うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 ラグナ・レウァール
 

 

 

  

 

「セ、セ、セ……セフィ〜〜〜ッ!!」

 黒のノースリーブに皮のパンツ。

 俺の知っているセフィロスと出で立ちは天と地ほどもことなるが、長い銀髪と彫像のように整った顔に見間違えようはずはない。

「セフィ〜ッ!! よかった〜ッ!! 探してたんだよ〜〜〜ッ!!」

 俺は思わず半泣きになると、呆然と立ちつくす長身に飛びついた。

 スコールのクソガキは、俺のこういった行為を軽々しいと叱るが、人間嬉しいときに喜びを体中で表現して何が悪いというのだろうか。

「セフィ〜ッ! うわぁぁん! 神様、ありがとー!」

「うわッ!な、なんだ、てめェは! 気色悪い!!」

「セフィ〜ッ! つれないこと言わないでよ〜! 一緒にお風呂入った仲じゃん!! 俺がどんだけセフィに会いたかったか……ああ〜同じ顔〜!」

 頭の中は、『セフィロス』とセフィロスがごちゃまぜになってしまった。

 とにかく『セフィロス』に逢えたという事実だけで。地獄での蜘蛛の糸、砂漠のオアシス、シベリアでのホッカイロというイキオイで、逃しがたいものと俺の目には映った。

 

「セフィーッ! もう放さないよーッ!」

「どけっ! クソオヤジ! 気味が悪いッ! 放せといっているだろう! おい、ボサッと突っ立ってないで、この男を……」

 呆れた面持ちで立ちつくした黒髪の支配人を、叱りつけるようにセフィロスは促した。

「……お静かに。他のお客様のご迷惑になります。セフィロス、後はおまかせしてよろしいようですね」

 そう言って間を取り持ってくれたのは、その彼であった。

 相変わらずやさしい笑みを浮かべているが、今は同じ笑顔でもどこか冷ややかで張り付いたような微笑になっている。

「セフィロスのお知り合いとのこと。それならそうと最初から認めればよいではありませんか」

「おい! オレは別にこの男とは何の関係もないぞッ!? おまえ、なにか誤解……」

「存じません。さぁ、彼も疲れておられるようですし、お早く連れ帰って差し上げて下さい」

 ツンと顔を背ける黒髪の青年。

 なんだろ? なんか怒ってる? っつーか、ラグナさんのせい?

「言っておくが、この男とは初対面だ! オレにオヤジ趣味はないぞ!」

「……『オヤジ』だなんて、言葉が悪いですよ、セフィロス。目鼻立ちの整った素敵な方ではありませんか。ああ、貴方の料金はツケにしておきますので」

「おい、待て! 今日はこの後一緒に……」

「無理でしょう!? お連れ様が居られるのなら! 私とのことはもう結構。では、フロアが忙しいので」

 そう言い置くと、黒髪の支配人はさっさとホールの方へ降りていってしまった。

 呆然とした様子で彼を見送るセフィロス。

 ……あ、なんかヤバイ感じ? この雰囲気……

 あの支配人さんって、もしかしてこのセフィロスと……そーゆー……カンジ? 俺のせいで何か変にこじれちゃったかも?

 

 

 

 

 

 ……五分経過……

 

 俺たちは、店の入り口で立ちつくしたままだ。いや、正確には突っ立ったセフィロスに俺がしがみついていると図式だ。

 あまりにアホらしくなったのか、セフィロスは見たままどおりのバカ力で、俺を引きずって店の外に運び出すと、蹴り飛ばすイキオイで突き放した。ラグナさんは無様に転がってしまった。

 ……だって、この人全然容赦ないんだもん。馬鹿力だし。

「あー、痛ってェ……こっちのセフィ、乱暴……」

 俺のつぶやきに、人を殺せそうな眼差しで睨み付ける。

「おい、貴様!! いったいどういうつもりだッ! このオレ様に何の恨みがありやがるッ! 何かの冗談だっつーんならただじゃおかねェぞ、地獄で後悔しろ、この野郎ッ!!」

 女子供ならば失神しそうな、空恐ろしい声音で怒鳴りつけてくるセフィロス。同じ顔でも、俺の知っている『セフィロス』とは大違いだ。

「そんなに怒らないでよ〜。別に冗談とかじゃないんだし」

 ヘコヘコと謝ると、彼はそのもの凄い腕力で、俺の襟首を引きずって空に持ち上げた。

「ぐえっ! 苦しい! 苦しいってば、セフィ!」

「馴れ馴れしく『セフィ』などと呼ぶな! 見ず知らずのクソジジイが!」

「見ず知らずじゃないもん〜。悪気はなかったんだってば〜」

「貴様のおかげで、あいつがつまらん誤解をしたじゃねーか! 一旦ああなると手ェつけらんねーんだぞ! アレは面倒くさいんだからな!! クソッ!!」

 持ち上げているのも疲れるのか、セフィロスは店の庭先に俺を放りだした。

「あー、苦しかった! あ、それ、さっきの支配人さんのこと? 付き合ってんの?」

「貴様には関係ないッ! オレに用件があるならさっさと言いやがれ、ボケナスッ! クソつまらん内容だったらブッ殺すぞ!!」

 悪酔いした荒くれどもが俺たちの周囲を迂回してゆく。それほどまでに怒れるこの長身の男は恐ろしく見えるらしかった。

「だから〜……あの人と同じ顔でそんなに怒んないでよ〜……悲しくなっちゃうよ〜……」

「何を寝言……」

「俺、もうひとりの君、知ってるんだもん。友だち以上、恋人未満なんだもん」

「……? なんだと……?」

「俺、もうひとりのセフィロス知ってるの。コスタ・デル・ソルから帰ってきたあの人を保護したんだよ、俺が」

 セフィロスの顔つきが変わった。

「…………」

「ウソじゃないよ。だから、君を見てすぐセフィロスだって……そうわかったでしょ?」

「…………」

「中身は俺の知っているセフィと全然違うけどね」

「……たりめーだ。あの軟弱者と一緒にするな」

 そう言ってから、ようやく話が見えてきたのか、彼はひとつ大きくため息を吐き出すと、長い髪を掻き上げた。綺麗に筋肉のついた骨ばった腕がひどく男っぽく見える。

 ……やはり『あのセフィロス』とは全然違う。同じ顔でも、物言い一つ、行動ひとつ、まるきり異なる別の人物なのだ。

「……貴様、名は?」

 諦めきったような口調で、セフィロスは問いかけてきた。

「ラグナ。ラグナ・レウァール。スコールのパパだよ」