トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

   

「忘れ物はないか?みやげは持ったな?」

 かいがいしくヴィンセントが、ふたりに声を掛ける。

 今日は朝方から、ジェネシスに出張してもらって、空間のよじれを確認してもらった。

 数日前に見えたとおり、その場所は、ホロウバスティオンにつながる時空が存在し続けていると言うことだ。

 

「持ったよ、ありがとうヴィンセント」

 『クラウド』が素直にそう言う。

 となりのレオンは相変わらず難しい顔をしていたが、オレの昨夜の忠告を思い出してのことなのか、軽率な発言はしなかった。

 意外だったのは、『クラウド』が『セフィロス』の行き先について、訊ねてきたことだった。

「ねぇ、『セフィロス』はどうしたの?ひとりで戻っていったの?……おれのこと、なにか言っていなかった?」

「大丈夫だ、別に何も聞いていない。おまえが心配する必要はない」

 オレは『クラウド』にそう言ってやった。

「ヴィンセントさん、セフィロス、世話になった。ジェネシス、ここをまっすぐに進めばいいのか?」

 レオンは早くホロウバスティオンに戻りたいという一心を、なんとか巧みに隠して、脇に立ったジェネシスに目線を送った。

「ああ、大丈夫だ。ふたり手を繋いでおいで。そうすれば、バラバラにならないですむからね」

 にこりと笑ってジェネシスが言う。

 ……こいつは、レオンの気持ちを知っているはずなのだが、大した他意はないのかそう言って、ふたりを促した。

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ、行こうか。『クラウド』、手を繋いでいろ。放すなよ」

 とレオンが言う。

「うん」

 ぎゅっとレオンの手を、一回りほど小さい白い手が握り返す。

 その様を見ていると、なんともお似合いのふたりに見えるのだが。

「おい、レオン」

 オレは別れ際に声を掛けた。

「なんだ」

 無愛想にヤツはこちらを振り返った。

「その手を放すんじゃねーぞ」

 含んだ物言いを、きちんと深くまで読み込んだのか、

「わかっている」

 とだけ答えて、踵を返した。

 

 オレは、『クラウド』の味方だ。

 ただ、単に可愛いからだ。それが理由じゃいけないということもないだろう。

 オレそっくりのもうひとりの男のことは、敢えて脳裏から追い出した。

 

 ……レオンがあれだけ必死になっているのだ。

 きっと……そうおそらくは、すでに『セフィロス』の願いは、九分九厘叶えられていると言っても過言ではないだろう。

 だが、まだ怯えているはずだ。

 ……いつか、レオンも、『クラウド』のように、自分のもとを去っていくのではないかと。それが杞憂だとしても、きっとその恐れをぬぐい捨てることはできないのではなかろうか。

 ……それがあの男の業のようなものなのだから。

 

「……セフィロス?もうふたりは行ってしまったぞ……?」

 いつまでもその場を動かず、自らの考えに沈んでいたオレは、ヴィンセントの困惑したようなささやきで我に返った。

「どうかしたのか……?気分でも……」

「なんでもない。ちょっとな」

 そう言ってごまかすと、ヴィンセントはそれ以上何も訊ねては来なかった。

「さぁ、帰ろう。この炎天下では、女神が日干しになるよ」

 ジェネシスにもそう促されて、歩き出す。

「……おまえ、ウチに来る気満々だな」

「それはそうだろう。朝早くから、わざわざイーストエリアに出張させられたんだからね」

 ジェネシスと軽口を叩きながら帰途についた。

 

 心の中では、まだまだ前途多難そうな、あの世界の連中のこれからに思いを馳せて。

 

 

 

終わり