Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「なるほど……ヤズーの店にね……」

 ソファに腰を下ろしたクラウドが、思案深げに頷いた。

「も、もし、彼に迷惑がかかったら困るし……ましてや未成年のカダージュに行かせるわけには……」

「やだっ! 僕も一緒に行く、ヤズーに会いに行くんだッ!」

「どけ、クソガキ、ピーピー騒ぐなッ!」

「まぁまぁ、ちょっと待てよ」

 そういって、争う二人をいさめると、クラウドは「フッフッフッ……」とよからぬ笑みを浮かべるのだった。

 

「ク、クラウド……?」

「俺も行く」

 いきなり立ち上がると、そう宣言するクラウド。

「ええッ! ク、クラウド? 何を……」

「いいじゃん。どんなとこなのかキョーミあるしさ。ヤズーのホストっぷりを見に行ってやろうぜ」

「だ、だが……ふ、ふつう、女性が行くところなのではないのか?」

「別に平気だって。クラブっつっても、ダンスクラブみたいなモンだろ。ここらの店はホストもホステスもいるし。どっちでも楽しめるんだろうからな」

「だ、だが……でも……」

「まぁまぁ、たまにはいいじゃん、ヴィンセント。あ、ちょっと待ってて、セフィ。俺、着替えてくるから」

 そういうと、クラウドは兎のようにぴょんと飛び跳ね、部屋へ戻ってゆく。

「おい、きちんとキメろよ。みっともない格好されると、一緒にいる俺が恥をかく」

 その後ろ姿に声をかけるセフィロス。

 

「セ、セフィロス……どうして……クラウドまで……」

「フフン、ぶつぶつ言うな、ただの余興だ。 ……ああ、そうだ、そこのガキ。ヴィンセントも一緒について来るなら、おまえも連れて行ってやる」

 セフィロスは、いきなりとんでもないことを言い出した。

「ホント? ホントにッ?」

「ああ、口説くならさっさとしろ」

「ヴィンセントーッ!」

 子猫のようなイキオイで、今度は私にしがみついてくるカダージュ。

「ねぇっ、ねぇっ、お願いだよ、ヴィンセント! 一緒に来てよ! ヤズーに会いたいのッ」

「カ、カダージュ……」

「ね?ね? 僕、ちゃんと静かにしてるから。ね? 絶対に迷惑かけたりしないからッ!」

「…………」

「お願い! ヴィンセント!」

「だ、だが……」

 こんな子どもに瞳を潤ませて懇願されては、さすがに断りの言葉も思いつかない。

                                                                              

「で、では……店に行っても、騒いだり、ヤズーの困るようなことをしないと約束できるか?」

「うんっ!うんっ! 約束するッ」

「……カダージュはまだ年少なのだから、酒を飲んではダメだぞ?」

「うん、僕、飲まないッ!」

「……わかった……一緒に行こう……」

 私がため息混じりにそうつぶやくと、カダージュは万歳とばかりに飛び上がったのであった。

 

 結局、家を出られたのは、それから30分以上後のことであった。

 すでに休んでしまったロッズの枕元に書き置きをしたり、家の戸締まりを確認したり、なにより、服装を整えるのに時間を要した。

 

 セフィロスの機嫌を損ねるのではないかと心配したが、なぜか彼は上機嫌で心なしか楽しそうにも見えた。

 

 もちろん、皆、場違いにならぬ服装に着替えている。

 

 クラウドとカダージュは、プレーンな黒のスーツで、リボンタイに比翼仕立てのシャツが品のいい印象だ。

 セフィロスはさすがに様になっている。

 ダークグレイの三つ揃いに、シルクのアスコットタイ。光線の加減で銀色にも見える生地だ。タイピンはチェーンのついた、シルバーゴールド。石のついてないアクセサリーが好みらしい。

 

 私はセフィロスの選んだスーツを着ている。

 最初に定石通り黒の礼服を着てみたのだが、あっさりと却下された。

 髪の色が黒だから、黒のスーツは重すぎるということらしい。

 

 情けないことだが、私に服装のセンスは皆無だ。結局、いわれるままに彼の選んでくれたものを身につけたのだが……

 ……柔らかな色合いのオリーブ色のスーツ。シャツはアイボリーの開襟。ネクタイはつけない。

          

「フフン、よく似合っているではないか。……こちらを向け」

 そういうと、彼は慣れた手つきで、私の胸元にポケットチーフを入れてくれた。私の瞳の色と同じ、深い紅のものを。

 

「ヴィンセント……すごい……綺麗……かっこいい……よく似合ってるよ……俺、ドキドキしてきちゃった……」

「ヴィンセント〜、きれ〜い、びじ〜ん、なんかすんごくオシャレな人ってカンジ〜」

 クラウドとカダージュにそんなふうに誉められて、赤面してしまう。

 セフィロスが満足そうに頷く。

 

 ……私などから見れば、セフィロスの姿の方が、遙かに見映えもするし、美しいと感じるのだが……

 そう告げてみると、一笑され、「あたりまえだろ」と素っ気なく言われてしまった。