うらしまリターンズ
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

 

 ボッサァァァ!

 俺は勢いよく尻餅をついた。

 その拍子に熱を含んだ熱い砂が、ブワリと舞い上がり、頭から降ってくるのには閉口した。

 

「うう〜……ペッペッ! 口の中入った〜ッ! ゲホッゲホッ!」

 ジャリジャリと不快な歯触りに、思い切り唾を飛ばして咳き込んだ。

「ゴホッゴホッ! う゛〜……キモチワルイ」

「…………」

 無理やり立ち上がろうとしたが、足下がよろけた。なにやら荷物のようなものに、ぶつかって、ふたたび転びそうになる。

「う〜?」

「…………」

 黒くて大きな……『セフィロス』。

「…………」

「…………」

「あ、あの、スイマッセン! だ、大丈夫ですかッ!?」

 思わず敬語使いになり、浜辺の砂の上にうずくまった『セフィロス』に謝罪した。うやうやしく彼の手を取り、立ち上がらせてやる。

「…………」

 ムッと口を噤んだまま、返事もしてくれない。見れば美しい銀の髪もくしゃくしゃに乱れ、砂まみれになっている。

 

「もう、ホント、ごめんなさい!あーあー、汚れちゃいましたね、お洋服がッ!」

 機嫌を取って、彼の黒いロングコートをパンパンと叩き愛想笑いをしてみせるが、無言のまま、憮然とした表情を崩さない『セフィロス』。

 もっとも、彼が怒るようなことをしているのは俺なのだから、ここはもうただひたすらに謝罪するしかない。

「あ、あの……もぉ、ホント、ゴメン! 俺、バカだから、ひとりじゃどうしようもなくて……」

「………………」

「そ、そんなに怖い顔しないでよ…… だ、だって、俺だけ帰れてもダメなんだもん。レオン、連れて帰らないと……『クラウド』……死んじゃうよ……」

 機嫌取りがダメだったので、泣き落としでいってみた。

「そんなのあんまりじゃん。もうひとりの『俺』なんだよ? 自分さえよければそれでいいなんてこと……とてもできないよ……えっえっえっ」

「ウソ泣きはやめろ」

「…………」

「鬱陶しい」

 と、氷のような声音で告げられ、

「……スンマセン」

 と、謝罪した瞬間だった。『セフィロス』が俺の腕を掴み、グンとばかりに引っ張った。何の心の準備もしていなかったから、もんどり打ってすっ転びそうになる。

「うあッ! な、なにす……」

 異議を唱えようとしたが、その言葉は途中で途切れた。

 

 バチィィィッン!

 

 と、何か重量のある代物が破裂するような音。瞬間、ヒュンと風が鎌鼬のように舞った。

 俺たちの放り出された場所は、浜辺から少し入ったところで、コスタ・デル・ソル特有の、背の高い樹木と風化しかけた巨岩が散らばっていた。

 その巨大な岩の一部が、サメにでも喰われたようにパックリと抉られている。まるで鎌鼬に刈り取られたように、切り口を露わにしていた。

 そう……不安定な空間の連結……その口を開けた部分に、吸い込まれたのだ。

 

「な、なに……?」

「……怪我はないようだな。手間の掛かる子どもだ」

 ため息混じりに彼はつぶやいた。

「……子どもじゃないっつーの! っていうか……な、なんだったの? 今の……?」

 つい訊ねる口調が怯えた調子になる。一体何が起こったのであろうか。

「ね、ねぇ……『セフィロス』……?」

「……連結した空間…… そこの磁場は一時的にひどく不安定になる。そこの岩を砕いたのは空気の対流だ。運がよかったな」

 吐息一つ乱すことなく、彼は淡々と答えてくれた。

「う、運がよかったって…… あ、ありがとう……ア、アンタのおかげで助かった」

「…………」

「……で、でも俺……良く無事だったな……二回も。こんなすごいダメージがあったなんて……」

「さきほども言ったように磁場はひどく不安定だ。どんな形で空気が動くかわからない……今のように岩を砕く突風が吹くこともあろうし、それほど劇的なダメージが無い場合もあろう。……本当におまえは運のいい子だ」

 『子』という言葉を平気でくり返し、『セフィロス』は笑った。

 

「……さて、クラウド。のんびりしている場合ではなかろう。『この入り口』がいつまで保つかは、この私にもわからぬぞ」

「…………ッ!!」

「これだけ激しい鎌鼬だ。磁場も不安定だろう。こうして話している間に閉じてしまうかもしれんな」

「ちょーッ! 縁起でもないこと言わないで! そ、そうだった、こうしちゃいられないんだよ!」

 すぐに周囲を見回し、この場所の位置を確認する。

 ここは俺の家から4q程度離れた場所だ。イーストエリアからノースへ入る海岸線……民家もそれほどないし、市街地ではないからほとんど来たことはない。だが遠い場所ではないので、地理感はある。

 考えてみれば配達の途中で入れ替わったのだから、この場所に降りてこられたのは望外のラッキーとさえ言えよう。

 

「『セフィ』! こっからなら全力疾走すれば10分ちょいだよ! 絶対走れる!」

「……その家にレオンが居るという保証は?」

 と冷ややかな『セフィロス』の言葉。

「だ、だって、この前も『クラウド』、俺の家に居たし! き、きっと、レオンも俺ンちだよッ!」

「…………さぁて?」

「……よ、よし、確認するケータイ!ケータイ!」

 俺は大急ぎで、腰のポケットから携帯電話を取り出した。

 トゥルルルルル トゥルルルルル

 コール音がもどかしい。

 だが、それはすぐに聞き覚えのある声に取って代わった。