嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<42>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  

 

 

 

 ……これまで『戦い』を楽しいと感じたことはなかった。

 それはクラウドたちと一緒に旅をしていたときもそうであった。

 だが、今、この瞬間……私は、自らの腕を存分に奮い、敵と対峙するのを楽しんでいる。

 ……いや、それよりも、セフィロスと共に、共通の敵に向かっていけることに喜びを感じているのだ。同じ位置に立ち、なんとか足手まといにならないレベルで、背を預けられつつ、持てる技を駆使できるのが嬉しいのだ。

 

 ……バキィ……ベキベキベキ!

 

 剥がれ出した外殻が、ボロボロとこぼれ落ちる。

 私とセフィロスの、間断のない攻撃のせいで、オメガヴァイスの外壁は徐々に崩れ落ちていた。それがシールドの役目も果たしていたのだろう。

 剥き出しになった核を攻撃すると、一度に与えられるダメージが大きくなった。

 

 ガッキィィン! ギィンギィンギィン!!

 

 彼の長身ほどもありそうなマサムネが、銀の軌跡を描き虚空を舞う。

 セフィロスは本当に強い。さきほどまでの戦闘で、その肉体はひどく傷ついているに違いないのに…… そもそも私とクラウドを庇って爆風を受けた時点で、背中に傷を受けている。

 

「……くぅッ!?」

 ガキィィン!と一撃を放ち、彼はバランスを崩して着地した。

「セ、セフィロス……!」

「そうじゃない!」

 私の口にしようとした言葉を先読みしたように、セフィロスは言った。そしてスッと片手を差し出した。

「…………ッ?」

 私は息を飲んだ。

 袖口の部分がわずかに焦げている。

 

「……セフィロス……これ……は?」

「核から発熱してる!」

「発熱?」

「ああ、オレたちの攻撃のせいだろう。ものすごい高熱だ」

「…………」

「あいつを砕いたら……この空間はものすごい熱に包まれる」

 ギリギリと奥歯を噛みしめつつ、セフィロスがつぶやいた。

「……で、では……」

「そこらのゴミどもとオレたちは違うが……あの高熱に耐えられる保証はないな」

「……セフィロス……」

「ま、ここまでくりゃ、途中でやめるわけにはいかないがな」

「…………」

「……おい、何を見てやがる」

 フンといつものように鼻先で笑い、セフィロスが私を振り返った。

 ……きっとまた私は情けない顔をして彼を見つめていたのだろう。

 

 

 

 

 ……無事に帰れる保証などあるはずはなかった。

 いや、むしろ帰還できる可能性など、限りなく0%に近い……

 

 わかっているつもりだった。

 覚悟の上でここまでやってきたのだ。

 ……だが、セフィロスは……セフィロスだけは……

 

「おら、ボケッとしてんなッ 行くぞ!!」

「セフィロス……! 待っ……!」

 呼び止めたとしても聞いてくれるはずはない。彼はそう言う人だ。

 

「……いいか、ヴィンセント」

「……え……?」

「前にも言ったな。最後まであきらめるなよ」

「……セフィロス……」

「……必ず約束の地へ、おまえを連れて行く」

 タンと跳躍し、私を見下ろしつつ彼はそうささやいた。

 見慣れた、自信ありげな……そして人の悪い笑みを浮かべて……

 

「……セフィロス……!」

 遅れを取らぬよう、私もすぐさま後に続いたのであった。