セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 セフィロス
 

  

「はっ……はぁっ……い、今……」

「落ち着いてくれ、ゆっくりでいいから」

 そういいながら、ヴィンセントが必死に背中を撫でてくれる。

 オレはベッドに横になることも忘れて、寝台の上でもそのままの姿勢でうずくまっていたのだ。

「いっ……今……いま……」

「セフィロス、ゆっくり……呼吸をととのえて……」

「い、今……便所にいったら…… 水が……」

 うっと息がつまる。嫌な吐き気までこみ上げてきてオレは口元を押さえた。

「水が……水が……真っ赤……真っ赤に……」

 皆が顔を見合わせる気配を感じた。

「そ、それって……」

 その中でもいち早くイロケムシが察したらしく眉を顰める。

「あー……参ったね。さすがに用意がないよ」

「な、なんだ、アレは。あんなに真っ赤に……あ、あれがアレか?」

 オレも自分で言っていて、おそらく『アレ』だろうと思ってはいたが、血なんぞ戦闘の時くらいしか見ることはないのだ。

「ああ、お腹が痛いと言っていたのも……」

 と、ヴィンセントが何かに気付いたように頷いた。

「お、おい……これは……アレか。あんなに真っ赤っかに……女は毎月こんなものに耐えているのか……!?」

「まぁ、そうだな……」

 と、ジェネシスがひどく気の毒そうに認めた。

「これはその……風邪じゃないね。鎮痛剤飲んで横になっていた方がいい」

 イロケムシがあらためて薬をもってくるといった。

「なんだこの鉛を入れたような鈍い痛みは……あんなに血が出たら……うっ……!」

 『何かが出てくる』というひどく不気味な感覚。全身の汗がすーっと引いて、悪寒が襲ってくるようなこの感じ……

 オレはベッドから降りると、ふたたびトイレに飛び込んだ。

 小用はさっき済ませた。

 そちらじゃないのだ。『出る』という感じがちゃんと身体に伝わってくる。

 ふたたび、ドドドッと体内の血なのか、他にも何か混じっているのかわからないものを排出する。

「女は……すごい……」

 よろよろとサニタリールームから出てきたオレは、そんなことをつぶやいたらしい。自分で覚えていなくて、後からイロケムシに聞いたのだ。

 そのままオレは気を失ったらしい。床に身体を打ちつけずに済んだのは、遺憾ながらジェネシスのヤツがすばやくオレの身を掬い上げてくれたからだという。

 

 

 

 

 

 

「……これがオレ様の人生最悪の一週間だ」

「ちょっとセフィロス、誰に向かってしゃべってるの?」

「画面の前の腐女子どもだ。……とりあえず女は我慢強いのだと知った」

 正直な気持ちをオレは口にした。

「今は絶好調と言った雰囲気だね、セフィロス」

 と、ジェネシスがいう。

 それもそのはず、魔の一週間は過ぎ去ったのだ。

 あの恐ろしい……耐え難い一週間……

 

 例の、血……が出なくなったと思ったら、あっさりと翌日の朝、もとの男の身体に戻っていたのだ。オレが家中に響き渡る声で快哉を叫んだのはいうまでもない。

「ああ、男はいい!この肉体こそ、オレ様の完全体だ!おかわりッ!」

 と、三時の茶菓子を食らい付くす。甘ったるい洋菓子は苦手だが、今ならいくらでも食べてやろうという心持ちだ。

「も、もとに戻ってからよく食べるな、セフィロス」

 ヴィンセントが茶を注ぎながらそう言った。

「男の身体がエネルギーを欲して居るんだ」

「でもなぁ……これをいうとおまえに叱られそうだが……」

 そう口火を切ったのはジェネシスであった。

「この一週間……おまえは女性の身体だったわけだろう。だとしたら……もし……」

「なんだ、はっきり言え」

「言っても怒らないか?」

 くすくすと気に障る笑みを浮かべながらジェネシスが言葉を続けた。

「今のオレ様は気分爽快だ。そこまで口にして黙っていられる方が不愉快だな」

「いやぁ……ねぇ。もしかしたら、子ども……産めるのかなぁって」

 そのクソとんでもないセリフに、オレはブーッと茶を噴き出した。

 

「あははは、変なこと考えちゃってごめん。でも、おまえの子どもならさぞかし可愛いだろうなぁとね」

「子ども……セフィロスの子……」

 と、ヴィンセントがどこか夢見がちにつぶやく。

「き、貴様ッ!何を考えてやがるこの変態!」

「失敬だなぁ、だっておまえの子なんだよ。まぁ、父親を誰にするかというのが問題にはなるけど、きっととても愛らしい子ができたにちがいないのに」

「ジェネシス!テメェはもう半径三メートル以内に寄るなッ、気色悪い!ヴィンセント、おまえもつまらん想像をするんじゃねぇッ!」

 

 ……ということで、悪魔に魅入られたかのような一週間が過ぎ去って行く。

 やはり、オレは男だ。

 元に戻ってみてつくづく感じる。

 ものの見方も考え方も、まごうことなき男性のものなのだ。

 

 ……だが、今回の一件で、ほんの少し世の女たちを見直した、オレ、セフィロスであった。