〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<22>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

「……なッ!?」

 セフィロスの声が、俺の耳元で響いた。

 俺は彼の左腕担当であったから。

「……貴様ら……ッ!」

 左利きのセフィロスは、長刀を左軸に構える。俺は渾身の力を振り絞って、彼の腕を捉えた。

 武器を振るえなくさせれば、さすがの銀色オオカミでも捕獲可能だ。

「放せ……ッ! おまえたちに用はない……!」

「ところがオレたちにはあるんスッ!」

 ティーダが叫んだ。

「なんだと、この騒々しい子供が……!」

「オレはもう子供じゃないっすよ! この前も訂正したはずッス!」

「放せ、この……!」

「うわわわッ!」 

 さすがセフィロス。

 見た目は細身だが、腕力は尋常ではない。ティーダのへばりついている右腕を、力任せにグンと振り切る。

「ティーダ、危ないッ!」

 打ち合わせ通り、一歩引いていたクラウドだったが、吹き飛ばされそうになったティーダをかばうように、上から抱きついた。

「……クラウド……!」

 怒りを噛み殺すようなセフィロスの声。

「セ、セフィ……! ごめん! で、でも、こうでもしなきゃ、話聞いてくれないじゃん……!」

「おまえの戯言など聞きたくもない……!」

「そんな……」

 俺は、半身を使ってセフィロスの動きを封じ込め、その手から強引に長刀を奪った。

 クラウドから聞いたのだが、マサムネという銘の逸品らしい。

「セフィロス。ここまでだ」

「…………」

「俺たちは話をしたいだけなんだ。……クラウドに非道いことをしないでくれ」

 俺は彼の目を見て、そうくり返した。

 

 

 

 

 

 

「あ、セフィロスさん、お砂糖いくつッスか?」

「…………」

「コーヒーより紅茶派ッスか? あ、もしかして、腹減ってます?」

「…………」

「……ティーダ、おまえ、しつこいんだよ! セフィロスさん、ウザがってんだろ」

「んだよ、ジタン!」

「どけよ、ティーダ。あ、あのッ!晩飯の用意ができました! これはスコールの自信作で……」

「…………」

「ジタン、ティーダ。あまり騒々しくすると、セフィロスさんが疲れてしまうだろう? 邪魔にならないように、少し離れていたほうがいい」

「…………」

「……セフィロス。食事が済んだら風呂に入ってくれ。身体が暖まるし、気分も落ち着くと思う」

「……ちょっと待て」

 先刻から黙りこくっていた彼だが、ここにきてようやく口を開いてくれた。

「……貴様ら……いったいどういうつもりなんだ」

 ひどく鬱陶しげなセフィロスの声。

 怖いくらいに整った美貌が、胡乱な表情を映し出している。

「いや、アレ、だから…… ほら、せっかくセフィロスさん来てくれたんスから、みんなで歓待しようと……」

 ティーダの言葉は尻つぼみに消えてしまう。セフィロスが水も凍る冷ややかさで睨め付けたからだ。

 皆、どうにも、緊張が解けなく、物言いも態度も普段と異なる。

 当然、この場所にセフィロスが居るからだ。

 カオス側の人間が……ということではない。『セフィロス』という人物のオーラが周囲の人間にそれを強いる。

 たとえば、ジェクトのような人物…… 誤解を恐れずに言うのなら、野蛮で気さくな人間なら、こうはならない。

 セフィロスは、敵方だの何だのと言う前に、個体として、いっそ空恐ろしさまで感じさせるほどに整った容姿を持っている。

 切れ長の双眸、思いの外長い睫毛、細く通った鼻梁…… ティーダではないが、肌の色はまるで白雪のようだ。その対比で口唇はやや赤みがかって見える。

 本人にその意識は無かろうが、なんといえばよいか…… あまりにも人離れした艶麗さで、衆目を集めてしまう。

 俺など、未だに直視するのにためらうほどだ。

 

「……あんなバカバカしい作戦で、この私を捕縛したくせに、この扱いの理由がわからない。おまえたちは本当にコスモスの戦士とやらなのか?」

 ふぅと吐息すると、低くつぶやいた。

「……望んでこの世界に呼ばれたわけではないが、コスモス側の人間であるのに間違いはなさそうだな。倒すべき相手がカオスに着いているのだからな」

 俺はそう答えた。他の連中は、そわそわと落ち着かず、上手い受け答えが出来そうになかったから。唯一、普段と大差ない態度で居るのはセシルくらいだろう。

「そうか。ならば、早く為すべき事をしてはどうだ、眠れる獅子よ。私の相手はクラウドだ。おまえには別の相手がいるだろう」

「そうだ。あの魔女は必ずこの場所で始末する」

「……では、すぐにでも赴くが良かろう。私の事にかかずらっている時間はないはずだ」

「……クラウドは大切な友人だ」

 俺は強い口調でそう言った。側に居たクラウドが、頬を染めてこちらを見る。

「俺の場合とは状況が異なる。クラウドはアンタと闘いたくないと言ってるんだ。アンタの態度に彼はひどく苦しんでいる」

「……お人好しだな、スコール・レオンハート」

 セフィロスは、俺の名前をフルネームで呼んだ。口唇をゆがめるだけの嘲笑だが、彼のような容姿の持ち主にそうされると、やられたほうはかなりのダメージだ。

「……なんとでもいえ。だが、俺は……俺たちは、アンタの記憶を取り戻す。それがクラウドのためであり、アンタのためでもあると思うからだ」

「よけいなことだ」

「……その判断が下されるのは、アンタの記憶が戻ってから後の話だな」

 俺はセフィロスの、氷のような瞳を見つめ、そう告げた。