〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

  

 

 

「ヴィンセントッ!?」

 叩きつけるように自室の扉を開けた俺は……当たって欲しくない想像が、現実化したことを知った。

「ヴィンセントッ! ヴィンセント、大丈夫ッ!?」 

 後から来たヤズーが、俺を突き飛ばすようにして中に入る。

 ……いや、正確にはベッドのこちら側の所まで、だ。

 

 ……その、あの……アレ、いや、俺だってね、わかってたっつーか、ちゃんと考えてたの。

 あー、そろそろ、部屋、掃除しないとね〜って。

 でも、仕事もあるし、時間のあるときは、ヴィンセントと一緒に居たいから、ひとりで部屋に籠もって片づけ作業をするなんざ、健康な青少年にとっては拷問に等しくて……

「ちょっと、兄さん! ボケッと突っ立ってないで、そこらのものどかしてよ! ヴィンセントのところまで辿り着くこともできないじゃないッ!」

 ヤズーが怒鳴る。

 部屋の中は、クローゼットから吐き出された私物で埋まり掛けていた。

「あ、う、うん」

「あーあ、もう、何なのコレェ? 脱いだ服は浴室のバスケットに入れておいてって言ってるじゃない! どうして空き缶が放りっぱなしになってるの!? まとめておいて燃えないゴミの日に出さなきゃならないのに」

「いっそのこと、アホチョコボを燃えないゴミの日に出してやるか」

 ケケケとクソ意地悪な笑いを浮かべて、こっちを眺めていたのは、またもや招かざる客、セフィロスだ。

「あーあー、ひでーな。おい、ヴィンセント、生きてるか?」

 足の踏み場もないとは我ながら、まさしくこの事で、クローゼットからの雪崩をもろに喰らったヴィンセントは、半身がゴミ(?)の山に埋まってしまっている。あまりの事態に驚いたのだろう。埋もれたままの姿勢で、呆然と座り込んでいたのだ。

 ……いや、やっぱ、もうちょっと早く片づけておくべきだったな〜……

 でも、ベッドの上が無事なら、とりあえず眠ることはできるし、ヴィンセントと一緒のときは、当然のように彼の部屋にお邪魔してたから……

「兄さん、ほら、そっちどかして! これじゃ、奥まで行けないじゃない」

「あ、う、うん」

「あ、み、皆…… さ、騒がせてすまない…… 私なら大丈夫だ」

 洋服と雑誌で埋ったヴィンセントが、ようやく正気づいたように、おずおずとこちらを見た。 

「全然大丈夫じゃないじゃない! ヴィンセント、どっかぶつけたりしてない? ああ、もう、どうしてクローゼットに本なんて詰め込んでいるんだよ」

「あ、ああッ! ちょっ……ゴメンッ! ほ、本は触らなくていいから! 俺、片づけるし!」

 ……今さら慌てても、アフターカーニバル……後の祭り……だ。

 

 

 

 

 

 

「あッ、ヴィンセント、い、今、どけるからッ!」

 山積みになった衣服で、雑誌をくるんでなんとかごまかせないか……と、俺は最後の悪あがきを試みた。

 だが、それは最低サイアクの形で遮られた。

 セフィロスとヤズー……ふたりとも、俺より身長が高い……つまり足も長くてリーチがあるのだ。慌てて散らかった雑誌を取りまとめようと手を伸ばしたところ、ひょいと横合いから奪われてしまった。

「あああッ! やめっ! やめてよ、セフィ!」

「……ったく、『夜勤病棟 〜汚された白衣〜』 えーと、こっちは、『マナたん16才の青い果実』『となりのカノジョ』 ……おまえは、十代のガキか、クラウド」

「あー、こっちもスゴイよ、『巨乳ファイターM子』『朱い緊縛の罠』、『魅惑の教育実習生』。あーこの辺は全部H系のグラビアだね〜」

「ぎぃああああぁぁぁぁ〜ッ!!」

 遠慮会釈無く、隠しエロ本を暴露する二人組。

 ヴィンセントの前なのに……ヴィンセントの前なのに〜ッ!!

「ちょっ……よしてよッ! ふたりともッ! ヴィ、ヴィンセント、ちがッ、違うのッ!こ、これはね、あ、あの……ほ、ほんの気の迷いで…… そ、そう、もらった、もらったの! ホント!」

 いざとなったら、シドかバレットに悪者になってもらおう。

 俺とヴィンセントの愛のためだ!!

「もらったって分量じゃないでしょ、コレ」

 素っ気なくヤズーが言った。冷ややかな眼差しで俺を横目で眺めて……

 もう、ホント、他者を断罪しているときのヤズーって、どうしてこんなに冷たいの!?とりつくしまもないというのは、まさにこのことだ。

「いやッ! 捨てようと思ってたところなの、ちょうどッ! ああ、ほら、わざわざ返却するもんでもないしッ!」

「……へぇぇぇ〜 あー、こっちのグラビアなんか、シリーズで揃ってる。コスプレ系が多いですなァ」

「まったくだな。おまえは制服フェチだったのか?」

 けばけばしい表紙の雑誌を手に取り、これみよがしにパラパラとめくってみせるヤズー。相づちに余念のないセフィロス……

 フツー、男同士なら、こういうときヘルプしないか!?

 確かに、悪いのは俺なんだけどね。でも……あー、部屋ぐちゃぐちゃで、クローゼットにエロ本押し込んでいた俺が悪いんだってば!それはよくわかってるの!

 でも……

「よくもまぁ、ヴィンセントと一緒に住む家にこんなもの置いておけたよねェ〜」

 山と積まれた雑誌を押しのけ、ヤズーが長いリーチを生かして、ヴィンセントを引っ張り上げてくれた。

「ヴィ、ヴィンセント、ごめんね! 大丈夫!?」

 乱れた髪を撫で、俺は彼の白い手を取った。

「あ……ああ……まぁ」

「いや、もう、その……違うからね、あのッ……これは……その……」

 必死で弁解する俺に、ヴィンセントは苦笑した。

「別に……その……気にする必要はないのではないか? おまえだとて、健康な青年なんだし…… それほどおかしなこととは……」

「そう!そうなのッ! ほんの出来心っつーか。ヴィンセントに満足してないとか、そーゆーことじゃないからねッ!? 純真な心の為せる無邪気な好奇心ってゆーか、お茶目な悪戯ってゆーか……」

「どこが無邪気な好奇心だよ……」

 ボソッとつぶやいたヤズーを俺は黙殺した。

 だが、もうひとりのお邪魔虫、セフィロスが居る。

 ヤツは攻めの手を休めるような輩ではないのだ。

「あーあー、これとかページ、ガビガビだぞ」

「もう、ホント、使用済みってカンジだよねェ」

「ちょっ……よしてよ、アンタら! そんなことするか! 言ってんだろ、俺のは知的好奇心なのッ! 別にそんな下世話で下劣な目的のために……」

「そーかそーか、知的好奇心のために、創刊号から全部バックナンバー揃えてるんだな」

「よくもまぁ、集めたもんだよねェ」

 ほとほと呆れた口調でセフィロスが吐き出した。お手上げとばかりにわざわざ手を開いてアタマを振る。

「ま、まぁまぁ……皆…… そ、それより、クラウド、いいかげんに部屋の掃除をしたほうがいいと思う。汚れた部屋だと、ゆっくり休めないだろうし、疲れもとれないだろうから……」

 おずおずとヴィンセントが、つぶやいた。

 俺の気持ちを気遣ってくれて……ああ、なんてやさしいんだろう。やっぱ、セフィやヤズーとは違うからね。どれだけ家の連中に迫害されても、ヴィンセントさえ、俺の味方で居てくれたなら耐えられるから。

「まったくだよね。キノコ生えてきちゃうよ、兄さん」

「わかってるってば! なるべく早くやるから」

「……今日やりなよ。せっかくの休みだし、時間たっぷりあるでしょ」

「だって……せっかくの休日なんだもん…… 俺、ヴィンセントと……」

 そんなふうに口答えをしていた時……