LITTLE MERMAID
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<最終回>
 ヤズー
 

   

 

 

 

 

 ふと目が覚めた。

 そこは見慣れたコスタ・デル・ソルの一部屋だった。

 

 ……ああ、やっぱりと思う。

 俺はどこか心の底で、こうなることに気付いていた感じがする。

 彼と過ごせる時間はもうほとんど残っていなかったことに。

 

「……さぁて、もう朝だ。起きなくっちゃ」

 久しぶりの我が家だ。リビングに行くと、そこには朝の早いヴィンセントが起きだしている。

「お、おはよう、ヤズー。……元に戻ったな」

 彼が言った。

「ホントだね、ああ、今日も暑くなりそう」

「朝飯はまだか」

 そう言いながら、セフィロスまでダイニングにやってくる。

「相変わらずだね。それよりもまずは元の世界に戻ったことを喜んだら?」

 俺がそう言い返すと、彼はフンと顔を背けて、

「別に俺はあっちの世界でも不自由はなかったがな」

 とうそぶいた。

「ヤ、ヤズー、王子にお別れは言えたのか?」

 どこまでわかっているのか、ヴィンセントがそんなふうに、俺に訊ねてきた。

「えー、あぁ、まぁね。下半身がだるいけど」

「……?そうか、ともかく姫が幸せになってくれるといいな」

「うん、そうだね。大丈夫だと思うよ。王子は人魚姫ちゃんを気に入ってくれたからね」

 俺はそう言いながら、エプロンを身につけ、さっそく朝ご飯の準備にかかる。

「ヤズー、どうかしたのか……?」

 キッチンでとなりに並び、ヴィンセントが俺を横目で見る。

「え?何のこと」

「なんだか少し……寂しそうに見える」

 機微に長けた彼は、そんなふうにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、そう?そうだね、ちょっと……そんな気分かな」

 俺は正直にヴィンセントに答える。セフィロスは何も言わずにソファの定位置に寝ころんだ。

「セフィロス似の王子は、おまえのことをとても気に入っていた」

 ヴィンセントは手を動かしながら、そうささやく。

「そうねぇ……そうかもね。ま、セフィロスそっくりというのが玉に瑕だったけどね」

「また、そんなことを言って…… だが、戻って来られて良かったのか?もっと彼と語り合う時間が欲しかったのではないのか」

「……そんなことはないよ。もとのこの家に帰ってこられて良かったと思っている。そうね、ただ……もう少し王子の側に居てあげたかったかなとも思うよ」

 野菜を洗いながらそう答えた。

「まだ、人魚姫ちゃんは心許なかったからね。……まぁ、でも大丈夫でしょう。あの王子はウソはつかない人だから。きっと彼女も幸せになれるはずだよ」

「そうか……おまえがそう言うのならば」

 ヴィンセントはようやく納得してくれたように、料理にとりかかった。

 

 うららかな陽気の早朝……目を閉じると、昨夜の情事の余韻が知らず知らずのうちに身に甦る。

 そう……耳元をくすぐる吐息の音さえ。

 

「まぁ、あそこまでセフィロス似じゃなかったら良かったんだけどね」

 俺の独り言に、ヴィンセントが仕方なさそうに苦笑した。

 

 

 

終わり