〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
  
 支配人
 

 

 

 

「そう……なのか?」

「ええ。もちろん、セフィロスに訊ねたことはありませんが、わざわざ口に出すまでもないということなのでしょう」

「…………」

 ヴィンセントさんは黙ったままであったが、僕は空になった茶器を手にして立ち上がった。

「さて、ヴィンセントさん。大分時間が経ってしまいましたね。少し早いですが、今夜は何にしましょうか? 彼らの戻ってくる時間に合わせて、準備をいたしましょう」

「え…… あ……、ああ、そうだな」

「温かいものがよいですね。シチューか……ポトフなども、いいかもしれません」

 話題を料理にそらせたせいか、素直に彼は乗ってきてくれた。

 カダージュくんは、少し風邪気味なので、部屋で寝かせている。結局滋養たっぷりのシチューを作るということで、話がまとまったのだが……

 

 ……数刻後、状況は急変した。

 ああ、やはり雪の山を甘く見るべきではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 20:00過ぎ……

 予定では、夕方に戻ると言っていた一行を、僕たちは不安な気持ちを抱いたまま待ち続けていた。

 最初は、きっと木材の運び出しに手間取っているのだろうと慰め合っていたのだが、さすがにこの時刻はおかしい。

 勝手知ったるコスタ・デル・ソルとはいえ、イーストエリア中央部の森林地帯には、ほとんど人は訪れない。もちろん、この家の人たちも同様だろう。

 ……なにかトラブルが発生したのだろうか?

 雪も……昼間よりは勢いがよくなってはいる。だが、吹雪いているというほどではない。

 

「……もう、21時になるな」

 ヴィンセントさんが、ひどく不安げな表情で低くつぶやいた。

 夕方前から仕込み始めた夕食は、とっくにできあがっていて、彼らが戻ってきたら、温め直すだけになっている。もちろん、風呂の用意も完璧で…… 他にすることがなくなってしまうと、さらに不安が頭をもたげるようだ。

「ええ。さすがに遅いですね」

 僕も頷き返した。あたりさわりのない答えよりも、今はハッキリとそう言った方がよいと感じたから。

「何かあったのだろうか。携帯電話も通じないし……」

「携帯が通じないのは、雪のせいで電波状況がよくないのでしょう。……それにしても、大分予定時刻をオーバーしていると思います」

「さ、探しにいってはいけないだろうか? あ、い、いや……ダメだな…… そんなことをしては……かえって好ましくない」

 僕が何かを口にする前に、ヴィンセントさんは自分の発言を撤回した。

 言わずもがな、このような状況で、僕らがふらふらと探しに出歩いては、ミイラ取りがミイラになってしまう。

「そうですね。私もそうしたいところですが、今、外に出るのはまずいでしょう」

「ねぇねぇ、じゃあ、僕が行ってこようか? 森のほうに見に行けばいいんだよね?」

 先に食事を済ませてしまったカダージュくんが、けろりとした調子でそう言った。昼前は鼻をクズクズさせていたが、今はすっかり元気になっている。

「カダージュ……ダメだ、そんなこと……」

「でも、ちょっと遅すぎるじゃん。ヤズーやロッズは大丈夫だと思う。僕、何も感じないし。セフィロスや兄さんたちのことはわかんない」

「カダージュくん、それはどういった意味なのでしょうか?」

「んんと……、ヤズーやロッズが怪我したり、なんかピンチに遭うとね、僕にも伝わってくるの。手が痛くなったり、足がムズムズしたり…… 兄弟だからかなぁ。クラウド兄さんのことも兄さんって呼ぶけど、もっと距離の近い兄弟っていうか……」

 上手い言葉が見つからないのか、カダージュくんはもごもごと口ごもった。

 

 と、ちょうど、そんな遣り取りをしていたときである。

 玄関の扉が開く音がして、僕たちは一斉に立ち上がった。彼らが戻ってきたのだ。

 雪で足音を消されたことと、こうして会話していたので、その気配に気付かなかったらしい。

「皆……おかえり……!」

 いつもはのんびりのヴィンセントさんが、まっさきに駆けだしてゆく。

 僕とカダージュくんも後に続いた。

「おかえりなさい。お疲れ様でした」

「ヤズ〜、遅いよぅ、僕、迎えに行こうかと思っちゃった」

 やっと戻ってきてくれたという安堵も手伝って、普段よりも親しげな雰囲気になっていたと思う。

 しかし、予想していた反応が戻ってこない。

 ヤズーもジェネシスさんも、青ざめた面持ちのまま、沈黙を守っていた。