〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 夢の中のザックス
 

 

 

「ほさかんさん?」

 クラウドは人形のような細い首をかしげてみせた。

「『軍事部門・部門長補佐官』殿だ。すんげーすんげーエライ人なんだぞ!」

「どんくらい?」

「まー、アレ、身分は副社長の下くらいだろうが、経営に直接影響を及ぼすってことでいえば、権限と責任はそれ以上だ」

 大きなスプーンを咥えたまま、ほぇ〜っというふうに瞳を見開くクラウドに、俺はやや興奮気味に今日のできごとを伝えた。

 ここはもちろん寮の社食。俺たちは長テーブルの向かい合わせの席で、晩飯を食っていた。

 俺はボリューム満点の『今日の日替わり』。クラウドはクリームシチューとピラフだ。

「いやぁ、ハイデッカーが飛ばされたのは知ってたけどよ。まさか後任があんな人だったとはなァ〜」

 いやはや、ヒゲゴジラ(セフィロス命名)の後に、女神様(ジェネシス命名)である。ある意味、美女と野獣的なギャップが、交代劇を致命的なまでに演出してしまうのだろうか。。

「でもさ、わざわざ自分からごあいさつに来るって、あんましエラそくないね」

「そこがすごいところなんだよ、クラウド。本当に偉い人っつーか、人格者っつーのは、わざわざ威張ったりしないんだ。自分はタークスの出身でソルジャー部門のことはよく知らないから、色々教えて欲しいって……そう言って頭下げたんだぞ。あのラザードもちょっとびっくりしてたくらいだからな」

「へぇ……」

 物を知らないクラウドもさすがに驚いたらしい。大きな蒼い瞳がさらに瞠られている。

「俺、握手してくれって言われちゃったぜ! 超緊張したけど、嬉しかった。俺なんて、あの人から見たら、名前も覚えてもらえない下っ端なのに」

 クラウド相手なので、正直にそう言った。

「どんな人なの? すごく礼儀正しくて気配りのある人っていうのはわかったけど、ザックス、年とか外見とか全然話してないよ」

「あ、そっか。いやー、ついな。人柄が信じられないほどいい人だったから感動しちまって。まぁ、ハイデッカーの後だからよけいにそう感じるのかもしれないが……」

「で、何歳くらいの人?おじさんなんでしょ? かっこいい?」

 子供特有の好奇心で、クラウドは矢継ぎ早に訊ねてきた。

「いや、おまえ、聞いて驚け!」

 そう前置きをして、俺はあの阿呆のお耽美ジェネシスが、手にキスをするくらいに、一目惚れした容姿を説明した。

 年齢はおそらく30歳前後であること、長いゆるやかな黒髪をしていて、長身だが華奢なタイプであること……

 そして……

「そんでな、なんか、同じ男相手に言うのもアレなんだけどさ…… あの、スゲー綺麗なんだよ。いや、もう『美人』っていうか……佳人っていうのが、一番イメージ近いかな」

「……かじん?」

 ボギャブラリーの少ないお子様には難しかったのか、クラウドは頭をかしげた。

「もう、後で辞書引けや! つまりなんつーか、ちょっと人離れした雰囲気があるんだよ。あの人がメシ食ったり、ウ○コしたりすんのは、ありえねーっつーか」

「んもう、ザックス、ご飯食べてるときにやめてよ」

「とにかくな! ようはなかなかお目にかかれないような人物ってことだ!」

「ふぅ〜ん……」

 直接見ていないクラウドにとっては、なかなか実感がつかめないのだろう。俺だとて、彼に会ってからしばらくの間は、なんだかぼーっとしちまって心ここにあらずの状態だったのだから。

「それで、ザックス。明日の晩ご飯、部屋で待ってろって?」

「おお、そうそう!」

 そうだ、元はクラウドと明日の夕食の約束をとりつけるつもりで話をし始めたのだ。ヴィンセントに、是非同室の方もご一緒にと言われたのだから。

 俺はその旨を丁寧にクラウドに説明した。若干、鼻高々な気分で。

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜ッ!? 明日、社食で一緒に……?」

 案の定、クラウドは素っ頓狂な声を上げて驚いた。そりゃそうだろう、俺だって誘いを受けたときにはほっぺたをつねりそうになったくらいだ。

 ……おまけにジェネシスには、人を殺せそうな眼差しでにらみつけられた。

「だ、だって、ザックス言ってたじゃん。軍事部門の一番偉い人だって……そんな人が寮の食堂にゴハン食べに来るの?」

「向こうの希望なんだよ。是非、ザックスくんと話がしたいってねェ、ヘッヘッヘッ!」

 俺はやや脚色を交えて、ヴィンセントさんの言葉を再現した。誘われたのは事実なのだから、これくらいは許されるだろう。

「へぇぇ、ザックス、すっご〜い! 来たばっかの上官にもう認められたんだね!」

 クラウドが大きな瞳を、キラキラと輝かせ、尊敬の眼差しで見上げてくれる。それはとても気分のよいものだったが、あまり天狗になるのも恥ずかしいことだ。

「いやいや、多分ヴィンセントさん自身が、俺らみたいな下っ端の考えていることや生活なんかを理解したいと思ってのことだと思うぞ。彼は前に居たハイデッカーとは全然違うタイプだからな」

「ふぅん……で、でも、おれなんかも同席しちゃっていいの? ヴィンセントさんのいうのは、あくまでもソルジャーのザックスや、一般の兵の人たちとってことで……」

「いや、向こうが同室の人を誘ってと言ってたからな。むしろ修習生って立場のヤツが一緒のほうがいいだろう。本当は同期とか、親しい連中も呼ぼうかと思ったんだが、大人数になりすぎると、かえって話がしにくいから」

 俺なりの配慮だ。声を掛ければ、同期のカムランだの、一般兵やってるダチ連中がごっそり集まるだろうが、ヴィンセントさんは大人数の中で積極的に話ができるタイプじゃないと思う。

 物言いはひどく静かだったし、口数も少なかった。

「うん……ザックスがそう言うなら。でも緊張するなァ」

「バーカ、いいんだよ、普段通りで」

 と、彼と一緒のときには、思わず宇宙語を話してしまった俺だが、気軽にクラウドに請け合った。

「そ、そうだよね。フツーにご飯食べればいいんだもんね。お、お残ししないように気を付けよう! 後、おやつのお代わりはやめよう!」

 クラウドは強い気持ちで誓ったらしかった。

 俺も彼に習って強い気持ちで…… 晩飯の前には風呂を済ませ、勝負パンツに着替えよう!と考えた。

 あ、ほら、やっぱ、真剣勝負の前はふんどし締め直してっていうしな!

 俺はヴィンセントさんの繊細に整った綺麗な横顔を思い出し、ぐっと背中に力を込めた。