In the middle of summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「……ウ、ウソ……だろ……?」

 惚けたような声が、自分の唇からこぼれ落ちるのを、俺はぼんやりと聞いていた。

 

「ヴィンセント……? セ、セフィロス……ッ?」

 俺は震える唇で、ふたりの名を交互に呼んだ。

 ヴィンセントはうつぶせに、セフィロスは仰向けになって倒れている。

 

「ちょっ……ウ、ウソだろッ? お、おい、セフィ! セフィってばッ!」

 頭を打った可能性がある場合、下手に身体を動かしてはいけない……そんな常識さえも失念して、俺はとりあえず、表情の見えるセフィロスの肩に手をかけ、ゆっさゆっさと揺さぶった。

 

 ヴィンセントはともかく、あの頑丈きわまりないセフィロスの倒れている姿が、俺をひどく動揺させる。

「セフィロスってばッ! しっかりしてくれよッ!」

 見たところ二人とも流血しているようには見えない。しかし、目を開けてはくれないのだ。

「ど……どうしよう……ヴィンセント、ヴィンセント……ッ?」

 今度は伏していたヴィンセントを抱き上げ、セフィロスよりは幾分やさしく揺さぶってみる。

 

「……う……ッ?」

 ヴィンセントの薄い唇から、小さなうめきが漏れた。

 よかった……彼の方は意識があるようだ。

 

「ヴィンセント……? ヴィンセント……ッ!」

「くそッ……痛ッ……」

「ヴィンセント、しっかりしてくれ。よかった気が付いてくれて……」

 俺がそんなことを言っている間に、身じろぎして立ち上がろうとするヴィンセント。

「ダメだ、ヴィンセント、まだ横になっていた方がいい。俺、タオル濡らしてくるから……」

「どけ、邪魔だ」

「え……ヴィ……ンセント……?」

「退けと言ってるんだ、クソガキが」

 ……と、ヴィンセントが言った。とても信じられないようなキツイ物言いで。

 

「え、あ、あの……ヴィンセント?」

「うるさい。頭が痛い……」

「あ、あの、ゴメン……」

 あやまる俺の手を振りほどき、さっさと立ち上がる。ズカズカと台所に行くと自分でタオルを絞って額に当てた。

 

「痛ッ……くそ、コブになりそうだ。また貴様か、このクソガキ!」

「ヴィンセント……? あ、あの、さっきから……言葉が何か……」

 先ほどから信じられない文言が、ヴィンセントの唇から飛び出してくる。一緒にパーティを組んでいたときも含め、これまでのどんな状況でも聞いたことのないような物言い……

 

「うっ……」

 惚けている俺の後ろで声がした。俺は弾かれたようにセフィロスの元に駆け寄った。

 

「セフィ? セフィ? ご、ごめん、俺……大丈夫か?」

「……あ……痛ッ……」

「セフィ……大丈夫? あ、俺につかまってくれ」

 大急ぎで手を差し出す。

 すると、セフィロスは弱々しい微笑を浮かべ、震える手で俺の腕に触れた。

 

「あ……すまない……クラウド……手間をかける……」

「え……? あ、いや、俺のせいなんだよ。俺がうっかり椅子の脚に引っかけちゃって……」

「まったくだ! おまえという子は人に迷惑を掛けずに生きられないのか、手の掛かる子どもがッ!」

 黒髪を掻き上げ、椅子に腰掛けたまま、吐き捨てるようにヴィンセントが怒鳴る。乱暴に足を組み替えると、「フン」と鼻を鳴らした。

 

 ……怒鳴る……? ヴィンセントがこの俺に?

 

「そんな言い方……別にクラウドだってわざとしたわけではないだろう。私も迂闊だった。つい……ぼうっとしていて」

「貴様は惚けていないときのほうが、めずらしいだろうがッ!」

「ちょっ……ちょっと待ってよ!」

 俺はやっとのことで、声をあげた。

 

「なんだ、クソガキ」

 とヴィンセント。

「どうした、クラウド……?」

 とセフィロス。

 

 そして、次にひどく神妙な声で、

「……な、なに……?」

 と、つぶやいたのは、『ヴィンセント』だった。

「どういうことだ、どうして、オレがそこに……」

 俺の腕につかまっているセフィロスを見下ろして、目を丸くする『ヴィンセント』。

「……私は……なぜ私が目の前に……」

 セフィロスのほうは、仁王立ちの『ヴィンセント』を凝視し、震える指で口元を押さえる。

 

 そして次の瞬間、『セフィロス』は、

「……あ」

 とつぶやいて、俺の腕の中に頽れた。