〜 ジェネシス逗留日記 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ジェネシス
 

 

13:40

 

「ヴィンセント、おかわりッ!」

 勝手に一人で食い始めているセフィロス。

 慌てて女神が、皿を受け取ってやっている。

 ちょっぴり不機嫌そうに見えるのは、たぶん、女神が俺にかまっている様子が気にくわないのだ。

 セフィロスとは長い付き合いだが、彼もなかなか子供っぽい。

 そのあたりのエピソードは、語り始めたらキリがないほど、証拠事件に事欠かないわけだが。

 ワガママいっぱいのセフィロスが、幼いチョコボっ子と共にあるようになったとき、いったいどうなってしまうのかと、興味半分応援半分で見ていたわけだが、少なくともチョコボっ子の存在は、セフィロスを成長させたといえよう。

 いわゆる情緒面で、想い人ができるというのは、人を一回り大きくさせるものだと感じる。

 

 

14:00

 

「俺は寝る。邪魔すんなよ」

 さっさとひとりで食事を先に済ませると、セフィロスはソファに戻っていった。

 そのまま、豹だか虎だかのように、ドカッと寝そべると、心地よさげに目を閉じてしまう。その様子をあきれ顔で見ていた俺に女神が教えてくれた。

「……昼寝は彼の日課なんだ。大抵昼食を済ませると寝入ってしまう」

「育ち盛りの子供じゃあるまいし…… というか、これ以上育ってしまったら恐ろしいことになりそうだよね」

 半ば本気で俺はそう言い返した。

「ふふ…… 彼は今でも十分長身だからな。君もだがジェネシス」

「ちゃんと計ったことはないけど、セフィロスとはほとんど同じくらいだね」

「うらやましいものだな……」

 と微笑む女神に言葉を返す。

「君だって十分長身だろう? 180は余裕で超えているだろうし」

「ああ、それは、まぁ……」

「君の背がそれ以上高かったら、チョコボっ子が可哀想だよ」

 冗談交じりに笑うと、女神も小さな苦笑を漏らした。

「……背の高さというより、体格がうらやましいな…… クラウドだって、確かに私よりも上背はないが、バランスの取れた美しい身体をしている」

 ヴィンセントの言葉に、ついついチョコボっ子のヌードを思い描き、微妙な嫉妬心を感じる。

 一応、かの青年は女神の恋人なのだから。

 

 

14:20

 

「ガァァァ ゴォォォォ」

 という遠慮会釈無い、セフィロスのいびき。

 よくもまぁ、俺たちの集っている居間で、あそこまで豪快に眠れるものだ。

 おもむろに女神は立ち上がると、だらしない格好で転がっている巨体に毛布を掛けた。

「やれやれ、まるで母親代わりだね、女神」

「い、いや……そんなことは。放っておいても大丈夫なのだろうけど、やはりエアコンからの冷気が直接当たるのはよくないと思うのだ」

 そういう心配が『母親代わり』だということだと思うのだが。

「さてと、それじゃあ、俺もヤズーのところへ行って一休みしようかな。向こうさんは大分退屈しているようだし」

「ふふ、そうしてもらえるとありがたい。彼も喜ぶだろう」

「君も少しはゆっくりしたまえ。セフィロスは眠っているし、俺についても気遣いは無用だよ」

 そう言い置くと、退屈そうにベッドで半身を起こしている美青年の元に言った。

 

 

15:00

 

「ハイ、ヤズー」

「あ〜、話相手ゲット!」

 と彼が笑う。

 女性顔負けの美貌が、年相応に笑み崩れるとひどく可愛らしく見えるものだ。特に今は、レースたっぷりの掛け布団の中で、白いフリル付きの夜着を身につけているのだから。

「三時のおやつの時間だし、一緒にお茶しよう」

「あー、美味しそう!」

「ああっと、ダメだよ、無理に動いちゃ。ちょっと待って、今用意するから」

 チェストやコンソールを上手く使って、急ごしらえの茶台を設置する。

「ヤズーは紅茶ね。女神がコーヒーは胃に良くないって」

「はー、やれやれ。いいよ。あなたの淹れた紅茶、美味しいから」

「セフィロスもそうだけど、どうしてコーヒー党のほうが多いんだろう。絶対にコーヒーより紅茶のほうが美味しいと思うんだけどなぁ」

 紅茶党の俺はそう言った。

「ああ、俺も紅茶、好きだよ。コーヒーも飲むけどね。ヴィンセントはコーヒーはあまり好きじゃないみたい。ハーブティーをよく飲んでいるね」

「貴重な情報ありがとう。心の手帳にメモをしておくよ」

 そんな話をしながら、おやつのマカロンをつまんだ。なんとこんなものまで、女神の手作りなのである。

 

 

15:30

 

「あー、美味し〜。紅茶、おかわり」

「はいはい。ああ、でもあんまり食べて夕食が入らないなんてことにならないでくれよ。俺が女神に叱られてしまうからね」

「やれやれ、女神、女神か〜。ジェネシスって本当にヴィンセントのこと、好きなんだねェ……」

 しみじみとした口調で言うヤズー。

「それはそうだよ。以前からずっと話しているだろう?」

「本気で?」

「もちろん」

「そうだよね〜、ここまで開けっぴろげだと、フツーはネタだろうと思われて終わりなんだけど、貴方の場合は、本当に本気だからこそ、はっきりと口に出していうんだろうね」

 抹茶味のマカロンをかじりながら彼はつぶやいた。

「そりゃもう。ただ、あまりあからさまな態度を取るとチョコボっ子に追い出されそうだし、女神を困らせてしまうからね」

「そうね。兄さんは、ものすごく貴方にヤキモチ焼いてるからねェ……」

「ああ、どうして女神が目覚めたとき、すぐに俺は逢うことができなかったんだろう! チョコボっ子よりもずっと前から彼の存在を知って……何度も神羅屋敷に足を運んでいたんだが……」

 自嘲しつつ、ついついこぼしてしまう。どうもヤズーに対しては、おのれと同じ空気を感じるのだ。

「んふふ、兄さんより先に彼に会えたなら、絶対に勝てた?」

「それなりの自信はあるけどね。こういったことは何とも言えないだろうね」

「兄さんの肩を持つつもりじゃないけど、あの人は強いよ」

 クスクスとヤズーが言う。少し意地悪げな物言いも、整った容姿に似合っている。

「それは腕っぷりのことじゃないよね?」

「もちろん。現実的な話、腕力っていったら、ウチじゃセフィロスが一番じゃない? それでもやっぱり兄さんはね、最強なんだよ。ものすごく基本的な意味合いでね。セフィロスもそう思っているんじゃない? ……だから、ヴィンセントには手を出さないんだよ」

「ヤズー……?」

 わずかなりとも哀れみの色合いを浮かべ、彼は笑った。

「……最近ね、いろいろ考えることが多くてさ。俺たちなんて、つい最近、セフィロスの思念によって具現化された生き物なんだけどね。妙に人間的になってしまったせいかな」

「始まりはなんであっても、君たちは独立した人格だろう。そんなふうにいうなんて君らしくないよ」

 俺は正直な感想を口にした。

「……それはジェネシスと出逢ったのが『今』だからだよ。今現在の俺たちだから。貴方もそう言ってくれるのだと思うよ」

 セフィロスによく似た……だが、彼よりもずっと繊細な線をもつ美青年は、ティーカップをコンソールに戻すと、ゆるやかに話を始めた。

 セフィロスの生み出した中でも、もっとも美しく思慮深い彼の物思いを……