Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<32>
 
 セフィロス
 

 

 

「……む?」

 アンセムの私室をいろいろと物色しているときに、レオンが尻ポケットから携帯を引っ張り出して、眉を顰めた。

「どうかしたの?」

 と、ジェネシスが訊ねる。リクのほうは、今日持ち帰る分の資料を選んでいる。

「いや……すまん、ちょっと外に出る。ああ、そっちのドアからの続きが彼の寝室だ。特に見るようなものもないと思うが、護身用の武器がおいてある」

 そういうと、レオンは携帯の電話口で手で押さえながら、足早に部屋を出て行った。焦った素振りをあえてみせないところが、よけいに彼の焦燥をあらわしているようだ。

 

「ふふ、たぶん、クラウドなんじゃないかな。少し時間がかかると思うよ」

 と、リクが笑った。

 どうやら、リクはかなり察しのいい青年らしい。おそらくレオンとクラウドとの関係にも気付いているのだろうが、取り立てて気にしている様子でもなかった。

「ねぇ、リク、寝室ってこっちのドア?」

 部屋を横切っていって、ジェネシスが訊ねる。

「ああ、そうだよ。特に本や資料のようなものは置いていないけど」

「フフ、ベッドルームって気になるじゃないか。是非とも見てみたいものだねぇ。ほら、行こう、セフィロス」

 などとオレを促す。まったく物見高い男だと思う。リクが気付いているのかは知らないが、ジェネシスのような野郎は、コンピュータールームと書斎、寝室があれば、真っ先に寝室を覗きたがる男なのだ。

 おおよそこちらの私室にも面白そうなものを見つけることもできず、退屈していたオレは、素直にジェネシスの言葉に従うことにした。もしかしたら、武器の類はベッドルームに置いてあるのかもしれない。

 そう、オレがもっとも関心があるのは、野郎がどんな戦闘能力を持っていて、何を武器に使うのかということであった。

 

 

 

 

 

 

「へぇ……ここもなかなか広い部屋だねぇ…… レースのカーテンに、天蓋付のベッド…… 貴族趣味がよく出ている。でも男性としてはいささかくどいかなぁ」

 ジェネシスがひとりでうんちくを垂れている。

 勝手に入り込んだ寝室は、十分な広さがあり、やや長細い作りの部屋の中心に、オーガンジーが幾重にも重ねられた天蓋付の寝台が置いてあった。やや入り口寄りにクローゼットやチェストなどが置かれている。

 また、凝った作りの鏡台は、一目見ただけでも特別な注文品だとわかった。

 

「なんだか女の部屋みてーじゃねーか、気色悪ィ」

「科学者ということだし、デリケートな人物だったんじゃないかなぁ」

 のんびりとジェネシスが言う。

「どうして、ベッドにこんな装飾が必要なんだ。邪魔なだけじゃねーのか?」

「もろに陽差しが入ってこないし、湿度も保たれるだろう?」

 ジェネシスの言葉に、オレはあからさまにうんざりとした表情をしていたのだろう。ヤツはやや呆れたように、この部屋が似合いそうな男の話をもちだした。

 

「……そういえば、君たちの家でも、女神の私室には入ったことがなかったな。どんな雰囲気なんだろう」

「ヴィンセントの? 別にごくフツーの部屋だぞ」

「おまえの表現法は本当によくわからないね。『フツー』とやらの定義がわからない」

「フツーはフツーだ。華美な印象派ないし……スチール製の家具よりも、白木造りの素朴なものが好みのようだ。確かベッドもそんなヤツだったような気がする」

 オレは何度かあいつの部屋に行っているが、いざきちんと思い出そうとしても、あまり印象に残っているものがない。なんとなく、白くてボワンとかすんでいるような部屋だったような気がするだけだ。

「……おまえが女神のベッドについて語るのは、なんというか……こう落ち着かない気分になるね」

「なんなんだ、テメーはケンカ売ってんのか!?」

 いいかげん、いらついて大声を上げたときだった。

 幾重ものヴェールに覆われた寝台が、ギシリと鈍い音を立てた。

 

 ……人の気配がする。

 いや、それならば、このオレやジェネシスが気付かないはずがない。向こうの部屋にいるリクだって、何も言ってこないではないか。

 だが、確かに誰かが居る。

 そいつが意識的に気配を消していたのだ。