Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「……しかし、心洗われるような光景だな…… 美しい森だ……」

 ヴィンセントが感嘆の吐息をつき低くつぶやいた。

 この前と違って夜中じゃないから、ある意味心強くもある。こんな場所で視界が聞かなければ、一層不安が煽られるだろう。

「そうだね〜。こんな場合じゃなければ、みんなで避暑に来たいくらいだよね」

 苦笑しつつヤズーが応えた。俺と同じコト考えている。

 なんといってもコスタ・デル・ソルは暑い! 木漏れ日の差す、このくらいの陽気が一番過ごしやすい。涼しい風も吹いているし。

 ロッズやカダージュは、道ばたに咲いているめずらしい花とか、昆虫を眺めているだけでも退屈しそうになかった。

「でもさ……確かに景色は綺麗だけど、みごとに人っ子一人いないじゃん…… まだ昼間だからいいけど、夜までには落ち着ける場所みつけなくちゃなァ」

 俺はそう言った。

 野宿でもいいんだが、ヴィンセントを外で寝かせるのは気が進まない。

 それに、もともと、大自然に感動するタチではないのだ。ニブルヘイムというド田舎で育った俺は、あまり自然に囲まれるとうんざりしてくる。もっと人工的に手の入った場所のほうが好きだ。

「……セフィ、大丈夫? さっきからずっと黙ったまんまだけど」

「…………」

「足、痛いの?」

「……ケッ、もうとっくに完治してる。なんともない」

「そんならいいけどさ」

 ……なんかセフィが無言だとコワイ感じ。

 

「……向こうに、何か見える。塔……か?」

 少し前を歩いていたヴィンセントが、こちらを振り返った。

 ……どうして今まで気がつかなかったのだろう。足下ばかりを見て、遠くを見渡していなかったのだ。ついつい森の中だと、普通の道路を歩くようには進めないから。

「兄さ〜ん!ヤズー! ねぇねぇ、あっちのほう! ちっこいけど家があったよ!」

 今度はカダージュがそう叫んだ。彼らは俺たちよりずっと前に行っていたから。

「あー、よかった。どうやら方向的には間違えてなかったみたいだね。小さな家があって、塔が前方に見えるんなら、たぶん市街地はこっちのほうなんだろう」

 ほぅっと安堵の吐息をつくヤズー。俺もつられて大きく息を吐き出した。

「ホント、マジよかった。野宿なんかになったらシャレにならん」

「そうだよね。俺たちはいいけど、ヴィンセントには可哀想だからね」

「よくわかってんじゃん、ヤズー。さてと、じゃ、まずはカダたちの見つけた家を訪ねてみようぜ。塔のある場所までは、まだ距離があるし」

 そんなこんなで、俺たちは早足で森の中の一軒家に向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜ん! 白雪が〜」

「あぁぁぁん! 白雪がぁ〜!」

「攫われたぁ! どこかに行っちゃったァ!」

 大合唱で泣き喚いているチビども……

 っていうか、これ……『オレ〜!!』

 

「うっわぁ〜…… 兄さんのミニチュアがいっぱい…… 一、二……七匹いる」

「七匹いうな!!」

 と、ヤズーを叱りつける。

「こびとさん……だよね? わぁ〜、可愛いなぁ」

「カダも! 可愛いっていうな!」

「だって、本当に可愛いんだもん。どうしたの、兄さんのこびとさん? なんで泣いてるの〜」

 小動物好きのカダージュとロッズが、ビースカ泣いているこびとどもに声を掛けた。

 ヤズーのほうは、ものめずらしげに、家の中を……というか、これはほとんど『小屋』だと思うのだが……、その中を眺め回していた。

「うわぁ〜ん! 白雪が〜」

「あぁぁぁん! 白雪がぁ〜!」

「ねぇねぇ、兄さんのこびとさんたち、話、聞かせてよ。僕ね、カダージュ」

「俺はロッズ!」

「うわぁ〜ん!」

「あぁぁぁん!」

「うるせぇ! そのクソガキ共を黙らせろッ!」

 早々にキレるセフィロス。だんだんキレる速度が増しているような気がする。

「もう、やめてよ、セフィロス。せっかくの手がかりなんだからね〜。ほらどいて」

 ヤズーは仁王のように立ちはだかるセフィロスを押しのけ、俺のツラをした……いや、『俺とそっくりな顔をした』七人のこびとに向き直った。長身の膝をかがめて、話を聞きだす。

「ねェ、君たち。お願いだから泣きやんで。なにかあったのなら話を聞かせてくれない? もしかしたら、君らの手助けができるかもしれないよ?」

 マドンナの微笑みを浮かべ、やさしく問いかけるヤズー。

 十代の童貞少年なら、それだけで昇天しそうななまめかしい微笑みだ。性格はともかくヤズーの外見は、ヴィンセントに匹敵するような美しさなのだ。艶やかさという点では、より彼のほうが勝っている。

「うっうっうっ…… て、手助け?」

「うん、そう。こうして泣いていても仕方がないでしょう? 誰が攫われたって?」

「し、し、白雪が……」

「お、俺たちの白雪姫が、王妃の化けた悪い魔女に……」

 ちびっ子どもは口々に『白雪』という単語をつぶやいた。

 ……ここまでくりゃ、俺にだってもうわかる。

 今度のステージは、『白雪姫』だ。

 きちんとしたストーリーは覚えてないけど、確か毒リンゴ食らって、眠り込んだ娘の話だ。

 ってェ、ことは今度のミッションは、毒リンゴの女の子を、正気に返してやって……ええと、どうやるんだっけ?というか、エンディングは確か……

 と、俺が必死に記憶の片隅に置いてあった、乏しい知識を手繰っていたところである。

 俺にそっくりなツラをした、チビガキのうちのひとりが、

「あ〜〜〜〜っ!」

 と、甲高い声を上げやがった。