〜 Amusement park recreation 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

 

 

9:40 

 

「おい、例のところは、オレの名前で話を通してあるんだ。遊びに行きたきゃ、今日はしくじるなよ」

「わかった、わかったぞ、と。だが、言っておくが、アンタの演技力にも掛かっているんだからな。わかってんだろうな?」

「クラウドのところに行くためなら、たやすいことだ」

 あっさりと請け負うオレ。

「ヘェヘェ。しかし、クラウドもずいぶんと気に入られたもんだぜ」

「当然だ。あの子が入社したときから目を付けていた。……手ェ出すなよ」

「出すかよ。俺はそんな命知らずじゃないぞ、と」

「わかってりゃいい。それじゃ、上手くやれよ。……入るぞ」

 最後に一言念を押すと、レノを促した。

 

 

 

9:45

 

 ちょうどよい頃合いだ。

 人も未だ少ないし、空席がかなりある。今日のミッションのためには、レノととなりの席に座らねばならない。

 部門別合同会議は、だだっ広い部屋に設置された長テーブルについて行われる。会議用のテーブルという色気のないヤツではなくて、きちんとクロスの掛かった小洒落たものだ。

 しかも、座席もフリーで、敢えて同部門同士で着席する必要さえないのである。この時点で、すでに会議の主眼は、議題を突き詰めることではなく、懇親会に置かれているとわかるだろう。

 

 朝の十時前におっ始まって、延々夜まで。せっかくクラウドと過ごせる休日なのに、そんなモノに付き合っていられるか!!

 不機嫌なツラで室内に入ると、すでにジェネシスが着席していた。

 いつもは遅刻ギリギリか、アンジールが呼びに行ってようやくやってくるくせに。(まぁ、オレも人のコトは言えないが)

 こいつは、いつもわけのわからん笑みを浮かべたヘラヘラ野郎で、同じソルジャー1stだが、気色悪くてキライだ。

 案の定、ヤツはこちらに気付き、ヘラヘラと手を振ってきたが、無視して都合のよい席に着く。弱腰のレノが、オレをつついて代わりに挨拶していた。

 

 

 

11:20

 

「……以上が、年次報告事項及び、課題です」

 どこぞのセクションだが知らんが(聞いていなかった)、ちょび髭オヤジの報告が終わったところで、レノに目配せを送る。

 そしてオレはシナリオ通りに、腹を抱えるような体勢でデスクにつっぷす。

 ヤツは決心を固めたらしく、大声を出した。

「セフィロス! セフィロス!? 大丈夫だろうか? あー、えーと、あの、スンマッセン。この人、具合悪いみたいなんで、あの、保健室連れて行きます」

 ベタなシナリオを棒読みのレノ。いや、確かに恐ろしいほどベタだと思うが、技工をこらすより、こういったあっさり系のストーリーの方が疑われないと思ったのだ。 

 ……っていうか、レノ……貴様、小学校の保健委員か!?

「何だと!? セフィロス、どうしたのだ? どこが痛むのだ!?」

 ……まずい、この声は、ルーファウスのクソガキだ。

 こいつは、少しばかりクラウドと似た容姿をしているが、腹の中は真っ黒だ。物事を斜めに見ることに慣れ、目端が利く。見破られては計画がおじゃんになる。

「……あーうー、レ、レノ」

 さっさとずらかるぞと言いたいところだが、うめき声で意思表示するしかない。

「あ、い、いや、副社長。あの感染るとヤバイっす」

「感染る? 何か重篤な……」

「あー、いや、あれ、ほら、性病とかだと……」

 机の下で野郎の足を踏みつける。

「いでッ あー、アレとかって空気感染じゃないスよね……」

 このクソバカ野郎がッ!! ウソを吐くのでも言葉を選ばねーかッ!

「い、いや、たぶん、大したことないッスよ。でも、さすがに今日の会議は無理だ……よな? セフィロス」

「あーうー」

 俯いたままコクコクと頷く。顔を上げるとバレそうだ。

「そうだな、至急特別病棟の手配を! それから腕のよいセンターの医師を回すように……」

「あー、ああ、あの副社長。そこまでされると、きっとこの人も恐縮しちゃうと思いますんで〜…… あーえー、とりあえず、今日は面会謝絶っつーことで、私室で休むと…… そんなとこで、どうだよ、セフィロス」

 コクコクコク、だ!

 さっさとしろ、レノ! オレはあまり演技が上手くはないのだ。

「セフィロス……? 本当に大丈夫なのか? もし、万一のことが……」

 うぜーな、坊ちゃん!懐くな! おまえなんざ、好みなのは外見だけだ!! 

 試しに、一度寝てやったくらいで、自分のモノ扱いをするな、ボケが!!

「……大丈夫だ。騒がせてすまん。このままでは迷惑を掛けるだけだ。引き取らせてもらう」

「……セフィロス……」

「本来、今日は休暇であったはずだ。……少し、疲れているらしい」

 ぼそぼそと、いかにも具合が悪そうな低い声でいうと、さすがのルーファウスもそれ以上、無理強いすることはなかった。

「……レノ、セフィロスを部屋へ送るように」

 ルーファウスを席に戻らせ、タークス主任のツォンが言った。タークスからは主任とハゲも出席しているはずだ。レノが外しても問題はないという判断だろう。

 オレはやや大げさにレノに肩を借り、ずりずりと足を引きずりつつ、退室した。

 人の良いアンジールが、本気で心配そうにこちらを見ていたのは、良心が痛んだが、クラウドのためなのだから致し方ない。

 ジェネシスの阿呆は、相変わらずヘラヘラと薄笑いを浮かべていた。