〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<102>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「おい、デカブツ! ようやくサシでやりあえるぜ」

「……貴様は……誰だ……? 俺の目の前に……立つな」

 セフィロスとヴァイスの闘い…… 思えば、セフィロスはまともにヴァイスとやり合ったことはなかった。

 あの崩れた神羅ビルで遭遇したときも、ヴァイスの精神は宝条に乗っ取られていたし、ヤツを追い払った後は、オメガを降臨させたのだ。

 つまり、ヴァイス単体と、正面をきってぶつかりあう機会はなかったと言える。

 ……ましてや、この世界でのセフィロスは、『DGソルジャー』という存在についての、知識さえも有しては居るまい。

 そしてジェネシスが、ネロやヴァイスと深い関わりがあるという事実など、夢にも考えたことはないだろう。

 遥か未来を、すでに体験している私だけが知っていることなのだ。

 

 ガキィィィンと、ふたつの武器が火花を散らす。

 ほぼ互角に見えたが、やはりパワーではヴァイスにわずかな分がある。衝撃を受け止めるのに、セフィロスは片膝を落とし、重心を低くした格好で後退した。

 

 セフィロスの長刀、そしてヴァイスの武器は剣の形状をした銃……ガンブレードと呼ばれるものであろうか。

 だが、眠りから目覚めたヴァイスは、その強靱な肉体そのものが、十分『武器』と呼べるレベルのものであった。

 オメガを覚醒される器として選ばれた、彼の鋼の身体は、拳ひとつで、鋼鉄をもひしゃげさせるほどのパワーである。

 いかにセフィロスといえど、生身の肉体に打撃を受けたとしたら、ノーダメージで済むはずがない。きっとセフィロス自身もそれをわかっているのだろう。

 計算ずくの戦闘をする人ではないが、今回はかなり慎重に立ち回っているように見えた。

 

「……目の前に立つなと言っているだろう! この邪魔な人間めが!」

 長身のセフィロスを、さらに上回る巨躯が、信じがたい俊敏な動きで、彼の行く手を阻む。

 ついさきほどまでの立ち位置に、鉛のような拳を打ち込むと、いともたやすくその部分が陥没した。

「まるで、ゴリラだな。パワーだけはたいしたもんだ」

「セフィロス……!」

 切羽つまった私の声を聞きつけたのだろう。彼はこちらを一瞥すると、

「大丈夫だ。下がっていろ、ヴィンセント」

 と言った。

「……ヴィンセント」

 ツォンに引き寄せられ、私はシェルクを休ませている方へ、わずかに身を引いた。

 

 

 

 

 

 

 限られた空間の中、援護するならともかく、側で突っ立っていられても、セフィロスにとっては迷惑なだけなのだ。

 ヴァイスとの戦闘を阻止しようとするネロには、ジェネシスが相対し、他にまともに戦闘に参加できる敵はもういない。

 

 ネロもヴァイスも、ツヴィエートの中においてさえ、トップクラスの能力を有している。

 私は、セフィロスの強さも、ジェネシスの賢さも信じてはいるが、戦闘中は何が起こるかわからない。

 おまけにここは魔晄炉内部なのだ。それもDGソルジャーを生み出した温床に接するばかりの……

 

 ハァハァとつらそうに呼吸するシェルクの傍らに添い、負傷した部分の止血を行う。

 死に至るほどの傷口ではないが、放置しておくわけにはいかなかった。

「ヴィンセント。彼女のことは私が看ていましょう」

 気を利かせたツォンが、自らの上着を脱ぎ、すでに汚れてしまった私のものと交換した。

「ありがとう、ツォン」

「しかし……援護をするのも難しい状況ですね」

「あ、ああ…… そうだな。下手な手出しはできない。返ってふたりの邪魔になってしまっては……」

 そう言いかけたときであった。

 

 ドッ……

 

 と足下が揺れた。

 私の言葉は宙ぶらりんになって、おかしな具合に途切れた。

 

 私だけでなく、ヴァイスもネロも……そして、彼らに対峙しているセフィロスとジェネシスも注意を払った様子だった。

 それだけ足元からの衝撃は、強烈なものであったのだ。

 

「ヴィンセン……」

「シッ……」

 声を掛けてきたツォンを、そっと制した。