〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<82>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「よし……行くぞ、ガキ共! せいぜい社長連中に泣いてすがってくれよ」

 内にくぐもった声が足下のほうから聞こえ、反射的に私とザックスは身を伏せた。

「……触るな! 自分の足で歩けるッ!」

 叩き付けるような少年の声。

 ……クラウドではない。あの子の声は高くて少し舌足らずな雰囲気なのだ。

 きっと一緒に囚われた班員のうちの誰かだろう。

「きゃあッ!」

 と、いう悲鳴とドサッと荷物が倒れるような音が聞こえる。

「このガキ! 今さら時間稼ぎなんぞするなッ! さっさと歩けッ!」

 バシッ!

「アルクゥ! てめぇ、アルクゥになにしやがるっ! おまえらが無理にナワ引っ張ったからだろう! そんなにおれたちが怖いのかよッ!」

「ク、クラウド、だ、大丈夫だから…… ダ、ダメだよ……」

「このクソガキ共……!」

 憎々しげな声…… この者どもこそテロリストの実行犯なのだろう。

「ぶん殴られたいのか、チビスケどもッ!」

「……騒々しい。大声を出さない方がいいんじゃないか」

 クールな声。これも少年たちのうちの誰かだろう。

「それよりも、アンタたちのいう『約束の時間』とやらが近いんじゃないのか。こんなところで遊んでいる場合じゃないと思うけど?」

「チッ…… 可愛くねェ、ガキだ!」

 なんとなくヤズーを彷彿とさせる少年である。上体をそっとずらし、彼らの状況を見守る。

 ああ、ヤズーに雰囲気が似ていると感じた子は、クラウドよりも冷たい色の長い金髪を、首元でくくった細身の少年であった。クラウドは転んだ子を助け起こそうとしている。

 彼らは皆、手首を拘束され周囲をテロリスト共に囲まれていた。

「おらっ! さっさと歩け! 取引の場所は地下一階だ!」

 テロリストは全員黒い戦闘服に覆面をしていた。少年たちを取り巻いているのは二十名もいないが、当然取引場所周辺には見張りとして数名配備しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセントッ!」

「女神ッ、怪我はないかい!?」

「ザックス……!? おまえ、いったい……」

 セフィロス、ジェネシス、ツォン……ほぼ三人同時にこの場所へやってきた。

 もちろん、大声を出すような愚行は犯すことはないが、さすがに私とザックスが一緒にいたことには驚いた様子だった。

「皆、待ってくれ。クラウドたちが地下一階に連れて行かれた。場所はわかっている。すぐに負うぞ」

 私は端的にそれだけを告げた。

「地下一階って、ここがそうだろ?」

 とセフィロス。

「いや、ここは地下の中一階だ。このフロアより、一段下の中央部。まさしく魔晄炉のエネルギーカプセルの前で、話をつけることになっているらしい」

 私が答える前に、より情報収集を行えていたザックスが即座に言った。

 そしてそのままちらりとジェネシスの表情を盗み見る。先だって彼に『足手まとい』と言われたことが応えているのだろう。

「……な、なんだよ、ジェネシス。文句なら後で聞いてやるよ」

「やれやれ困った子だな。……おまえは次にソルジャークラス1stになって、アンジール支える立場だろう。俺たちと一緒になって、こんなことに首を突っ込んで……」

「え……」

「まぁ、来てしまったのなら致し方がない。十分気をつけろよ。チョコボたちのことだけを考えて、無駄な戦闘は避けるんだぞ」

「お、おう……」

 ジェネシスの真剣な物言いに、気圧された様子でザックスが頷いた。こんなときなのに、彼らの絆に思わず感じ入ってしまう。

「てめぇら! 何グズグズしてやがる! 地下一階だろ!」

 言うが早いか走り出すセフィロス。

「ああ、セフィロス。慎重に! エレベーターはダメだ。連中が使っているッ」

「クラウド、待ってろッ!」

 階段に突っ込んでゆくセフィロスの後を、我々は必死に追っていったのであった。