テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 居間に戻ると、ヤズーがかいがいしく弟の面倒を見てやっていた。

 飲み物をねだられたらしい。

 キッチンで、トロピカルドリンクを作っている。オレが来たことに気付くと、サッサとこっちに向って歩いてきた。

 

「……赤毛くんからだったんでしょ。どうだったって?」

 ……相変わらず鼻の利く男だ。

 末のガキのことで、取り乱していたときはまだ可愛げがあったものの、すでに通常運転になっている。

「…………」

「なによ、俺には教えてくれてもいいでしょ。……ヴィンセントには言わないから」

 ふぅとひとつため息を吐くと、イロケムシにさっきレノから聞いた情報を、かいつまんで説明した。

 

「……そう。あの状況じゃ、死体を見つけ出すだけでも大変……か」

 思案深げに唇に指を押し当て、そうつぶやく。

「まぁ、仕方がないだろうな。奥の部屋は天井が崩落したし、培養ルームはクラウドが、電線をすべて斬った。あの後、さらに大きな爆発が起こってもおかしくはない」

「うん……」

「そう不安げな顔をするな。他の連中には黙っておけよ。連中が生き延びている可能性なんて、コンマ0.1%すらないんだからな」

 オレの言葉に、ヤズーは頷いた。

「……わかってる。ただこの手でとどめをして、ネロが死に絶えるところを見られなかったのが残念なだけ」

「おまえらしいな」

「ヴィンセントはネロやヴァイスに同情している部分もあるからね。死んだと報告しても、行方不明と話しても、落ち込みそうだね」

「あれが暗くなると、家の連中がうるさいからな。レノから確実な報告が入るまでは、何も言わない方がいいだろう」

 慎重なオレの物言いを茶化したくなったのか、ヤズーはからかうような口調で、言葉を続けた。

「あなたはホント、ヴィンセントのこととなると甘くなるねぇ。まぁ、彼に気を使ってくれるのは、ありがたいけど」

「フン、DGソルジャーはあいつにとって、鬼門だからな。また黙ったまま飛び出されでもしたら、面倒だろ」

                            

 

 

 

 

 

「ねぇ、セフィロス」

 口調を改めて、ヤズーが話を切り出した。

「何だ」

「カダージュに輸血してくれたこと……感謝してる。あなたがあれだけ血を分けてくれなかったら、助からなかったかも知れない。本当にありがとう」

「やめろ。気色が悪い」

「失礼だね~、せっかく心からの感謝を述べているのに」

「おまえがしおらしいことを言うと不気味なんだ。もう黙ってろ」

 手を振ってそう遮ったオレに、ヤズーは、

「もうひとつ」

 と言った。

「……山田先生と話したんでしょ?」

「…………」

「ねぇ、はぐらかさないで教えてよ。……医者なんだから……さすがに俺たちの身体が普通じゃないって気付いているんだよね」

 今さら隠すことでもない。

 ましてやこの男なら、口にすべきこととそうでないことをわきまえられるはずだ。

「身体のことなら、オレやヴィンセントを、最初に診たときにそう思ったらしい。まぁ、そりゃそうだろうな」

「……何か聞かれなかったの」

 慎重にそう訊ねてくる男に、オレは軽い口調で返した。そうできるのは、あの医者本人があのような態度だったからだ。

「いや、オレのほうから突っ込み入れたんだが、どうでもよさそうな口ぶりだった。……オレたちのことは、ただの迷惑な患者だとよ」

「……それだけ?」

 さすがに驚いたのだろう。見せた資料のこともある。

 ヤズーは女のように睫毛の長い双眸を丸めて、そう聞き返してきた。

「それだけだ。……久しぶりに良い気分になった。まぁ、今度ヤツが往診に来たときには、茶とケーキくらい用意しておいてやれ」

「……案外、いい人なのかもしれないねぇ」

「深く物を考えるのも面倒くさいといった様子だったぞ。まぁいいだろ。丸くおさまっているんなら」

「うん……」

「それより、氷が溶けるぞ、末のガキが待っているんだろ」

 そう言っておっぱらうと、ヤズーのヤツもなんだか妙に楽しげな笑顔を作って、サンルームのほうに歩いて行った。

 

 ……ヴィンセントにどう話すかという課題は残るが、もうしばらくの間、オレはこの愉快な気分を味わっていたい気分だった。

 

 

 

終わり