってんだろ。……なぁ、ヴィンセント?』

 最後の一言はちょっと声が遠くなって……たぶん、傍らに居るヴィンセントに声かけしたのだろう。

「ガキふたりも無事だ。……しかし、あの化け物は何だ。おまえに話を聞いていたからよかったが……何も知らなければ、オレでも多少手こずったかもしれんな」

 セフィロスが偉そうに言った。

「そ、そっか、カダもロッズも大丈夫だったんだ」

『多少怪我あるが、話を聞く限りイロケムシほど重篤ではない。一応手当させるために病院送りにしておいたが』

 めずらしくも慎重な発言をするセフィロス。だが、この状況ならそのほうがよいだろう。

「そうか……うん、病院は安全だしね。むしろ俺も落ち着く。後はオペラハウスでの鑑賞会だけだし」

『……そっちの様子はどうなんだ、クラウド』

「あ、うん。見た限り皇太子殿は立ち直っているってカンジかな。……ヤズーのことを気にはしているみたいだけどね。リーブのおっさんはぶっちゃけどうでもいいし」

 俺の説明に一瞬黙って、セフィロスは深々とため息をついた。

『……ったく、おまえの報告は未だに修習生並みだな!』

「な、なんだよ、シツレーな! とりあえずこっちでは何の問題もないよ。今、晩餐会の最中でこれからオペラハウスへ移動すんの。DGソルジャーは出ていないし、招待客も無害な連中ばかりだ」

『……よし、ならばいい。だが、おまえも十分注意しておけよ。……もっとも、ネロはもう動ける状態じゃなかろうが』

 俺はセフィロスの言葉に即座に反応した。ずっと気になっていたことだったから。

 ぎゅっと受話器を握りしめ、だが背後の人の気配に注意を向けつつ、セフィロスに問い返した。