ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
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 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

  

「懺悔タイム終わり〜?」

 いいムードになってきたと思ったのに……

 まぁ、休日の真っ昼間だ。エロイ雰囲気に持ち込むのは無理があるとはいえ、混ぜっ返さなくてもいいだろう。

 意地の悪い横やりを入れてきたのは、ついさっき気を利かせてくれたと思っていたヤズーだった。

「なんだよ、『懺悔タイム』ってさ!シツレーな! 俺とヴィンセントは互いの愛を確かめ合ってたんだよ!」

「はい、お茶どーぞ」

「ごまかすな!」

「ケーキもあるよ」

「いただきます!」

「はい、ヴィンセントも」

「あ、ありがとう……」

 

「ま、よかったね、仲直りできたのは」

 柔和な女顔を、にこにこと綻ばせて、ヤズーはささやいた。

「べ、別に……ケンカしてたってワケじゃないもん。ね?ヴィンセント」

「あ、ああ」

「そぉ? それじゃァ、この前のアレ、ちゃんと説明ついたんだ?」

 細い首を傾げて、そんなふうに言うヤズー。

 ……なんだよ、『この前のアレ』って?

 『セフィロス』のことか?

 

「まぁ、仕事の息抜きしたいのはわかるけどさァ、ヴィンセントにばっか貞淑さを求めて、自分は女の子相手にしてるって、シツレーなんじゃない? しかも、わざわざヴィンセントが電話したときに、その娘たちの声が聞こえるっていうのはねェ?」

「…………」

 虚を突かれるまくる俺。

 頭の中には『セフィロス』がらみの事柄しか、入っていなかったのだ。そういえば、あれほど慌てて帰りたかった理由のひとつは、ヴィンセントの誤解を解きたかったからだ。

 おおっと、ここまでで話の通じない人々は、『うらしまリターンズ』を読んで欲しい。

 それを見てもらえば、バイクで転倒するほどに慌てていた理由も合点がいくだろう。

「留守を預かってくれてるヴィンセントへの裏切り行為とも言えるんじゃないのォ?」

「ヤ、ヤズー……そんな言い方は……」

 やさしいヴィンセントがとりなしてくれる。それに覆い被せるように、

「えー、重要なことじゃない? だって、俺たちがちょっとでも、あなたと仲良くすると、兄さん、ホントうるさいんだよ? きっちり説明して欲しいよねェ?」

 と居丈高に、ヤズーが宣い、

「ところでゴムは着けたろーな?」

 とセフィロスが追い打ちをかけた。

「ちょっ……もォ、よしてよ、ふたりともッ! 俺がヴィンセント裏切るわけないだろッ! 違うんだよ、誤解なんだよ、誤解ッ!」

「ク、クラウド……そんなに……大声を出さなくとも……」

「大声にもなるよッ! ホント、ヴィンセント、誤解だからね!? 俺にはヴィンセントだけだから!!」

「ク、クラウド……」

「みゅんみゅん!」

「ヴィンもちゃんと聞いとけッ! あのね、アレは違うの! 配達の帰り道で、女の子がチンピラ連中にからまれてたんだよ! それを助けたら、お礼にって晩ゴハンおごってもらったのッ!」

 身振り手振りを加えて説明する俺。興味深そうに聞いているのは、ヴィンセントよりも、むしろ、セフィロスとヤズーのほうだ。

「ほー、晩ゴハンねぇ。キャバクラで?」

「それとも同伴スナック?」

 セフィロス、ヤズーの順番で口を開く。完全に面白がっていやがる。

「ちょーッ! やめてよッ! 確かに女の子の居るところだけど、いかがわしいコトしてないからッ! 俺は潔白なんだからな!」

「だって、電話からホステスさんの声、聞こえてきたよ?」

「そうそう。今夜はアタシのものーっ!とかな」

「言ってねーだろっ! そんなことッッ!」

 へらへらと笑って、混ぜっ返すセフィロスたち。本当にこいつらは最悪コンビだ。なんつー底意地悪さ。

「い、いや……あの……私は全然気にしていないから……クラウド……」

「ヴィンセントッ! 俺の言うこと信じてね! ホント、アンタだけだから、俺!」

「おまえだとて、健康な成人男子なのだから……当然のことだと……」

「って、ヴィンセントーっ! アンタ、ちゃんと俺の話聞いてるッ!?」

 ガッシとばかりに両肩をつかみしめ、唾のかかる距離で俺はヴィンセントを掻き口説いた。

「ブハーッハッハッハッ! 信頼がないことだな、クラウド! まぁ、あたりまえか」

「よしなよ、セフィロス〜。あんまり意地悪言うと、嫌われちゃうよ、アッハッハッ!」

 もう大ッ嫌いなってんだよ、この悪魔どもめがーッ!

 

「あの、み、みんな……も、もうこの話はいいだろう? ……あ、そ、そうだ……これから買い物に行きたいのだが、よ、よければ、手伝ってもらえるとありがたいのだが……ク、クラウド……?」

「うんッ! 行くッ! 行くッ!」

「すまないな」

「何言ってんの!喜んで手伝うよ! おい、アンタら、絶対ついてくんなよッ! 邪魔すんなッ!」

「よ、よしなさい……クラウド……」

 おろおろと俺を取りなすヴィンセント。

「あー、ハイハイ、わかったよ、あんまし簡単に仲直りしちゃうから、やっかんじゃったの。ゴメンねェ」

「おめーの言い方には、まったく誠意が感じられないんだよ!コノヤロー!」

 テレテレと謝罪するヤズーに、おっかぶせるようにしてそう怒鳴ってやった。

「ごめんねったらァ。それより車出そうか、ヴィンセント? さすがにこの時間じゃ、まだ暑いと思うよ」

 午後三時過ぎ……まもなく四時になるところだ。

 ピークは過ぎているが、太陽の出ている間は、まだまだ充分すぎるほどに暑い。

「あ、あの、もしかまわないのなら、ふ、ふたりでゆっくり歩いていくから…… いいだろうか、クラウド?」

「あったりまえじゃん! もう、なんつーの、望むところ!みたいなッ!? ふたりっきりで行くんだから、遠慮しろよな!」

「クラウド…… す、すまないヤズー。恐縮だが、荷物が多くなってしまうようなら、連絡させてもらうから…… ど、どうもありがとう」

 気配り充分に礼を言うヴィンセントに、ヤズーはクスクス笑いを堪えつつ、応じた。

「はいはい、わかったよ。遠慮なく電話して」

 

 そして、俺は久々に、ヴィンセントとふたりきりの水入らずで、コスタ・デル・ソルの海岸沿いを歩いた。