〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヤズー
 

 

 

 

 

「おかわり!」

「おかわり」

「おかわりぃ〜」

「早くよこせ」

 いや、もう、誰がどのセリフだが、注釈をつける必要もないだろう。

 ベーコンとトマトベースのスープには、野菜をメインとした様々な具材が煮込まれており、冷え切った身体を暖めてくれる。

「あ〜、美味しい〜。今朝のコンソメ味のヤツも美味しかったけど、これもいい〜 あー、あったまる〜」

 もはや楽しみは食事だけという兄さんが、率先して恋人を誉めまくる。

 ヴィンセントはいちいちにぎやかに反応を返す人ではない。穏やかに微笑しつつ、カダやロッズのお代わりをよそってくれていた。

 

「……な、ヤズー」

 ヴィンセントが小さな声で、俺に話しかけてきた。

「ん、何? あ、お茶、おかわり?」

「え、あ、ああ。そうだな……もらおうか」

 ヴィンセントが、俺に声を掛けた理由は紅茶のおかわりではなかったのだろう。だが、きちんと礼を言って受け取り、音を立てずに口を付ける。

 ……まったく、こんなに品のいい人が、どうして兄さんの恋人なのだろう。

「あのな、ヤズー ……その、今朝方もラジオを聴いていたのだが、この状況は今しばらく続くという予測なのだそうだ」

「あー、うん。そうみたいだよね〜。ノースエリアの港では船が座礁したとか、水道管が破裂とかね〜」

「あ、ああ。あちらは……治安も悪くなっているようだから……」

「でもさ、食料買い込んでおいてよかったよねー。ウチはとりあえず、しばらく籠城できるでしょ。ゲームできないのがキツイけど〜」

 というのんきな意見は兄さんだ。

 もちろん、彼もこの大雪には参っているわけだが、仕事にいけないとなると、一日中、大好きなヴィンセントと一緒に居られる。

 それは兄さんにとって、かなり嬉しいことらしかった。

「あの……クラウドにも聞いて欲しいのだが…… その……ノースエリアに居住している、我々の友人を、ここに呼び寄せるのはどうだろうか……?」

 これは意外な提案だった。

 確かに、コスタ・デル・ソルで、もっとも被害状況が大きいのはノースエリアである。水道が破裂しただの、暴徒による打ち壊しなど、嫌なニュースが流れてくる。

 ノースエリアは港町である所以、大きな繁華街があるし、もともと治安のよくない場所も多々あるのだ。

 

 

 

 

 

 

「うん。俺はいいと思うけど。どう考えてもノースエリアは危険だし、状況がひどいからね。とりあえず水もガスも何とかなっている我が家のほうが安全といえるだろうね」

 俺は素直にそう答えた。

 困ったときはお互い様だ。手助けできるなら、してあげたほうがいい。少なくとも「される」より「する」ほうが、俺としては気楽である。

「あの、ちょっと質問なんだけど〜」

 不満に充ち満ちた口調で、挙手したのは兄さんだった。

「ヴィンセントのいう『我々の友人』って、誰のこと言ってんの? 俺的にはノースエリアに友人なんていないと思ってんですけど〜」

「クラウド…… 何を言っているのだ。ジェネシスと支配人の彼が居られるだろう? あの人たちには、ひとかたならざる恩があるのだから……」

「あ、支配人さんは呼ぼう! あの人になんかあるとヤバイよ。……ちょっと、そーゆーコトはさ、ヴィンセントよりも先に、セフィが気ィ使わなきゃ! 付き合ってんでしょ?!」

「は? あっちもガキじゃねーんだ。何か困ったことがありゃ、自分から言ってくんだろ?」

 どうでもよさそうに言い放つセフィロス。

 ……一応、ポーズだとは思うのだが、もうちょっと支配人さんを大切にしてほしい。

 俺だって、ヴィンセントによく似た彼の人のことは、とても気に入っているのだ。

「セフィロス…… 彼は奥ゆかしい人だから…… 自分のほうから、頼ってくるには勇気がいるのではなかろうか? 彼の住まいは繁華街の近くだと言っていたし…… 心配だろう?」

「…………」

「彼をここに呼んではいけないだろうか? 今ならひどく吹雪いているわけではないし、私が迎えにいってあげることもできると思うのだ」

「バカいうな! 平地でもすっ転ぶ貴様に、雪の中を歩かせられるか!」

「ノースからなら、途中までは車で来られるんじゃない? もっともイーストに入ったら、難しいとおもうけど」

 と、俺はヴィンセントに加勢した。彼の考えはとてもよいことだと思ったから。

「……ったく、テメェはどこまで人がいいんだか……」

 ため息混じりにつぶやくセフィロス。

 そういいたくなる気持ちもわかるが、そこがヴィンセントのよいところなのだ。

「その……差し出がましいことを言ってすまない。だが、やはり君の大切な人なのだから……万一のことがあっては取り返しがつかないだろう?」

「……別にそんな仲じゃねーんだよ……」

 セフィロスはぼそぼそと口の中でつぶやいたが、ヴィンセントには聞こえなかったようだ。

「よしっ! 決まり、支配人さん呼ぼう! セフィ、さっさと電話して」

 勢いよく兄さんが言った。

「では……ヤズーは、ジェネシスに連絡を取ってくれるか?」

「うん、オッケー。でも、ヴィンセントが電話した方がいいんじゃない? きっと喜ぶと思うけど」

「あ、い、いや……私は説明下手だから。よろしく頼む」

「ま、そーゆーコトならかまわないけどさ。ケータイ取ってくる」

 さっさと立ちあがった俺に、タックルをかましてくる兄さん。

「……って、ちょっと待ったァァ!!」

「うわっ! 何するんだよ! 転ぶとこじゃない!」

「ちょっ……ちょっと待て! ジェネシスはいいだろ。あの人は元・ソルジャークラス1stなんだし、フツーのヤツより遙かに要領良いし……」

「クラウド…… おまえという子はどこまで……」

 ヴィンセントは、やや大袈裟なため息をついてみせたのだった……