ハローベイビー 〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜 <14> クラウド・ストライフ
「……DGソルジャーを引き入れているの……」
確認するように言葉を綴った。
『ああ。いくらできそこないの下っ端とは言っても、一般人とは比較にならない。おまえも知っているだろう』
「……そりゃ……そうだね」
ルーファウスは『できそこない』と言っていたが、それはあくまでもディープグラウンドソルジャーという特殊な能力を有した連中の間での話だ。戦闘能力等すべてにおいて、常人の敵でないことは、直接闘ったことのある俺たちは痛いほどよくわかっている。
『……その子を連中の手に渡すわけにはいかない。別に神羅の社長の座など、それほど執着するものでもないのだが……こういった形で奪われるのは双方にとって不幸なことだ』
「へぃへぃ。アンタの言ってることは……その……わかるような気はする」
『……長くなったな。この電話は盗聴の心配はないはずだが……あまり時間がかかると周囲におかしく思われる。切るぞ』
「あ、ちょっ……待ってよ! じゃ、この子、いつまで預かればいいの? そっちの正確な状況も教えてよ!」
『なるべく早くレノを遣る。ヤツと話をしてくれ』
「え……でも……」
『ではな。働きに期待している。元ソルジャー・クラウド』
「おい、ちょっ……!」
ツーツーツー
一方的に電話は切られた。
★
「ちっ……! なんだってんだよッ!」
俺はソファのクッションに携帯を投げつけた。ボスッと音がして、表面がへこむ。ずいぶんと思い切り投げつけてしまったらしい。
「なんですか?あのセリフ!? ケンカ売ってんの、あの男! 『働きに期待してる』って、俺はもう神羅の社員じゃねーっつーの!!」
「……なんだかずいぶんと厄介なことになってるみたいだね」
形のいい顎をつまんでヤズーがつぶやく。黙ったまま寝転がっているセフィロスも、色々と思考しているのだろう。目つきが厳しい。
「ヴィンセント……大丈夫?」
崩れるように椅子に座り込んだヴィンセント。その傍らにそっと寄り添い背を撫でる。
「……あ、ああ……だが……どうして……今になって……こんな……」
「うん……ルーファウスの話、聞こえたでしょ? 例の事件でツヴィエートみたいな力の在る連中はすべて消え去ったわけだけど、ほんの一部がかろうじて生き延びていたらしいんだよ。そいつらを保護したのが、ちょっとよくない連中だったんだね」
なるべくショックを受けないように、やわらかな言葉で説明してやる。
「……ク、クラウド……では……この子を狙っているのは……? DGソルジャーでは……なくて……?」
「ち、ちがうよ、直接そういうことじゃなくて。やつらを操っている黒幕がいるんだよ。DGどもが自分たちの意志で動いているわけじゃない」
噛んで含めるようにヴィンセントに説明する。
蒼白くそそけ立ったヴィンセントの頬。兎のような紅い瞳にありありと怯えの色が浮かび、薄い口唇には色味が無くなっている。
……まずいな。
ヴィンセントにとってDGだのツヴィエートだの、オメガだの、そういった話は鬼門なのだ。おのれの内に宿るカオスを思い起こさせるような話は避けたいのに。
頭ではわかっているのだろうし、肉体はカオスの魂を受け入れてはいるものの、ヴィンセントという人格……精神が、人ならぬ己が身の有り様を、受け止めきれていないのだ。
今回の話は、直接ヴィンセント自身と関係する話しでもないのに、こんな風に怯え動揺してしまう。
「ね、ヴィンセント。大丈夫だから、落ち着いて。怖がる必要ないよ、俺たちが付いてる」
「そうそう、兄さんの言うとおり。それに社長さんも言ってたじゃない。ヴィンセントも聞いたでしょ? 昔の重役連中が、生き残りの雑魚を集めて兵隊にしているだけだって。DGどもが自発的に何か行動しているわけじゃないんだから。しかも赤ちゃんひとり手に入れるのに。間抜けた笑い話だと思わない?」
ヤズーも加勢してくれる。
「だから、アンタが心配するようなこと、なにも無いから。チッ……ったくレノのヤツめ。面倒事もってきやがって。後で連絡来たらビシッと言ってやる! ビシッと!」
「だ、だが……クラウド……」
おどおどと口を開くヴィンセント。
「ルーファウス神羅の話で、お家騒動だということはわかった……だが、相手方がDGソルジャーを操っているとなれば……ただの身内の争いではすまないだろう? 一刻も早く、首謀者連を掴まえなければ……」
「そりゃそうだけどさ。それはルーファウスたちがやってんだろ? 俺らの出る幕じゃないよ」
やや素っ気なく俺は言い返した。
「そうでなくても、ここんとこずっとバタバタしてたんだからさ。レノが来たら赤ん坊返して、それで終わりだ」
「……でも、ルーファウス社長、タークスには任せられないって言ってたよね。結局、社員だからどこへ行っても足が着くって」
「そんなこと、神羅の連中が考えりゃいいんだよ。……俺はもう神羅がらみで、ヴィンセントを巻き込むような面倒事はごめんだ」
たぶん、キツイ口調になっていたんだと思う。ハッとしたようにヤズーは俺を見つめたし、ヴィンセントは複雑な面もちで何か言いかけた。
……チャチャチャチャラーラーラッララ〜……
携帯の着信だ。俺はすぐに電話に出た。
『よ、クラウド。悪ィ。あー、言いたいことはわかってる。すまなかった』
先手必勝とばかりに謝罪しやがるレノ。怒鳴りつけようと息巻いていたのに、肩すかしを食らったような気分だ。
「……で? 何だよ。さっさと迎えに来いよ。どうせ、俺の住所くらい調べがついてんだろ?」
ツケツケとそう言ってやる。ヴィンセントはともかく、当然セフィロスたちをレノに会わせるわけにはいかない。
『ん……ああ、それなんだがな、っと……』
「なんだよ。さっさとしろよ。悪いけどさ、面倒事はもうゴメンなんだよ。俺、一緒に住んでる人いるし。……大事な人だから。その人まで巻き込むのは絶対に許さない」
「……クラウド……」
ヴィンセントが泣き笑いのような表情をしてこちらを見つめる。
『…………そうだよな。おまえの言ってることは、もっともだぞ、と』
ヤツ独特の物言いで、賛同を示した。ふぅと小さな溜め息が受話器から漏れ聞こえる。
「話は大方ルーファウスから聞いたけど……俺に協力出来ることは何もないよ」
『…………』
「赤ん坊は元気にしてるから。すぐに迎えに来い。ルーファウスの血縁なんだろ」
『……ああ』
「じゃ……」
そう告げて、通話を終えようとしたときであった。いきなり手の中の携帯電話を奪われたのであった。
なんとそれはヴィンセントだったのである。