Wet season Vacation
〜アイシクルロッジ in ストライフ一家〜
<2>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 それから4,50分は歩いただろうか。

 やや絶望的な心持ちになった頃、先頭をゆくチビのカダージュが大声をあげた。

 

「見えた〜ッ! ちっこいけど、村が見えるよ〜ッ!」

 ヤズーが小走りにカダージュのところまでゆく。私は最後尾をのんびりと歩いてついて行った。

 

「セ、セフィロス……」

 神妙な声ですぐ前を行く、クラウドが振り返る。もちろん彼のとなりにはヴィンセントが居る。

「なんだ、ガキ」

「うっ……い、いや、アンタのおかげで……助かった」

「へぇ、それで?」

「だ、だから……さっきはひどいこと言って……その……」

「…………」

「その……ううぅ〜……」

 ヴィンセントが口元を手で押さえている。笑いをこらえているのかもしれない。

「うなるな。『ごめんなさい』だろう?」

 私はせいぜい意地悪くそう言ってやった。

「くっ……うう〜……」

「どうした、早く言え」

「ご、ごめん……なさい」

「フフン、わかればいい。だいたいおまえのような子どもが、この私に反抗すること自体が間違っているのだ。素直に言うことを聞いていれば、それでいい」

「うう〜……」

「フフ、顔が真っ赤だぞ、クラウド」

「う、うるさいッ! さ、行こう、ヴィンセント!」

 そう捨てセリフを残すと、華奢な男の腕をぐいぐいと引っ張って行ってしまった。

 つい、昔のくせで虐めてしまうが、私はああいう意地っ張りのクラウドも、かつてのように従順なあの子もとても好みだ。

 まぶしい金の短い髪、大きな蒼い瞳、ツンととがった鼻梁、そして今は、しなやかに筋肉のついた肢体……わがままな物言いも、寝ぼけてつっかっかてくる様も、一生懸命食事をしている姿も、すべてを愛らしいと思える。いや、正直、一番好きなのは、泣き顔なのだが、今はなかなか見る機会がない。

 

 話を戻すが、ようやく目の前に灯りの点る集落が見えてきた。私はともかく、このクソ情けない一行は命拾いをしたということになるだろう。このような場所だ、小さいとはいえ、宿屋のひとつ、ふたつ程度はあるだろう。

 さすがに生身の肉体だと疲労が蓄積する。村落を見いだし、安堵したのは、正直私も同じであった。

  

 

                 ★

 

 

「ねぇ、ずいぶん、静かな村だね、ヤズー」

「……ああ」

「お腹空いたよ〜、はやく宿に行こうよ!」

 カダージュ、ヤズー、ロッズが宿屋を求めて歩く。いくら村中とはいっても、この吹雪だ。外に出てきている者などいやしない。

 

「うーん、どこだよ、宿屋。とりあえず、そこらの灯りのついてる家で聞いてみるか」

 と、クラウド。

 何の迷いもなく、側近くにあった小作りな一軒家の扉を叩く。

 

 ドンドンドン!

 

「……返事、ないなぁ」

「兄さん、いきなり叩くんじゃなくて、声、かけたほうがいいでしょ。俺が変わるよ」

 ヤズーが、もう一度、ノックをして、呼びかける。

「すみませーん、旅の者ですが!」

 ……しかし、これでもいらえがない。

 

「……おかしいね、ヤズー。ドア、開かないの?」

 ガキは行動力がある。カダージュというチビが、取っ手をいじくると、驚いたことに、その家の扉がギィィィと音を立てて開いたのだ。

「あれ、開いちゃったよ、兄さん」

「ホントだな。ちょっと入ってみよう」

「みようみよう!」 

「ク、クラウド、カダージュ……そんな勝手に」

 ズカズカと進んでゆくガキ二人を、ヴィンセントがあわてて止めようとする。このメンツでは、良識のあるヤツほど困惑する場面が多いようだ。

「平気、平気、気がついて誰か出てきてくれるだろ」

「ク、クラウド……」

 おろおろとするヴィンセントを置き去りに、クラウドは大声をあげた。

「こんにちわー! 誰か居ませんかーッ?」

 

 ……本当に誰もいないのか?

 

 まさか、この大雪の日に?

 さすがに不審に思う。

 だいたい、このしみったれた家の暖炉は、火こそ消えてはいるが、つい先だってまで使用していた痕跡があるし、煌々と灯りがついているのが解せない。

 

「……おかしいなぁ……? こんな日に出かけるかなぁ……」

 そう言いながら、窓のほうへ歩くクラウド。外を見回すと、他にもいくつか灯りのついている家がある。

「……なにかやんごとない理由があったのではないか?」

 注意深く、ヴィンセントが応えた。

 

「あ、あそこ……あれ、宿なんじゃないの?」

 クラウドのとなりに歩み寄ったヤズーが指を指している。私も一緒になって覗いてみると、なるほどそれらしき大きさの建物に、看板が出ている。幸運なことに、この下屋のすぐとなりだ。

「どうやらそうらしいな。よし、あそこへ行くぞ」

 私は言った。

「よかったぁ〜、よかったな、ヴィンセント。すぐに風呂入ろうな! これじゃあ、露天は無理だろうけど……でも、吹雪の露天風呂ってのもなかなかオツなもんかもな」

「……あ、ああ」

「ヴィンセント、顔色悪いよ、大丈夫?」

「ヤ、ヤズー、大丈夫だ。心配掛けてすまない」

「ヴィンセント、みんなでお風呂入ろうね!」

「カ、カダージュ……え……あ……いや……」

「カダはヤズーと入んなさい! ヴィンセントはダメ!」

 とたんに元気になるクラウド。まったく子どもだ。

「兄さん、横暴〜ッ」

「横暴〜ッ」

 でこぼこコンビが声をそろえる。苦笑するヤズーにヴィンセント。

 宿屋を目の前にして、だいぶ気が大きくなっているのだろう。

 私たちは、不用心な木屋を出て、となりの宿へ走った。