〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<92>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ええぃ、何をしておる! ホランダー! おまえの作った兵隊たちの実力を披露してみせろッ!」

 高圧的な物言いで、ハイデッカーがホランダーを怒鳴りつけた。

 マッドサイエンティストは不快げな面持ちをしたが、何か言い返すようなことはしなかった。

 むしろ、激昂するハイデッカーを無視するような様子で、彼のいう『成功作品』へ向き直ると、軽く頷くことで彼の意向を示した。

 

 次の瞬間……

 目にもとまらぬ敏捷さで、アスールとロッソが跳躍した。

 アスールのほうはセフィロスへ、ロッソはジェネシスを狙う。

 それが合図になったのだろう。彼らの背後で蠢いていた、無数のDGソルジャーが私とツォンのほうへ押し寄せてきた。

「く……ッ!」

「ヴィンセント、本気で闘ってください! 貴方の気持ちはわかりますが、今は生き延びることを考えなければ……!」

 自らも銃をあやつりながら、ツォンが叫んだ。

「わかっている……! 君も用心したまえ」

 私とツォンは、互いに逆方向へ身を躱した。

 セフィロスとジェネシスは、ツヴィエートが相手だ。彼らが後れをとるとは思わないが、敵として相対するに不足ない能力は有しているだろう。雑魚兵を蹴散らすように、容易に勝利することはできない。

 私とツォンは、自らに襲いかかってくる連中を次々に撃ち倒した。

 DGソルジャー……この場では雑魚兵という扱いなのかもしれないが、彼らの一部はセフィロスとジェネシスに向かってゆく。

 ツヴィエート相手に闘っている彼らの負担を少しでも取り除くべく、私とツォンは自らへの敵と、彼らを襲うDGソルジャーの群れを食い止めた。

 もはや私も、DGソルジャーに気遣いをする余裕はなかった。

 殺らなければ、殺られる…… この感覚。

 

 一言で「銃」とは言っても、拳銃、小銃、機関銃……それぞれもまたいくつかの形状に細かな分類があり、本当に多種多様なのだ。それを状況によって使い分ける。もちろん、それぞれに特徴があるから、苦手に感じる人間も多いだろう。

 不思議なことに、私は銃を操ることにだけは長じているようで、どのような形状のものでも、それなりに扱うことができた。

 魔晄炉内であることを考えれば、破壊力が大きすぎるものを試用するわけにはいかない。

 私は片手に収まる拳銃で対応することにした。

 

 

 

 

 

 

 すでに精神の基幹が犯されているDGソルジャーは、何の恐怖心も抱かず我々に向かってくる。ただ、一言、自分たちを作り出した科学者の命令で。

 

 グワァン!

 

 強烈な爆発音に、反射的にその地を飛び退く。

 アスールの大砲が、火を噴いたのだ。戦闘の相手であるセフィロスは、至近距離でありながらも、みごとに攻撃を躱したようだった。

「……ッ 危ねェ…… なんだ、テメェは……」

「うぅぅぅ〜」

 獣が天敵を威嚇するように唸り、アスールは再びセフィロスに向かって砲口を向けた。

「ヤロウッ!」

 身の丈ほどもある長刀が、虚空を切り裂き、アスールに迫る。

 それをまさしく動物並みの俊敏さで躱す。もちろんセフィロスの刃は休まない。大気をも切り裂くような鋭い切っ先は、自らの二倍以上はありそうな巨人を追い詰めていった。

 

「女性相手に斬りつけるなど、俺のポリシーに反するのだがね。どうも君相手に遠慮はいらないようだ」

 ジェネシスの黒曜石のような長剣が、女豹を追い詰める。

 ロッソの動きは、アスール以上に敏捷だ。それでいて、巨大な鉄環を自在に操るのだ。

 あの巨大な環に捕らわれたが最後、骨の髄までズタズタに引き裂かれてしまうだろう。

 もちろん、敵を恐れるジェネシスではない。鉄環の攻撃を華麗に躱し、フェンシングに似たフットワークで彼女の隙を突くのであった。

 途中で出来損ないのDGソルジャーが、ジェネシスに襲いかかったが、それを払いのけたのはロッソ自身の鉄環であった。

「……邪魔だ。ゴミどもが……」

 彼女の紅い唇から侮蔑の言葉がこぼれた。味方兵にいうにはあまりに残酷なセリフだ。

 ロッソは、まるで邪魔な小蝿を追い払うように、哀れなDGソルジャーを鉄の環で押しつぶした。

 

「……やれやれ、さすが、ソルジャークラス1stですね。あのふたりは厄介だ」

 未だ戦闘に参加していないネロが嗤った。

「……それに貴方もだ、ヴィンセント。銃の腕前はほとんど神業ともいえますね」

「…………」

「自らに襲いかかる敵を倒しつつ、ソルジャーふたりの戦闘を援護している。……たいてい、銃が得意とはいっても、DGソルジャー相手なら、そちらの現役タークスレベルの戦闘で精一杯……いや、彼くらい戦えれば常人としては十分すぎるほどだ」

「…………」

「ヴィンセント……貴方の弱点は、戦闘能力ではない。脆い精神のほうだ」

「ネロ……」

「貴方相手に、出来損ないのDGソルジャーでは役不足でしょう」

 彼の薄い口唇が、弧を描くように笑みの形になった。

 いよいよネロが挑んでくるのか…… 彼とは一対一でやりあったことはないが、ここで負けるわけにはいかない。

 私は乱れた呼吸を整え、意識を戦闘に戻した。