Radiant Garden
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「よし、戻るか」

 ため息が混じらないように、そう言った。

 ツレが出来ては、空間のゆがみなどを探しているわけにはいかない。

 今日はさっさと引き上げることにしよう。

「い、いいのか?」

「ああ、さっきも言ったろ。ただの散歩だ。特に用があるわけではない」

「そ、そうか…… だ、だが、何か目的があるように見えたから……」

 ……ムダにするどい。

 この男は自分自身のことには頓着がない分、家の人間に対しては恐ろしく敏感だ。

 プライバシーを暴くような不躾はしないが、常に気に掛けている。普段の素行の悪いオレのことなどは、殊の外注意を払われているような気がする。

 

「セ、セフィロス。も、もし、何かあるなら……私も手伝うが……」

 などとトンでもないことを言い出すのがこの男だ。お人好しといおうか、なんというべきか。

「何もない。それより腹が減った。さっさと行くぞ」

「あ、ああ!」

 慌てて後を追ってくる。

 

 ……危ない危ない。

 もし、ヴィンセントに気づかれたら、面倒なことになる。コイツ相手に『未知なる世界への男のロマン』などと語っても理解してはもらえないだろう。

 レオンだのもうひとりの『セフィロス』だのの世界……こことは空間を異にする人の世があるならば、見に行ってみたいと考えるのがフツーだと思うのだが……

 ヴィンセントは、物事をすぐにマイナス方面でとらえてしまうのだ。

『この家が好ましくないのか』だとか『私が愚図だから……』などと、挙げ句の果てに、すべておのれへの負債として受け止めてしまう。やっかいなことこの上ない。

 

「ほら、早く来い」

「わ、わかった……!」

 荷物を奪ったまま、ざくざくと進むと、ヴィンセントもようやく納得したのか、歩調を早めた。

 やれやれ、コイツの反応にいちいち逡巡しているオレもオレだがな。

 

 

 

 

 

 

「あら、おっかえり〜★ なんだ、二人一緒だったの?」

 キッチンから顔を出し、イロケムシが楽しそうにそう言った。

「あ、ああ! わ、私が彼を見つけたのだ……! 海岸線を歩いていて……とても背が高くて髪が長い人がいるなと…… すぐにわかった……!」

 何故か妙に嬉しそうに話すヴィンセント。こいつは本当によくわからん。

「ああ、そうなんだ。良かったね、さすがヴィンセント」

 イロケムシはにこにこ笑って応じる。

 

「でも、買い物なら車出すんだから、遠慮しないで言ってよね。何を買ってきたの?」

「ええと……夕食の食材の買い足しと……クラウドが食べたいと言っていた果物を……」

 そういう話になったら、オレは邪魔者だ。さっさと席を外し、ソファに寝ころぶ。

 ネコのヴィンがすぐさま腹の上に乗ってくる。ころころと転がってじゃれつくのはいつものことだ。

 

「あ、ねぇ、ところでさァ、見つかったの〜?」

 ようやく落ち着いたところで、頓狂な声がすっ飛んでくる。

「うるせーぞ、何の話だ!」

 新聞を眺めていたので、まともに聞いていなかった。

「やだなぁ、空間のゆがみだっけ。探しに行ってきたんでしょ? あなたって本当に負けず嫌いよねェ〜」

 

 ……!

 …………!!

 クソイロケムシ〜〜〜〜!!

 いや、あの勘どころのいい男のことだ。最初から気づいてはいたのだろう。

 だが、わざわざ、ヴィンセントの居る前で言うか!? それとも牽制策のつもりか!?

 あの小賢しい野郎のことだ。間違いなく後者に違いない!

 

「……何の話だろうか……?」

 案の定、不安げな面持ちでヴィンセントがやってくる。

 ちょうどクラウドのガキも仕事から戻ってきて、夕食という名の家族会議に突入しやがった……