うらしまクラウド
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 
 

 

 

「……ん……もっと……」

 甘えるように鼻先をこすりつけて『クラウド』がささやく。

 キスが好きなところも、オレの知っているクラウドと同じだ。

 淡く色づいた身体への愛撫を休めることなく、ねだるままに口づけを繰り返してやった。

 

 夢うつつの『クラウド』を前に、引っかけていただけのローブを脱ぐ。直接肌を触れ合わせると、意志的な眉が切なげに寄せられた。

 欲しがるままに口づけを与えはしたが、オレの手がすでに十分な熱をもった下肢に触れると、彼はビクンと身を震わせ、仰け反った。

 

「……あッ……ん……ッ」

 布地の上からだというのに、キスだけでこんなに興奮するとは……感度がいいのも、あの子と同じだ。いや、むしろこちらの『クラウド』のほうが、身体の欲求に正直に思える。そうさせたのは、もうひとりの『オレ』なのかもしれないとは……いささか倒錯劇のようだ。

「あッ……あッ……セフィ……ロス……」

「……おまえは感じやすいんだな……もう、こんなになっている」

 クッと指先に力を込めると、若いからだが魚のように跳ねた。

「あッ……やッ……」

「……イヤじゃないだろう……?」

「……セフィ……ロス……?」

「そういうときは、『いい』と言うんだ……覚えておけ」

 荒い呼吸を継ぐ、無防備な唇に軽くキスをすると、オレは焦れた下肢から夜着と下着を脱がせた。『クラウド』も素直にそれに従う。

 淡いベッドライトの中、彼の白い身体が幻想的に浮かび上がる。

 さすがに恥ずかしくなったのか、耳まで真っ赤に染めた『クラウド』は、オレと目を合わせようとはしなかった。

 

 ……それならそれでかまわない。

 次にしなければならないのは、この子の身体を緩めてやることだ。

 

 驚かさないよう、朱に染まった耳朶を噛み、ゆっくりと唇を滑らせる。

 喉元へ……そして胸元へ……

 胸の飾りを舌先で軽く刺激しただけで、薄く開いた唇から掠れた喘ぎが漏れ、吐息がいっそうせわしなく早まった。

 薄い腹を撫で、健気に閉じ合わされている膝を割ると、『クラウド』が慌てたように上半身を起きあがらせた。

 

「……セ、セフィ……」

「大人しくしていろ」

「……オ、オレ……でも……」

 ひどく困惑した様子の『クラウド』。さきほどまではむしろ積極的とも言える様子だったのに、どうしたというのか。

 

「…………ッ」

 息を詰める『クラウド』。

 『レオン』に申し訳ないと、小娘のようなことを口にしたならば、そこまでで止めようと思っていた。

 だが、彼の嫌がった理由が、他にあったということを、そのあとすぐに理解できた。

  

 内股の……脚の付け根の深いところ……

 薄蒼く消えかかった痣の他に、なにかで斬り付けたような傷痕が残っていた。いや、傷痕とは言っても、肌の色も元通りに戻っている大分古いものではあったが。おそらくダウンライトだけならば気づかなかったであろう。

 そこだけではない。

 彼に気づかれないよう注意を払って観察すると、二の腕の裏側、脇腹のやわらかなところ……そして首筋から肩の線など、より敏感な部分にうっすらと消えかかった痕が残っているのが見て取れる。

 もっともそれらは、すっかり治っていて、わずかに変色した肌の色を、それこそじっくりと見極めねば気づかぬほどであったが。

 

「……『セフィロス』……か?」

 オレは低く訊ねた。

「……うん……ずっと昔の……だけど」

「可哀想にな」

「……へ、平気……もう前のことだから」

 同じ名をオレを気遣っているのだろう。声を励ますように『クラウド』は言った。

「身体の傷は消えても……心の爪痕は長く残る」

「……セフィロス……?」

「すまないな」

「なんで……あやまるの?」

「フン……同じ名のよしみだ」

 そう応え、すでに消えかかった傷跡に接吻した。

 

 

 

 

「……ッ……あッ……あッ……」

 下肢でうごめく、オレの髪に指を差し込み身をよじらす『クラウド』。

 せわしない息を紡ぐが、空いた片手で必死に口を塞いでいる。声が漏れるのを堪えているのだろう。

「あッ……セフィ……もぅ……」

「外は嵐だ……気にするな」

 固く立ち上がった中心を緩やかに刺激しつつ、宥めるようにささやきかける。

「でも……声……恥ずかしい……よ……」

「そうか。ならば、よけいに聞いてやりたいな」

 身を伸び上がらせ、意地悪く耳元に息を吹きかけると、オレは下肢を嬲る手はそのままに、もう一方の手で、『クラウド』の両手首をまとめ上げた。

「……やッ……やだッ……!」

「ほら、顔を見せてみろ……」

「セ、セフィ……あッ……んんッ……!」

 露を含んだ桃色の目元、微かに汗ばんだ白い肌、つらそうに寄せられた意志的な眉…… ついつい、見入っていたのだろう、『クラウド』が泣き出しそうな声音で抗議してきた。 

「ヤダったら……『セ、セフィロス』は……オレのことなんて気にしないもん……!」

「……フ……バカなことを……こうしていて相手の反応を見ないヤツがいるか」

「だって……『セフィロス』は……」

「おまえには、あいつの気持ちがわからなかっただけだ……まぁ、それも無理からぬことだがな」

 必死な様子の『クラウド』を見ていると、苦笑するのも申し訳ないような気分であったが、ついつい口元がゆるんでしまう。

「『セフィロス』の……気持ち……?」

「そう……」

「…………」

 荒い吐息はそのままに、口を噤む『クラウド』。

 

「……どうした、なんて顔をしている?」

「……なんでも……ない」

 オレから目を反らす。

「……ヤツの心の中など考えたことはなかったか?」

「……そんなことない……!」

「…………」

「……考えたけど……ずっと知りたかったけど……」

 ぐっ……と喉をつまらせる。

 大きな蒼い瞳に、じわじわと涙がにじんでくる。

 ……無粋なことを言った。こんなときに問うべきことではなかった。

 

「ああ、もういい……悪かったな」

「……わかんなかったもん……ずっと『セフィロス』のこと……想ってたけど……わかんなかったんだもん……」

 子どものような物言いで、吐息を引きつらせる『クラウド』であった。

「……そうか」

 なだめるように、薄く開かれた口元に唇を重ね、苦しげな呼吸をなだめてやる。

「……ん……んッ……セフィ……ロス?」

「……泣くな……まぁ、おまえの泣き顔は可愛らしいがな」

 塩辛い涙の粒を口唇で吸い取り、オレは紅く上気した頬を撫でてやった。