Summer Vacation 
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「カダ、大丈夫だ、俺はどこにも行かないから」

 俺はごく静かに、セフィロスもカダージュも刺激しないように、そう語りかけた。

「……ホント……? 兄さん」

「ああ、セフィロスは……その……まぁ、ちょっと事情があって居てもらってるんだ」

「わかったか、クソガキ」

「ちょっ……大人げないなぁ、アンタは!」

 俺が怒鳴ると、セフィロスはフンとばかりにそっぽを向いた。

「兄さん……」

「ん?」

「兄さん……僕のこと、好き? キライになってない?」

 ぐずぐずと鼻をすすり上げて、尋ねるカダージュ。いつかヤズーが言っていたとおり、情緒面は本当に子どもと変わらない。

「俺はちゃんとカダのことが好きだよ」

「……ホント?」

「本当だよ、あたりまえだろ」

「……な? わかっただろう……おまえは何も心配する必要はないんだ……」

 ごく穏やかに、優しい声でヴィンセントが言った。カダージュの顔をのぞき込むようにして言い聞かせる。こんな場合だが、ヴィンセントのしぐさに胸がトキめき、カダージュをうらやましく感じる俺は末期症状だと思う。

 

「でも、僕、兄さんに会いに来たのに……ヤダよ、帰るの……せっかくせっかく、まだお話できると思ったのに……」

「カダ……それは……」

「兄さんはセフィロスと僕、どっちが大事なの、どっちが好き?」

 ……これだから子どもは……

 俺は、正直舌打ちしたい気持ちだった。よくよく考えてみれば、自分自身も、リーブを手助けに行くヴィンセントに、同じような物言いをしていることを棚に上げまくっているわけなのだが。

 

「バカ者、この私に決まっているだろう」

 ざっくりと言ってのける英雄。

 『アンタも子どもだな!』と叫びたくなる。

 だが、カダージュも負けてはいない。未だ涙の乾かない瞳で、ギッとセフィロスを睨み付けると、言葉を重ねた。

「偉そうなこと言うな! 兄さんがアンタのこと好きだったのは昔の話だろ!」

「その『昔』を知りもしない子どものくせに、貴様のほうこそ偉そうなことを言うな」

「僕、知ってるもん! この間、リユニオンしたの忘れたのかよ! セフィロスと兄さん、付き合ってたんだろ。俺、見たんだからッ!」

「ほぅ、そこまで見知っているのなら、気を利かせて欲しいものだな」

「よくそんなこと言えるなッ! いっつもいっつも兄さんのこと、泣かせてたくせに!」

「フフン……だからおまえはガキだと言うんだ。大人が泣くのは必ずしもつらいことがあってというわけではない。むしろクラウドが泣くのは、私に……」

「うわぁぁぁぁぁぁ〜ッ! やめろーッ! ふたりともーッ!」

 俺は血を吐く勢いで止めに入った。

「アンタ、いいかげんにしろよ! カダージュも黙んなさいッ!」

 ふんぞり返った英雄と泣きベソ末弟を、それぞれ叱りとばす。

 

「クラウド……まぁ、落ち着け」

 気の毒そうにヴィンセントに声を掛けられ、俺自身涙目になっていることに気づく。ブザマだ、あまりにも不様だ、クラウド・ストライフ。

 

「その……セフィロス……どうだろうか。せっかく来てくれたのだし、よければ彼らにもクラウドと一緒に過ごさせてやりたいのだが……」

 穏やかな声でセフィロスに話しかけたのはヴィンセントだった。そして今度はカダージュに向き直り、言葉をかける。

「私もおまえたちと話す機会を失うのは寂しいことだ。よければ、またしばらく居てはくれないか……?」

「ヴィンセント〜ッ!」

 俺が抱きつく前に、カダージュに先を越された。ヴィンセントが確認するようにヤズーを見る。彼はやれやれといった調子で、両手を上げると、ヴィンセントの提案に同意を示した。

 

「……おい、セフィロス、大人になれよ」

 俺は背後の男に、ボソリとつぶやいた。

「おまえに言われたくはないな、ガキが」

 そう吐き捨てると、セフィロスは、「好きにしろ」と言い残して、室を出ていった。

 

「……よかった。了承してもらえたようだ……クラウド」

「ヴィンセント……」

 俺はよろよろとヴィンセントの方へよろめいた。ぶっちゃけカダが邪魔だ。

「ヴィンセント〜ッ!」

「ク、クラウド? なんだ、どうした……」

「ヴィンセント〜ッ! 俺のことキライになってない? ねぇ、ねぇ、俺のこと好き?」

 まるで、ついさっきのカダージュと同じようなことを言い出す俺。だが、聞いて確認して、安心したくてたまらないのだ。

「ク、クラウド……子どもみたいだぞ、ほら、落ち着け……」

 おろおろと俺をなだめるヴィンセント。

「兄さん、子どもみたいって」

「カダは黙ってなさい!」

「兄さん、すぐ怒るッ!」

「ほら、もうッ離れろ離れろ! ヴィンセントは俺のだぞ!」

 俺はカダージュを押しのけて、ヴィンセントに抱きついた。

「クラウド……よせ、大人げない……」

「ね、ヴィンセント、今はアンタのことが一番好きだからね? わかってる? ちゃんとわかってくれてる?」

 彼のシャツを掴み締めながら、言い募る俺。

「ああ、わかっているから……」

「ホントにわかってんの? アンタ、全然口に出して言ってくれないじゃんか!」

「兄さん、ずるいよ! 僕が最初、ヴィンセントに話しかけたのに!」

「ヴィンセントは俺のだぞ! 抱きついていいのは俺だけだ!」

 俺はカダージュにも劣らぬ駄々っ子ぶりを発揮した。

 

「ク、クラウド……落ち着いてくれ。 あ……その……ヤズー……すまないが……」

 ぼそりと低い声でヤズーを呼ぶヴィンセント。

「ああ、はいはい、ほら、おいでカダ」

「ヤズー〜〜〜〜」

「よしよし。怖かったね」

「兄さん、今日は意地悪だ! 僕の味方はヤズーとヴィンセントだけだ!」

「なんだとーっ!」

 相手をする俺も俺だと思うが、どうしても言い返してしまう。

「ああ、わかったわかった、カダ。ほら、兄さんもいいかげんにして」

「では三人とも、以前の部屋を使ってくれるか。空いているから……」

「ごめんね、ヴィンセント」

 にっこりと微笑んでヤズーが言う。

「いや……気にするな」

 とこたえるヴィンセント。

 なんとなく大人の会話っぽくて、俺は不愉快になる。

 いやいや、ここで不愉快になったら、俺は大人の仲間入りをしていないことになってしまう。俺は声を励まして言葉を続けた。

 

「ま、カダたちのわがままは今に始まったことじゃないからな、仕方がない。ただし、セフィロスも居るんだ。おとなしくするように」

「兄さん、エラソー」

「エラソー」

 二人揃って唱和しやがるカダージュとロッズ。

「この、悪ガキッ!」

「わぁぁ〜い、兄さんが怒った〜ッ!」

「怒った、怒った〜ッ!」

 バタバタと宛われた部屋に向かって走り出す。

「こら待て、カダージュ! ロッズ! メシ抜きにされたいのかーッ!」

 ついつい、クソ生意気なあいつらを追いかけて行ってしまった俺。

 居間で取り残されたヴィンセントとヤズーが、ふたりして顔を見合わせ、深いため息をついていたのは、後々知ることになったのである