〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 『GAME START!』

 

 オレたち、三人が廃坑に飛び込むと、背後の錆びだらけのプレートに、ふざけた文字が浮かび上がった。

  

 ウィーン

 という起動音が耳に入る。

 

「悪ッ趣味〜!」

「まったくだねェ、不愉快な。あちらさんとしてはサバイバルゲームってつもりなんじゃない?」

「ケッ、なんとでも好きにすりゃいい。おまえら、先を急ぐぞ。いつ敵が出てきても応戦できるように気を抜くなよ! ペンシルライト点けておけ」

 ふざけた挨拶に、文句を垂れるふたりに注意を促し、オレは先頭を歩き始めた。

 三人が横並びで歩ける程度の広さがある。天井も長刀を抜くのに不自由がない程度の高さを有していた。

 わざわざこの余興のために、放置された地下道を堀り直したのならお笑いだ。

 そんなことを考えているときであった。

  

 ギーギチギチギチ!

 キシャアァァァァ!

 

 頼りない灯りの中、四方の壁から異形の輩が飛び出した。

 ……こいつらもDCなのだろうか?

 力瘤の浮いた不自然に長い腕、顔はギアのようなもので被ってあって、まともに確認することもできない。

 気色の悪いうなり声をあげて、両腕に生えた刃で攻撃してくる。

 

「なに、こいつら! キショッ!」

 あからさまに不快を言葉に表すクラウド。

 だが、オレが剣を抜く必要も無かった。

 数発の銃声とクラウドの大剣が、八人の化け物を灰燼に帰した。

「セフィ、なまけないでよ」

 などと、偉そうに宣うクラウド。

「ケッ、この程度の連中、わざわざオレ様が剣を抜く必要もないだろ。雑魚の処理は任せたぞ、クラウド」

「ちょっ……えらそーに! 俺、お腹減ってんのッ!」

「兄さん、さっきチョコ食べてたじゃない」

「育ち盛りだもん。あんなんじゃ足りない。ヴィンセントのビーフシチュー食べたい」

「あー、俺も食べたーい!」

「ヤズー、ダイエット中なんでしょ」

 くだらん話をしつつも、オレたちの足は廃坑の奥を目指す。

 澱んだ湿り気のある大気、蒸された苔のような匂いが、鼻腔に忍び込んでくる。

 よくもまぁ、この不快極まりない環境で、シチューだなんだと言って騒げるものだと感心する。

 もっとも、ヴィンセントの作るそれは、いくらでも食えるほどに美味いわけではあるが。

 

 

 

 

 

 

 ギーギチギチギチ!

 キシャアァァァァ!

「あっ、またッ!」

「しつこいねぇ、いったいどこに潜んでいるんだか」

 天井と壁から、異形の者が飛び出してくる。

「おい、ひとり生かしておけ」

 そう命じると、ヤズーとクラウドは、あっさりと連中を薙ぎ倒し、そのうちのひとりの襟首を引きずりあげた。

「はい、セフィロス」

「そのまま持ってろ、イロケムシ。……おい、貴様、聞きたいことがある」

 後半の言葉は、半死半生の化け物に向かって告げた言葉だ。

「………………」

 死んだ魚のような目がオレをどろりと眺める。人質のことは何を置いても優先だと考えているが、ならばこそ、確認しておくべきことがある。

「……ヴァイスはどこだ? ネロと一緒か?」

「………………」

「この道の行き着く先に、ネロもヴァイスも居るんだな?」

「………………」

「おい、答えろ!」

「……ギィギィ……」

「……!! ヤズー、離れろッ!」

 ダンと三人が三方に飛び退く。

 その瞬間、詰問していた男の肉体が弾けた。ベシャベシャと肉片が周囲の壁に散らばりへばりついた。

「チッ……くそ!!」

「もう、キショイ!」

「あー、やだ、ビーフシチュー食べられなくなる〜」

「くそったれ! こいつらの動きは完全に掌握されているらしい。話を聞き出すのは難しそうだな」

 溜め息混じりに、オレは舌打ちした。

「ウソ、監視カメラとかついてんの? マジで?」

「違うでしょ。この化け物たちとネロが『繋がっている』っていう意味じゃない?」

「……そういうこった」 

 ヤズーの説に頷くと、オレはふたたび奴らを、「行くぞ」と促した。

 

 やや広い場所に出るまでに、DCだかわけのわからん化け物だかの襲撃を5,6回は受けた。

 もっとも、敵兵連中はクラウドとヤズーまかせで充分しのげる程度の能力で、こちらとしては大した労力を払う必要はなかった。

 クラウドのガキに至っては、脱力しまくりで、

「手応えないねー」

 などと、ぶつぶつ文句を言うほどであった。こいつは、ヴィンセントのためにと、バリバリにやる気をみなぎらせて突入した故、よけいに拍子抜けしたのだろう。

 だが、ネロの『悪趣味』が炸裂したのは、まさにこの後……奇怪な兵隊たちを薙ぎ倒した後のことであったのだ。

 

 やや広めの空間に抜け出ると、オレたちは持参したライトで周囲を確認した。

 到達した場所がぽっかりと広い空間だったので、奥の方に洞穴が続いているのに気づけなかったのだ。

「ちょっと行き止まりってことはないよな、セフィ。道、別れてなかったし」

「セフィロス、兄さん、ほら、あそこ。……大丈夫、ちゃんと繋がってるみたい」

「チッ、ったく手間のかかるッ」

「しかたないでしょ、店長さんのためだもの」

「そーだそーだ」

「うるせぇ! オレの言うことにいちいち逆らうなッ!」

 つい苛ついて言い返してしまう。

 さきほどから、ひどく嫌な気分になっている。進めば進むほど……つまり人質の囚われた場所に近づこうとすればするほど、虫酸が走るような不快感に唾液を嚥下する。

 焦燥……なのだろうか?

 もっとも、店の支配人とヴィンセントという、オレにとっては関わり深い人間たちのことなのだから、それなりの焦燥感に悩まされるのは当然のことなのだが。

 ……理由の解らない不安が、黒雲になってオレの内奥を覆い尽くすかのようであった。

「なーに、いらいらしてんだよ、セフィ」

 口をとがらせてクラウドが文句を垂れる。

「まぁまぁ、兄さん。恋人捕まってるんだから、気持ちはわかるでしょ」

「そりゃそうだけどねー。……今頃、ヴィンセントとカダ、何してるかなァ〜……」

「……つくづく兄さんって、自分の恋愛のことしか眼中にないね」

「ちょっ……なんだよ、そりゃやっぱそーでしょ? 恋人が一番大事でしょ? 同居家族よりまず恋人でしょ? 結婚したら実両親より配偶者が一番。これ常識」

「まぁ、兄さんはそーだよね。間違いなく」

 ぎゃあぎゃあと言い合いをするボケナスどもを前に、人選を誤ったかと吐息する。ただでさえ、囚人のアイツとヴィンセントのことで苛立っているのに。

 ヴィンセントはオレに向かって、「君の恋人に申し訳が立たない」だの「どうか、君の恋人を救い出してくれ」などと言っていた。

 そりゃ、あの野郎のことだ。寝る関係=恋人同士なのだろう。

 ……まんざら間違っているわけではないが……クソッ! あの純粋培養男が!!

「ヴィンセントは素直でやさしくて思いやりが在りすぎてさ〜。みんなに遠慮しちゃうから、これくらい俺が言っておかないとね〜」

「兄さんは言い過ぎ。いつもヴィンセント、困ったような顔してるじゃない」

「アレは喜んでんの。照れ隠しなの」

「ものすごい飛躍した解釈だよね、それ」

「ったく、うるさいと言っているだろうッ! ボケナスどもッ! ほら、さっさと先に……」

 オレはもう一度、クソ煩いガキ共を怒鳴りつけ、先を促そうとした。

 ……だが、そのときには、すでに争いは終結していたのである。

 ヤズーとクラウドの目線は、ごつごつと張り出した岩壁の一点を見つめていた。