Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<62>
 
 セフィロス
 

 

「『セフィロス』!?」

 レオンの声がひときわ高くなる。

「『セフィロス』、どうしたんだ!しっかり……」

 そう言いかけたレオンの声が途中で途切れる。

 うずくまった長身の足元に黒く蠢く影があらわれる。

「ぐ……うぅ……」

 『セフィロス』の、不穏な様子に、オレとジェネシス、リクもすぐさま、ガラスケースの側近くに駆け寄ったが、いったい何が起こっているのかは理解できない。

 ただ『セフィロス』の肉体が、徐々にその黒い影に浸食されつつあるのだということだけは、単純に視認することができる。

 

「これは……」

 リクが呆然とした声でつぶやく。

「どうした、何が起こってるんだ?」

「まさか……でも……」

 口元を押さえ、リクが緩慢に頭を振る。

「おい、リク!」

「あ、いや……俺も見たことはないんだ。でも……あの影……」

 リクの言う『影』は、すでに『セフィロス』の足元から徐々に下半身を覆い尽くすほどまで成長しつつある。

 当の『セフィロス』の様子もあからさまにおかしい。

 巨大なモンスターを相手に戦っていたときは、涼しい顔をしていたくせに、今は眉間に苦痛のシワを刻み込み、膝をついて自身のからだをかき抱くようにしている。

 そう、まるで得体の知れない痛みから、その身を守るようにだ。

「『セフィロス』!『セフィロス』!」

 レオンはあきらめることなく、ガラスケースを剣でたたき壊そうと試みるが、もはや『セフィロス』はそちらに注意を払うことすらしなくなった。

 

 

 

 

 

 

「リク、何なんだ、あの黒い影は」

 重ねてジェネシスが問うた。

「……ノーバディだ」

 リクが独り言のようにつぶやいた。

「ノーバディ?」

 オレはそう訊ね返す。

「……たぶん、『死の大天使』から、ノーバディが生まれようとしているんだと思う」

 リクの言葉に、それがただごとでないのだと理解できる。

 正直、オレにはこの世界の絡繰りなど、わかりゃしないし、ノーバディが生まれるということ自体もその原理についてよく知らない。

 だが、あの『セフィロス』から、ノーバディが誕生したとしたら、本体はどうなるのだろうか。強い心を持つ者から、ノーバディは生まれるという。

 その『心』を奪われた本体は、ホロウバスティオンに住む、心を失った人間どものように、ずっと眠り続けることになるのだろうか。そして今まさに生まれようとしているノーバディは、傀儡のごとく、13機関に従うだけの存在と化してしまうのか。

「ジェネシス、行くぞ! 力尽くであの箱庭をぶっ壊せ!」

 オレはジェネシスに声を掛けた。

 リクもすぐさまキーブレードを構えて、レオンのとなりに並んだ。

 

 総勢、四人の剣士が、力任せにガラスケースに刃を向けようとしたとき、ジュラルミンの敷居がするすると持ち上がり、オレたちは、初めてゼムナスという男と対峙することになった。