〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<42>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、ここッ!」

 ベルベッドナイトメアを片手に、ヤズーが叫んだ。

 漆黒に銀とオニキスの文様が刻まれているそれは、もとの瀟洒な印象はなく、すでに土にまみれてドロドロだ。ついでにいうなら、彼のひとつに括った長い銀髪も泥と埃で汚れきっている。

 もっともそれはヤズーに限ったことではない。

 セフィロスも、そして俺自身も、浮浪者同然の有様になっていよう。

 

 カンカンカン!

 

「ね!? 音、違うでしょう? 多分、薄い鉄板かなんか敷いてあるんだと思うッ!」

「よしッ!」

 頷いたセフィロスの言葉に促されるように、俺はポケットに入れて置いたジッポを擦った。

 緩やかだが、ライターの火が一定の方向に揺れた。

「ねぇ、これ……!」

「……風が通ってるね、兄さん……」

「どうやら、頭の上は廃駅のようだな。掘ったまま放置した穴を漆喰で埋めずに板を渡しただけなんだ。……手抜き工事が幸いしたな」

「よけてて。もうちょっと泥を落としてみる。……刀で斬れるかな?」

「……銃の方がいいだろう。弾の余分はあるんだろ」

「もちろん。決戦覚悟だから」

 そういうと、ヤズーは手早く天井の泥を払い、銃を構えた。このメンバーで一番拳銃の扱いに優れているのはヤズーだったから。

 

 

 

 

 

 

 ガゥンガゥンガゥンガゥン!

 

 闇の中を劈く銃声。

 続けざまの連射に、土塊や鉱石が落ちてくる。

 目や口を開いていると、空を舞うそれらが入り込んできそうで、俺は必要以上にグッと口を閉じていた。

「セフィロス、人ひとり通れる形に印を付けた。……押し上げられるかな?」

 見れば、天井の鉄板が、まるで型抜きのように、弾丸の跡が着いている。力任せに押し上げれば、それこそその型のまま抜けそうな感じだ。

「よし、どけ。オレがやる」

 そう言って、セフィロスが進み出た。

 

 ……ああ、ヴィンセント、ヴィンセント……!

 お願いだから無事でいて……!

 カダージュを恨んではいけないのだろうけど……いや、悔いるべきは、やはり自分自身の油断に対してだろう。

 セフィロスがヴィンセントに「おまえが来ない方が安全なんだ」と告げたとき、なんて酷い言い方するんだよ!と頭に来たけど、事実、セフィロスのセリフは正鵠を得ていた。

 ネロたちは、支配人さんをヴィンセントだと思ってさらったのだから。

 それが「偽物」だとバレたなら、十中八九、彼の命はなかっただろう。

 もちろん、頭のいいヴィンセントのことだ。セフィロスの物言いを残酷に感じたとしても、正論だと理解した……と思っていた。

 まさか……まさか、エンシェントマテリアがヴィンセントの体内に取り込まれたままであったなんて……!

 それはヴィンセント自身が、カオスに引きずられないよう制御装置としての役割を果たしていたという話しだった。でも、あの一件の後、ヴィンセントは自らの意志でカオスを制御……つまり『従える』ことに成功したのだと言っていたのだ。

 だから、俺は、もはやヴィンセントにエンシェントマテリアは必要ない……つまり、それはもう、彼の肉体に留まっては居ないと、なんの根拠もなく勝手に信じ込んだ。

 セフィロスが、ヴィンセントにエンシェントマテリアを預からせてくれと申し出、彼が手渡した偽物を、一瞬たりとも怪しいとは考えなかったのだ。

 

 

 ああ、どうして……どうして、俺はいつまで経ってもこうなのだろう。

 肝心なときに、最愛の人の心を読むことができない……ヴィンセントなどは、黙っていても俺が何を考えているのかすぐにわかってしまうのに……

 

 健康な肉体をメスで切り裂き、体内からエンシェントマテリアを摘出する……?

 だいたい、体内って言ったって、「どこ」にあるのか、ちゃんとわかるものなの!?

 もし、大事な臓器の近くとか……最悪、その中に取り込まれているようなら……? 万一、万一……だけど、エンシェントマテリアが、ヴィンセントが生きていく上で、絶対に必要なものだったとしたら……!?

 それを奪われた瞬間、ヴィンセントの肉体は……

 

 バカ!

 何ですぐよくないほうへ、考えるんだ、俺は!!

 いつもセフィに言われているじゃんか! 最悪の状況を考えて、それに備えるのは重要だが、ただの「悪い想像」だけならば、無意味だと……むしろ、判断力を誤らせるマイナス要因にしかならないと……

 

 ヴィンセント、ヴィンセント……!

 

 どうか無事で居て!もう、俺、ワガママとか言わないし……! 

 とにかく生きててよ……もう、アンタのいない人生なんて考えられないんだから……! 俺だけじゃないよ。ヤズーもカダージュもロッズも……あのセフィだって、アンタのことをかけがえのない人だと思ってる。ちょっとムカツクけど……でも本当のこと。

 だから、どうか無事で…… 

 会って『クラウド』って……俺の名前呼んで……頬にキスして……!

 目の奥がジンと熱くなってきて、俺はあわてて頭を振った。