とある日常の風景。 
〜神羅カンパニー with クラウド〜
<午前の部>
 
 セフィロス
 

 

 

 

9:30

「身体はほぐれたか、クラウド」

「はいッ」

「緊張するな、力を抜いて楽にしろ」

「え……は、はい」

 いよいよ、リミットブレイクの練習に入る。

「リミットゲージは、攻撃を受けるごとに徐々にたまっていく。戦闘で窮地に立たされたとき、十分威力を発揮できるよう発動の制御を行わねばならない」

「は、はい」

「では、これを」

「……?」

「これを飲めば、気を集中するだけですぐにゲージがたまる」

 素直なクラウドは、言われるがままに私の差し出した薬を飲みこむ。即効性のあるそれは、あっという間に体内をめぐり、効能を示す。

 ザックスがうろんな表情でこちらを見ているが、別にかまうことはない。つらそうならば、後で処理してやればそれで済む。

「……?……はぁはぁ……なんか、暑い……」

 それはそうだろう。この薬の効き目は迅速だ。

「セ、セフィロス……?」

「リミットゲージがたまってきているのがわかるか?」

 こくりと頷くクラウド。

 色白でもともと肌が薄いのだろう。すぐに頬が上気し、呼吸が速くなる。

「では、剣を構えろ」

 言われるがままに身体の前で大剣をかまえる。

 私は小柄な身体の後ろに回り込むと、柄を握るクラウドの手に自分の手を添えた。

「セフィロス……?」

「そのまま意識を集中しろ。身体の熱を静めずに、心を剣に向かって解放してみろ」

「……剣に……」

「そう……私がついている。心配するな」

 背後からそっと耳朶にささやきかけると、ビクリと身を震わせる。興奮剤が思いの外、効いてしまっているようだ。

 クラウドのリミットゲージがブレイクする。カッと私の手に熱が伝わる。

「超究武神覇斬ッ!」

 熱の固まりが、クラウドの剣を覆い、次々と繰り出される目にも留まらぬ強烈な、斬撃の嵐。

 ……どうやら、ブレイク技のコツをつかめたようだ。

 

 

10:30 

「はッ……あ、はぁ、はぁ、はぁッ……」

 肩で荒い息を吐き、大きな青い瞳にはうっすらと涙がたまっている。

「いいだろう。その呼吸を忘れるな、クラウド」

「は、はい! はッ……はぁはぁ……ッ」

「よぉ、やったじゃんか!クラウド、今のマジすごかったぜ!」

「ほ、ほんと? ザックス」

「おうよ!」

「セ、セフィロス……?」

 すぐさま期待に満ちた瞳で、俺の顔を見つめるクラウド。

 私はいつもより、数段優しげな笑みを浮かべ(たつもり)、鷹揚に頷いて見せた。

「やったぁ!」

 クラウドはめずらしくも、子どもらしく喜んだ。彼は普段、あまり感情を表に現さない。同僚に子どもっぽいと言われるのが嫌らしいのだ。

 

10:40

「やったな、クラウド!」

「マジでかっこよかったぜ!」

 同僚の少年たちも一緒に喜んでくれている。やはりそういった様子を見るのは嬉しい。

「あ、ああ、サンキュ……」

 

「よーし、クラウドも仕上がったことだし、そんじゃ今日はこれで解散だな。ちゃんと疲れとっとけよ」

 ザックスがパンパンと手を叩いた。

「クラウド、すごい汗だぞ?」

「だいじょうぶか?」

「あ、俺、タオルすぐ出るぞ」

「あ、ああ、大丈夫だ。俺、ちょっと頭冷やしてくから、先、戻ってくれ」

 クラウドは同僚たちにそう言い含めている。それはそうだろう。このままの状態で、皆と居るのは拷問に等しいだろう。

 友人たちがいなくなると、クラウドはホッと息を吐き出した。

 

 

10:50                        

「大丈夫か、クラウド」

 俺が腕を差し出すと、クラウドは躊躇しながらもつかまってくれた。

「あ、ああ……まだ薬、抜けないみたい……」

「そうだろうな、飲み慣れていないだろうし」

「う、うん……リミットゲージ、すぐたまるのはありがたいけど……」

「いいから、じっとしておけ」

 そういうと、俺は邪魔者を振り返った。

「後は私に任せて先に戻れ、ザックス。確か、ハイデッカーに呼ばれているんだろう」

「おいおい、英雄。アンタな、真っ昼間からよからぬこと考えてんじゃねーだろーな」

「だったら何だ。邪魔だ、さっさと帰れ」

「ちょっ……セフィロス!」

 クラウドが抗議の眼差しを向ける。そんな潤んだ瞳でにらまれても困るのだが。

「しかたねぇ野郎だな。あんま無茶してくれんなよ」

「私がクラウド相手に、何の無理を強いるというのだ」

「セフィロスッ!」

「へいへい、じゃ、クラ。先に帰ってるからな」

「さっさと行け」

 俺はしっしと無神経なデカブツを追いやった。

 私たちの関係は、知る者ぞ知る、公認のようなものなのだから、そんなに必死に隠さなくてもいいと思うのだが。