『KHセフィロス』様の生涯で最も不思議な日々
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<24>
 
 KHセフィロス
 

  

 

 

「ったく情けねーなー。これくらいのことで、ベソをかくな。貴様、男だろう!」

 乱暴な物言いで、セフィロスはチッと舌打ちまでしている。

「生理で失神した人に言われたくないよね、とりあえず」

 ちくりとそう刺すのは、もちろんヤズーだ。

「でも、『セフィ』の泣き顔ってカワイイよねー。俺、今日、初めて見たもん」

 茶化すクラウドに、ヴィンセントが微笑を浮べて吐息した。

「見せ物ではないぞ。今夜はもう解散にしてくれ。俺は『セフィロス』を風呂に入れて休ませる」

 ようやっといつもの調子が出て来たのか、レオンが四角四面な口調で皆にそう言い渡した。

 もう時間も遅いし、異存のある者はいないようだった。それぞれが部屋に引き取っていく。皆が、居間を出る前に、私に笑いかけたり、クラウドなどはちょっかいを出していく。今夜はそれを咎める気にもならなかった。

 

 レオンにすすめられて、熱い湯に浸かりながら、ひとりで自分の身体を見つめる。そこにはすでに見慣れた男の姿があった。不思議なもので、いったん男に戻った格好を見てしまうと、これまでの女の姿が思い浮かべられなくなっている。

 納得のいくまで、慣れ親しんだ身体を洗い流し、久々にゆっくりと湯に浸かった。これまでは、女の姿を見るのが嫌で、早々に上がってしまっていたのだ。

 

 そんなこんなで時間がかかったにもかかわらず、ベッドルームにしているサンルームでは、レオンが寝ずに待っていた。

 

「……ゆっくりだったな。よかった、血色がいい」

 そう言って彼は笑った。

「……起きていたのか」

「もちろん。せっかく元に戻れたんだ。アンタの姿をもっと見ていたかった」

 その言葉に少々気恥ずかしさを感じるが、レオンはただ正直に自分の気持ちを告げているだけなのだろう。何の衒いもなくそういうと、私に鏡の前に座るように促した。

 いつものように髪を梳いてくれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 言われるがままに鏡台の前に座ると、レオンが丁寧に髪を梳く。何か話せばよいものを、彼はいつも黙ったままだ。

「……さっき……」

 私は自身でも意識しないうちに口を開いていた。

「さっき……涙が出たのは……」

「ん……?」

 不思議そうに彼が問い返す。

「……おまえのことを見たら、ほっとしたのだ」

「『セフィロス』……」

「不思議だな。家を出て行くときにも顔を合わせていたのに……」

「…………」

「身体が元通りになって……おまえを見たら、涙が出た」

 鏡に映った私は、笑っていた。レオンは驚いたような面持ちで、鏡の中の私を見つめていたが、

「ありがとう……」

 とつぶやいた。

「ありがとう、『セフィロス』……」

「どうして?」

 と訊ね返した私に、

「よくわからないが……礼を言いたい気持ちになった」

 と返事をする。ときどきレオンは不思議な行動をとるのだ。

 

「さぁ、もう休もう。アンタは疲れているはずだ」

 名残惜しそうに私の髪を手放し、彼がすすめる。確かに身体は疲れていた。セントラルの市場を彷徨って、変な医者の家に行き、クラウドのバイクに乗って帰ってきたのだから。

 

 円筒形の広いサンルームの中央に、ベッドがふたつ並べられている。その一方にもぐりこもうとして、ふと思いつく。

「レオン……そっちのベッドに行っていいか?」

「……は?」

「一緒に休もうと言っているのだ」

「あ、い、いや……それは……その……」

「……別におかしな意味ではない。もう少し、おまえの側にいたいと思っただけだ」

 苦笑混じりにそういうと、レオンはおずおずと毛布を持ち上げてくれた。

 ダブルでないベッドは、ふたりで入ると少し窮屈だ。だが、近くで彼の体温を感じられるのが、なぜか今夜は心地良かった。