〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<9>
18禁
 セフィロス
 

 

 

 

 

「おまえはオレを何とも思ってはいない。こんなときだから勘違いしているだけだ。おまえにとってのオレは、ただ昔から知っていた親戚のガキみたいなもんだ」

「私は……!」

「その少年も大人になったんでな。こんな場合の処理にくらい付き合ってやれるさ」

「私は、そんなんじゃ……」

「自分で脱ぐか? 脱がして欲しいか?」

 ヴィンセントの言葉を耳に入れないように、わざと覆い被せてそう訊ねてやった。

「セフィロス! 私は君のことが……」

「いいから、大人しくしてろ」

 オレはそのままタオル地のローブに、手を差し入れた。風呂上がりだったこいつは、素肌に一枚引っかけていただけだ。

 帯になっている部分をぐいと引っ張ると、いともたやすく前あわせのローブはほどけてしまった。

「あッ……!」

 素肌に触れただけで、さわがしい口は従順になった。

「薬の効き目ってェのは大したもんだな。クラウドのガキはなんともなかったようだが、体質の違いってヤツか?」

「あッ、あッ……やッ……!」

 俺の手はまだヤツの下肢にすら触れていない。薄い脇腹を撫で上げ、首筋に唇を這わせただけで、細い身体がビクビクと反応した。

「ん……」

 触れられる肌の感触を味わうように、朱に染まった双眸が閉じ合わされた。

「は……ぁ……」

 熱を帯びた吐息が漏れ、形の良い眉が切なげに寄せられた。

 あの冬の山での抵抗がウソのようだ。最後の最後まで抗ったヴィンセントは、結局途中で失神し、口に気付の酒を流し込んでやるハメになった。

 だが、今のヴィンセントはもどかしげに、下肢をよじらせ、刺激を求めている。

 誘うように背中に回された腕が、ぐいとオレの身体を引き寄せた。

「ああ、セフィロス……早く」

 到底信じがたいセリフが、薄い口唇から漏れる。オレの足に当たるその部分は、もう十分過ぎるほど熱くなっていた。

「今夜はずいぶんと積極的だな、ヴィンセント」

 固く尖った胸の突起を舌先で転がすと、艶めいた悲鳴が迸る。ビクンと大きく跳ねたかと思うと、ローブに隠れた部分が熱く湿った。

 たったこれだけの刺激で、吐き出すほど身体の欲求は強烈らしい。

「ああ、かまわない。さっきも言ったろ、今はおまえの処理に付き合ってやると」

 汚れたローブを引きはがし、ベッドの下に落としてしまう。一糸まとわぬ姿になっても、以前のような羞恥心は現れない様子だった。

 紅の瞳は露を含んで潤み、ただ、ひたすらもっともっとと求めるばかりだ。

「さぁ、どうして欲しい? 手でしてやろうか? それとも後ろに欲しいか?」

 露骨な問いかけに、一瞬双眸に感情の萌芽が見られたが、それはすぐに消え去った。

 

 

 

 

 

 

「い……一緒が……」

 振るえる口唇で辿々しく言葉を紡ぐ。

「なんだ?」

「一緒が……いい」

「そうか。だったら、いいと言うまで力を抜いていろよ。抗うな」

 そう命じると、彼は素直に頷いた。

 細い足を割り開いて、身体の最奧を探る。同性の恋人がいるのだから、そろそろ慣れてもよいと思うが、そこは狭くてなかなかなじまない。

 つらそうに眉を寄せる表情は、眺めているだけで蠱惑的で、自らの肉体に何も施さずとも、下肢が高ぶってくるのを感じる。オレもまだまだやりたい盛りのガキなんだろうか。

「あ……あぁッ! あ……もう、セフィロス……」

「まだだ、もう少し待ってろ」

 いくら薬でその気になっていても、ヴィンセントの身体自体が他のものになるわけではない。あくまでも処理に付き合うという名目なのだから、よけいな苦痛を与えたり、ましてや傷つけるつもりはまったくなかった。

 そう……思えば、以前、相手をしたときも、オレはずいぶんとやさしくこいつを扱った。行為に及ぶ前は、それこそ腕の自由を奪ったり、言葉で嬲ったりもしたが、繋がるときは優しく抱いてやった。そして今もだ。

 だが、それはこの男が、自分のものではないとブレーキをかけられるからこそだ。所有物でないということは、本気で執着してはいけないということだ。

 だからこそ、オレは限りなく心地よく、やさしくしてやれる。

 そう、今、組み敷いている、他の人間のものであるヴィンセントに。

 こいつがオレのモノだったら、たぶんこんな抱き方はしない。こんなふうに甘やかしてはやれない。

「あ……ああッ!」

 高い悲鳴が迸る。

 後ろを探る指を増やした瞬間、激しく胴震いし、二度目の精を吐き出した。

「早いな。一緒がよかったんじゃないのか?」

 耳朶を噛み、オレは低くささやきかけた。

「セフィロス…… も……いいから。早く……」

 入って来てくれというように、細い足が絡んできた。欲求に身を任せ乱れるこいつはなんて艶めいているのだろう。

 細い足を抱え上げ、オレはゆっくりと身体を進めた。

 熱く絡みついてくる感覚に、気を抜くとだらしない声が漏れてしまいそうだ。

「あッ……あぁ……ッ!」

 狭い道を開かれる感覚に、せっぱ詰まった喘ぎが迸った。そこに苦痛の色はないのを確認して、さらに深く分け入った。

「セフィロス…… セフィロス……」

 うわごとのようにオレの名を呼び、しがみついた腕に力が込められる。オレは半開きの唇に口づけし、こめかみに伝う汗をぬぐってやった。

 ああ、ほら、こんなにやさしくしてやれる。こいつは他人の持ち物なのだから。

 こうして望み通り、処理に付き合ってやれる。

「あ…… もう……」

 限界を告げるヴィンセントの声。

『一緒に』というのが望みなら、オレも遅れずについていってやる。

「あッ……あッ……」

 律動に断続的な悲鳴がこぼれ落ちた。今のコイツは、きっとクラウドのこともジェネシスのことも考えてはいないのだろう。

 ……そして、おそらくオレ自身のことも。

 見つめ続ければ、身体の欲求に従って快楽だけをむさぼる姿が、オレの瞳の裏側に焼き付いてしまう。

 オレはそっと目を閉じた。

 これ以上、ヴィンセントを見たくなかったのだ。

 見れば欲しくなる。自分の所有物にしたくなる。それが結果的に、こいつ自身を壊すことになったとしても、だ。

 ……上りつめ、墜ちたのは、望み通り同時にだった。

 オレはそのまま眠りに逃げた。

 今日のことは、なかったこととして、無理やり胸の奥にしまい込みながら。