うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

  

 そう……なんとなく、なのだが……数日前にヴィンセントが寝込んだとき、俺の忠告を聞き入れてくれたのか、セフィロスは、ずいぶんと紳士的に振る舞ってくれた。

 面倒がらずに側についていてくれたし、夜間の外出も控えてくれた。

 

 特に互いの関係が変わったわけではなかろうが、あの日以来、ヴィンセントの在りようが、これまでよりも、ずっと安らいでいるように見える。セフィロスは相変わらず、マイペースで自己中心的ではあるのだが。

 

 

 その後、結局、ヴィンセントは、セフィロスの買い物のお供をさせられ、あたふたと困惑している間に、洒落たスーツに、ブランドの小物、品のいい日常用のシャツにパンツなど、山のように贈られていた。ひどく恐縮しつつも、とても嬉しそうに微笑んでいたのが印象に残っている。

 

 夜には予定通り、和風懐石を予約し、離れの個室を借り切って、家族総出で……おっと、戸主(?)だけはのぞいて、美味い料理に舌鼓を打ったのであった。

 

 もちろんおねむの時間帯でも大人気のヴィンセントである。カダージュが十二分に我が儘ぶりを発揮し、ヴィンセントと一緒に寝る権利を勝ち取ったのであった。勝負方法は単純にじゃんけんである。

 翌朝、満足そうな笑顔で、めずらしくも早起きしてきたカダージュに訊ねてみると、ずいぶん長いこと『お話』をしていたということだ。

 ヴィンセントはよく本を読む人らしく、昔語りや神話など、多くの物語を知っている。見た目だけは十代後半とはいっても、ほとんど子どもと変わらないカダージュに、訥々と語って聞かせてくれたらしい。

 それらがとても面白く、どれほど自分が感動し興奮したのか、堰を切ったようにしゃべるカダージュであった。

 ああ、やはりヴィンセントは本当に素敵な人だと、そう思う。

 

 二日目の晩……ちょうど仕事の折り返し地点あたりになるのだろう。

 何気なく、俺の口にした一言が、今回のトラブルを巻き起こした……のかもしれない。ああ、いや、直接的にどうこうということでなく、きっかけを作ってしまったようなカンジだ。

 なにはともあれ、そのときの状況を思い出して話をしようと思う。

 そう、最初は単に思いつきであったのだ。

 

 

 

 

「ねぇ、ヴィンセント、兄さんに電話してみたら?」

「……え?」

「ほらァ、昨日も今日もオレたち、出掛けちゃったじゃない。家に電話されてもいなかったろうし、心配しているかもよ?」

「あ……でも……多分……連絡するなら……私の携帯に……あ……?」

「どうした?」

「みゅんみゅん!」

 猫をからかっているセフィロスが訊ねる。一緒に『ヴィン』が声を上げるのも面白い。

「あの……画面が暗いのだが……」

「どうしたの? 落としたりした?」

「い、いや……」

「ちょっと貸して」

 と言って、手にとってみると何のことはない。充電ギレである。

 意地悪くからかうセフィロス。真っ赤になって恥じらうヴィンセントを慰めて、充電器に取り付けてやった。

 

「ほら、だったら尚のこと電話入れてあげた方がいいよ。携帯通じなくて、心配しているかも」

 俺はコードレスフォンを取り上げると、ヴィンセントに手渡した。

「ん……あ……ええと…… あ、あの……何番……だろうか?」

「ブハーハッハッハッ!」

「セフィロス、うるさい。もう、まったくヴィンセントらしいっていうか。ちょっと待って……えーとね……」

 自分の携帯電話を眺めつつ、番号を教えてやる。

 

 ルルルルルル……ルルルル……

 

「おい、オープンにしろ」

 クスクス笑いながらセフィロスが言う。止めようとしたが、ヴィンセントにとっては、特にかまわないことなのか、あっさりとオープンボタンを押した。

 これでふたりの会話が俺たちにも聞き取れるのだ。