とある日常の風景。 
〜コスタ・デル・ソル with 銀髪三兄弟〜
<昼の部>
 クラウド・ストライフ 
 
 

 

 

 

11:00

 

 海到着。

 というか、目の前が海だから、ここは。

 しかし、せっかくメシの用意までして来たのだから、人の少ないスポットまで歩いていく。俺はここに住んで一年近くになるから、よく知っているが、最近来たばかりの三人もずいぶんとコスタ・デル・ソルに詳しくなっている。

 

「なんだ、けっこう温かいじゃん。これなら泳げるよ」

 カダージュが言う。興味のあることには積極的な奴なのである。

「そうだね、泳ごう泳ごう!」

 ロッズが意気投合した。

 ふたりはちゃっかりズボンの下に、水着を着ているらしかった。

「ヤズーも行こうぜ!」

「ヤズーも行こう行こう!」

「あー、俺は水着持ってきてないから。ここで待ってるからふたりで行って来い」

「兄さんは?」

「ああ、俺もいいよ。ってゆーか、まだ3月だぞ。お前たち元気過ぎるよ」

 俺はそう言ってやる。まぁ、寒くはないが敢えて水に入りたい気候ではない。

 水の誘惑に勝てないんだろう、

「冷たい」だの「やっぱ、寒くない?」だの言いながらも、ガキふたりは、海に入っていってしまった。

 

11:40

 なんとなくふたりで取り残される

 ヤズーはぼんやり座ったままだ。

 ロッズは万年元気男だし、カダージュはテンションの低い時と高い時のギャップが激しい。今など、ロッズ以上にはしゃいでいる。

 やはり、ヤズーが一番つかみどころがない。騒ぐこともないし、機嫌の悪いときのカダージュのように、黙りこくったりすることもない。



 

12:00 

「ねぇ、兄さん」

 抑揚のない声で、めずらしくもヤズーのほうから、話しかけてきた。他のふたりはことあるごとに、「兄さん、兄さん」と騒々しいのだが。

「うん?」

「一緒に行ってもよかったのに」

「え? 何がだ?」

「水遊び。カダなんて、虫の居所が悪かったら、ふてくされてるところだよ」

「いや、だって、寒いだろ。俺苦手なんだよ、暑かったり、寒かったり」

「ふぅん。俺はあんまり感じないんだ」

 ヤズーが言った。そういえば、今、俺はノースリーブを着ているが、彼は長袖の服に黒のジーパンを履いている。

 こうして日差しの強い屋外に出ているときもそうなのだ。しかし夜、冷えてきてからも同じような格好をしている。カダージュなど、すぐにクシャミをしたり、寒いとぐずったりするんだが。

「ヤズーって、あまりしゃべらないよな」

「そうかな。ああ、カダがよくしゃべるから。ロッズもうるさいし」

「ああ、あのふたりといるとそうなっちゃうかもな」

 思わず俺は吹きだした。それにつられてたように、ヤズーも笑った。

 普段、無表情の彼が笑みを浮かべると、そのギャップのせいか、ものすごく新鮮に感じる。

 けっこう沖の方まで泳いでいってるカダージュが、こちらに向かって手を振っている。俺も応えてやる。しかし、カダージュはひたすら手を振り続ける。ヤズーが軽く手を挙げると、ようやく納得したように、おとなしく泳ぎはじめた。

 

「なんか ヤズーってさ、あの中だとお母さんポジションだよな、ああ、ヘンな意味じゃなくて」

「ええ? そう?」

「ああ、なんとなく」

「そうなのかなぁ……」

「だって、飯とか作ってやってるし」

「まぁ、自分も食べるからね。外に出てるときは外食が多かったよ」

「それに掃除とか洗濯とか」

「なんかさ、想像しちゃうんだよね。綿ぼこりとかみると。その中に、カブトムシの幼虫みたいなのが、うじゃうじゃ巣くってるようなイメージ……」

「うげッ……」

「ね、気持ち悪いでしょう?」

「想像するからだよ、けっこう神経質?」

「自分でそう思ったことはないけど、そうなのかもね」

「セフィロスもけっこう潔癖だったよ。部屋とかピカピカでさ……まぁ、俺は神羅時代のことしか知らないけど」

「……兄さん、セフィロスの話するの、嫌じゃないの?」

 ヤズーが俺の顔見て、不思議そうにそう言った。

「別に……まぁ、いろいろあるけど、セフィロスはやっぱりセフィロスで……思い出の中にも居るから」

「ふぅん……よくわからないや」

「そうかもな。俺も自分で言っててそう思うし」

 

12:30

 なんとなくヤズーとセフィロスの話をし始める。

 「現在」のことについて触れるのは、さすがにしんどいので、過去の話だけ。

「セフィロスって潔癖なんだ。ふぅん……まぁ、英雄とか呼ばれてたわけだし、完璧主義だったのかな」

「うん。やっぱカンパニーでの待遇も破格だったと思うし」

「兄さんは?」

 うっ……聞かれたくないことを。

「……いや、俺なんてただの一般兵だよ。結局ソルジャーになれなかったし」

「そんなに強いのにね」

「そんな事ないよ。いつも誰かに助けられてる」

 俺は言った。事実だ。

「……兄さんは、昔のセフィロスのこと、よく知ってるんだね」

「そうだな。ミッションで一緒になったこともあったし、俺、すごくあこがれていたから」

「そうなんだ」

「ああ。田舎から出てきてさ。セフィロスみたいなソルジャーになりたいって思って……」

「ふぅん」

「神羅時代に、ザックスってヤツが友だちでさ。そいつ、セフィロスとけっこう親しくしてて、なんとなく俺も覚えてもらったようなカンジかな」

「……そんなことないんじゃない?」

「え?」

「だって、セフィロスって、ものすごく兄さんのこと、こだわってるよ。執着してるっていうか……」

「そうかな……どうなんだろ……」

「そうだよ。俺、わかるもの。……神羅にいたときは、仲よかったんだね」

「……う〜ん……そうだな。けっこう側にいる時間、多かったかも」

「……好きだった?」

「え?」

「好きだったの? セフィロスのこと」

 世間話の続きのように、素で問いかけてくるヤズー。三人の中では、髪のせいか、最もセフィロスに似ている雰囲気を持つヤズー。そんな彼にセフィロスのことを訊ねられるのは、なんとなく不思議な感じだ。

「……好きって……どうだったのかな……」

「…………」

「ああ、あこがれのほうが強かったから……かまってもらえると、有頂天になってたかもしれない」

「ふふ、なんか兄さん、可愛いね」

「子どもだったからな」

「今、つらい?」

「……おまえにそんな風に聞かれると……少し困るかな」

「そうだよね、ごめんね」

 また、微笑を浮かべてヤズーが言った。

「いや、違うよ。そういう意味じゃなくて。……そうだな、正直、いろいろ考えることはあるけど、俺は……俺のやり方で、やっていくよ。セフィロスとも、おまえたちとも」

「そう……そうだね。兄さんらしく……ね」

「ああ」

「ところでさ。あのウチの人、いつ帰ってくるの?」

 ……え、な、なに?

 ヴィンセントのことは、なにも言っていないはずなのに。

「え、それって……」

「仲間だったんでしょう。もとタークスの人」

「……あ、ああ」

「ガンマンなんだよね」

「そうだ」

「ちょっと腕比べしてみたいカンジだ」

「おい、ちょっ……ダメだぞ! ヴィンセントにはそんな気持ちはないんだからな」

「ふふふ」

「ま、今回は彼が帰ってくる前に退散するからさ」

「……別にかまわないが……」

「かまわなくないでしょ。さすがに嫌われると思うよ」

 くすくす笑いながら、ヤズーが言った。笑うと、年齢よりも少し幼く見える。

「……そんなこと、ないと思うけどな」

 俺は言った。

 

「兄さ〜ん! ヤズー! お腹空いた〜ッ!」

「あ、僕も! ちょっと待てよ、ロッズ! 先行くな!」

 騒々しい二人組が戻ってきて、会話は中断された。

 

14:30

 昼食。

 朝が遅かったから、この時間になる。昼飯は手製のサンドイッチだ。

 結局ヤズーが作ってくれた。もちろん、俺たちも手伝ったが。ああ、カダージュは手伝わせていない。パンで遊び出すからだ。

 カダージュが一生懸命食べている。そんな顔つきは年相応で可愛い。

 やはり骨格も三人の中で一番幼い。線の細さはヤズーもそうなのだが、十代のカダージュは少年独特のもろさを感じるところがある。

 ……ああ、こんな物の言い方をしていると、本当に年長者になってしまった気分だ。

 めちゃくちゃ、ヴィンセントに会いたくなってきた。あの鈍くささ、爺臭さがなつかしい……

 

「ほら、カダージュ、ゆっくり食べろ」

「ロッズ、こぼすな。手を拭けよ」

 ポットから紅茶を注いで、カダージュに渡し、マヨネーズで手を汚したロッズにナプキンをとってやる。

 やはりヤズーは面倒見がいい。