〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<72>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「やれやれ。まったくもって困った人だな」

「ジェネシス…… ふふ、彼はまさしく実戦部隊なのだろう。それにクラウドのこともあるから、大分疲弊しているだろうし」

「セフィロスではない。君のことだよ、女神」

 意外な発言に、思わずとなりの席の彼を見つめてしまった。睫毛の長い美しい瞳が、すぐ近くに居る私の姿を映し出している。

「え…… あ、あの…… 私……?」

「そう、そのとおり。君は本当に誰にでもやさしい。特にあの傍若無人なセフィロスに。あんなひどい言い方をされて怒りもしないなんて……!」

 憤懣やるかたなしといったふうのジェネシスに、私はおずおずと言い返した。

「そんな……別に彼は感じたことをそのまま口にしただけなのだろうから…… 痩せぎすなのは本当のことだし……」

「君はね、痩せぎすなんじゃなくて、華奢なんだよ。あんな物の言われ方をしたら、きちんと怒るべきだ」

 彼にしてはめずらしいくらいの強い口調でそう言われて、私は口ごもってしまった。

 しかし、ジェネシスはさりげなく私の表情を読み取ると、ハァと大きく吐息した。

 ちなみにこんなやりとりの間でさえも、彼はきちんとモニターチェックをしているのだ。

 

 

 

 

 

 

「ええと……その、君に文句をいうことではないのだとわかっているんだが……すまない」

「あ、い、いや……」

「ごめん。……俺、何言ってるんだろう」

 クラウドの口にするような、幼い物言いに、私はついジェネシスを眺めてしまった。一応、これまでは彼と一緒にモニターを見ていたのだが。

「ジェ……ジェネシス……?」

「……俺、こんなに嫉妬深い男だったんだ。我ながら何というか……ショックだ」

「え……え……?」

 深いため息と共に、つぶやく彼に、私はどういった言葉を掛けるべきか困惑した。だいたい嫉妬……とはいうが、別にそんなにあからさまな発言をしているわけではない。

 『嫉妬』と呼ぶべき態度は、コスタ・デル・ソルに居るクラウドが、突然、大声を上げて、セフィロスに飛びかかっていくような……そんなものだという認識があった。

「……参ったな。君にまで嫌みを言ってしまうなんて。このままじゃ、嫌われてしまいそうだ。自重しないと……」

「あ、あの、ジェネシス。そんな……別にそんなふうに自分を責める必要はなかろう? 君は私の気持ちに鑑みて、苦言を呈してくれたわけなのだから」

「ヤキモチだよ、完全な。君がセフィロスにやさしいから……」

「彼は少し幼いところがあるからな。つい世話焼きの私には気になってしまうんだ。その点、君はとてもしっかりしているから、手助けをさせてもらう余地がないだけだ」

「…………」

「…………ジェネシス?」

 私は額を抑えている彼の表情を、そっとのぞき込もうとした。

「そうだね、セフィロスみたいなのは得だな。何の計算もないのに、君の関心を惹き付けてしまう」

「だから……それは……」

 言葉を選んでいるうちに、ジェネシスの手がすっと延びてきて、私の両肩を抱き寄せてきた。

「俺も君に甘えたいんだよ。……まだ恋人としては認めてもらえなくても……それでも、君からの関心が欲しいんだ。ワガママだとはわかっているんだけど」

「ジェネシス……」

「…………」

 彼は私の肩に腕を回したまま、黙り込んでしまった。吐き出された息が、首筋に熱く感じた。