Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<13>
 
 ヤズー
 

 

 

「よし、用意はいいな」

「オッケー、セフィ」

「僕も!」

「こっちも大丈夫」

 兄さん、カダ、ロッズの順に、元気に答えているが、俺はミッション開始前から、少々うんざりだ。

「おい、イロケムシ、上手くやれよ」

 相変わらず偉そうに、セフィロスがそう言った。

「まぁ、わかってるけどさァ。なんでいつも色仕掛け役が俺なのかなぁ。まぁ、今さら文句は言わないけどォ」

「つべこべ言わずにさっさと行ってこい。オレたちはここで待機しているからな!」

「ハイハイ、わかってるよ」

 俺はシャンパン色のドレスを引き摺り、さっさと歩き出した。

 城下町はごくのどかな田舎町だ。城に近い場所には、貴族らしき者たちの邸宅が並んでおり、そこからしばらく下れば、普通の民家が建ち並んでいる。

 花売りや野菜売り、人だかりがあるのは、マーケットらしき場所のようで、なかなか活気がある。

 俺たちは、何食わぬ態で街を抜け、貴族の邸宅が建ち並ぶあたりにまでやってきて、林園に身を潜めたのだ。

 まずは俺ことヤズーさんが、ジェネシス王子に借りたドレスに着替え、貴族の夫人を装うのだ。巡回している兵士を呼び止めるには、たおやかな女性のふりが一番怪しまれないし、言うことを聞いてもらえるだろう。

 なんとか兵士共を上手く言いくるめ、彼らを人目に付かぬ場所まで引き寄せた段階で、身ぐるみを剥ぐ。そう、目的は城に堂々と忍び込むための小道具……兵士の軍服を手に入れることだ。

 兵士の装束を身につけていれば、なんとか怪しまれずに城に潜り込めるだろう。

 正面玄関から特攻しても、敵を倒し進んで行く自信はあるが、なんせ城の中だ。どれほどの兵力があるのか想像も付かない。ジェネシスの王子からの助言からしても、ちょっとやそっとの人数ではなかろう。

 それならば、だませるところまでは相手方を欺いた方が、結果的に効率がいいと考えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 日よけ傘を差し、いかにも貴族の夫人然として一小隊に近づく。

 五人一組で、城から城下町を練り歩き、警備をしている兵士たちが居る。

 なるべく俺たちに近い体格の者らが連れ立っている小隊に目星を付け、俺は足早に彼らに近づいた。

「……失礼、城下の警護の方ですわね」

 にっこりと微笑んで、声を掛けると、彼らはすぐに応じてくれた。

「実は連れの者が急病で……手をお貸しいただけませんか?」

 しなを作ってそう頼むと、彼らは拍子抜けするほど、あっさりと付いてきてくれた。

「見回り中にごめんなさいねェ、本当に皆さんのような方たちがいてくださるから、私どもも安心して暮らせるわァ」

 などと適当なおべんちゃらを口にする。この段階で疑われては元も子もないのだが、あまりに愛想良くしてしまったせいか、兵隊さんたちの目つきが微妙だ。

 おかしな期待をされても困惑するのだが、しょせんこちらの目的はひとつである。

 俺は彼らを、セフィロスたちの潜む、予定通りの場所まで誘導した。

 彼らがカモフラージュ用の馬車を覗き込んだところ、セフィロス他数名の『暴漢』が一斉に飛びかかり、第一段階はあっという間にTHE ENDした。

 

「さすがヤズー。あっという間に呼びつけてきたね」

 気を失った兵隊の軍服を脱がせながら、兄さんが言った。

「まぁね。男ってバカだよねぇ。ちょっと美人を見ると、すぐに鼻の下伸ばしてさァ。ホイホイついてきちゃって」

「えー、でも、ヤズーが相手じゃ仕方がないよ〜」

 とうれしいことを言ってくれたのは、弟のカダージュだ。俺にとって一番大切な人間でもある。

「まぁ、そうだな、おまえの取り柄はツラと悪知恵だ」

「失礼だね、セフィロス」

 そう言い返すが、彼はいつものように、フンと顔を背けた。

「ねぇ、ところでセフィ。手はずは?」

 兄さんが訊ねる。アナログな軍服を着た彼は、なんだかおもちゃの兵隊さんのように見えた。

「まずは怪しまれないよう、陽のあるうちに、城に忍び込む。見取り図は頭に入っているが、思ったよりデカイ城だな」

「う〜ん、まぁね。それより厄介なのは、俺たちが互いに連絡を取り合えないことだよねェ」

 さっさとドレスを脱ぎながら、俺はそう言った。

 ご存知、ここは童話の中の不思議な世界。舞台は『白雪姫』なのである。

 当然、携帯電話だの、トランシーバーだのが存在するはずもなく、武器も剣と弓がよいところだ。

「時計ってモンもないし、頼りになるのはジェネシス王子の合図だけか」

「まぁ、あの男なら上手いことやるだろ。そう難しいことを頼んでいるわけではないし」

 セフィロスが言った。

 ジェネシス王子には、こちらの時刻で、夜七時から、一時間ごとに鐘を鳴らしてもらえるよう頼んである。

 俺たちは全ての行動をそれを合図に行うよう、段取りしてあるのだ。

 まずは日没までに城に忍び込み、警備隊の振りをして居城内の地理を頭に叩き込む。ある程度の時間を凌いだ後は、脱出の手はずを何カ所かに準備した上で、夜間に行動開始だ。

 この時代、灯りは、蝋燭とランプのみ。夜闇に乗じて、目的の白雪ちゃんを助け出す。

「ま、忍び込んでから後は、臨機応変にだね。お互い怪我しないよう、がんばろう」

 俺はそう言った。

 いよいよ、不思議の国でのミッション・スタートだ。