〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<12>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「クラウド……ちゃんと食べないと……」

 セシルがそっと俺の肩に触れた。

 ヴィンセントみたいに、やさしく気遣ってくれる彼。 

 ……でも、俺なんて、そんなにやさしくされる資格はないんだ。

「食欲がないなら、スープだけでも飲んで。身体が保たないよ」

「…………」

「クラウド……?」

「……メン ……ゴメンッ!」

 円座になって食事をする中、俺はその場に両手を着いて謝った。こうなってしまったのは俺の責任なんだから。

「よせよ、クラウドが悪いわけじゃないだろ」

 ジタンが床に着いた俺の手を引っ張った。

 彼もセフィロスのせいで怪我をしている。細い腕にまかれた包帯が痛々しい。

「……俺のせいだ…… 俺のせいで……ティーダが……」

「よせって。誰もそんなふうには思ってねーってば!」

 少し苛立ったようにジタンが言った。

「でも……」

「おまえのせいではない。むしろ、俺の油断が招いた結果だ」

 四角四面の物言いで口を挟んだのは、レオン……もといスコールであった。

「なんでよ…… スコールは……」

「だが、今は謝罪し合ったりという場合ではないだろう。まず一番最初にやらなければならないことは、腹ごしらえをすませ、休息をとり、体力が回復した時点で、ティーダを救出しに行くことだ」

 まるで、『ティーダ救出計画表』を読み上げるようにスコールが言った。

 こんな場合なのに、つい笑いがこぼれてしまう。それはジタンやセシルも同様だったのだろう。彼らもこわばった頬を緩ませた。

 スコールはすごい。

 無愛想で人の気持ちなんかまるで気にしてないように振る舞っているのに、だれよりも皆の心に配慮している。俺なんてどれほど責められてもおかしくはないのに、まったくそんな素振りはみせない。

「……クラウド」

 そのスコールに声を掛けられて、ハッと顔を上げる。

「さっき、ヴィンセントという人がセフィロスを心配してと言っていたが……」

 ああ、そうか。

 その話……ヴィンセントのことはスコールに話したけど、セフィとヴィンセントとの関係についてはまったく触れていなかった。

「……その、不躾にすまん。だがもし聞いていいのなら……」

「ううん。ゴメン、気を遣わせて。全然かまわないんだよ」

 そう前置きをして、言葉を続けた。

「くわしく説明すると長くなっちゃうから、アレなんだけどさ…… セフィロスがあんなふうになっちゃったのは、彼だけの責任じゃないんだよ。いや……むしろ、彼の立場ならあたりまえっつーか……」

 要領を得ない俺の説明を、皆真剣に聞いてくれた。

 

 

 

 

 

 

「……ってわけでね。セフィロスは実験的な生命体だったんだ。ヴィンセントとセフィロスの関係はさっき話したとおり。だから、ヴィンセントはすごくセフィロスのことを心配している。そして大切に思っているんだ。それこそ彼のためならなんでもしてやろうって……考えてると思う」

「……なるほどな」

 スコールは静かに頷いた。

「……セフィロスさんもつらかったろうね」

 ヴィンセントに似たセシルに言われると、胸が苦しくなる。

 そう、セフィロスは何も悪くはないんだ。生命を弄んだ神羅カンパニーが、諸悪の根源なのだ。

 でも……だからといって、セフィがなにもかも壊そうとするのを放ってはおけない。

 何の罪もない一般人を、結果的に手に掛けてきたのは紛れもない事実だ。だからこそ、かつて俺たちはセフィロスの行動を止めようとした。

「……でもよ。ティーダは放っておけないぜ」

 ジタンが言った。

「それはもちろんだ。セフィロスにどんな事情があっても、俺たちの仲間を手に掛けるのは止めなければならない」

 と、スコール。当然だ。

「ね……あのさ……」

 俺はずっと疑問に思ったことを口にした。

「あのさ…… この世界で倒された相手はどうなるの? もし、本当にセフィを手に掛けたら……彼はどうなるんだろう? ……現実の世界でも死んじゃうとか……そういうことはないのかな?」

「……それはよくわからん」

 スコールは困惑した様子で頭を振った。

「俺たちはまだ自分の因縁の相手と、直接接触したことはないし…… 『影』は何度も倒しているのだが」

「そっか……そうなんだ」

「フリオニールたちとははぐれてしまったけど、彼らも僕たちと一緒にいた頃は、まだ……だったよね」

 と、セシル。

 どうやら、『影』ではなく、直接本体と接触したのは俺が初めてらしい。

 ……まったく、どうしてこんなことばかり、一番乗りなんだろう。

 俺の深いため息をどう感じたのか。スコールは話は終わりというように立ち上がった。

「……情報交換は、こんなところだろうな」

 空になった食器を下げ、スコールがまとめた。

「もう、夜も遅い。……今夜はこれで休むことにしよう」

 皆が一様に頷く。もちろん、俺にも異論はない。

 疲れた……もう、本当に疲れていた。

 ギシギシと軋む身体……いや、それよりも頭が痛い。

 きっと俺が参っているのに気づいているのだろう。スコールは皆が風呂を済ませ、部屋に引き取っていっても、俺の側を離れなかった。

 そしてやや強制的に寝室に連行されたのだ。

『とにかく寝ろ。眠れなくても横になれ』

 無愛想な気遣いに、こぼれそうになる涙をごまかした。