〜 MEMORY'S 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<2>
 
 ザックス・フェア
 

 

 



 

 

11:50

 

「いつまで見てるんだよ、セフィロス。他の連中や、修習生に見つかるとやっかいだぞ」

 今は授業中だからいいけど、この時間の後は昼飯になる。つまりは自由時間だ。この場所にだって、だれかやってこないとは限らない。

「行きたければさっさと去れ。邪魔をするな」

「いや、だからまずいんだってば。騒ぎを起こされると。俺の責任になっちゃうだろ」

「別に何もせん」

「だから、アンタがここにいるだけで、見つかったら大騒ぎになるっつってんの。もうちょっと自分の立場とか考えろよ、ホント、アンタといいジェネシスといい手が掛かるなァ」

「オレをあんなナルシストと一緒にするな。……しッ、クラウドの声が聞こえなくなる!」

「…………」

 げんなりとした俺を見ることもなく、セフィロスはかぶりつき状態に戻りやがった。

 そう、ヤツの言っているクラウドというのは、さっき話した俺の相棒で、同室の修習生だ。

 一応、俺のほうが先輩だけど、軍隊式の上下関係が互いに苦手なので、友だち……というか、弟というのが一番近いカンジだと思う。

 クラウドは年よりも少し小柄で、幼く見える。素直で直感的な行動もそれを裏付ける要素になっていようが……とにかく、俺にとっては弟みたいに大事なヤツなんだ。

 

 だから、彼からセフィロスとそういう関係になったと聞かされた時は、ずいぶんと気を揉んだ。

 同じソルジャーとは言っても、やはりセフィロスは特別な存在で、常に周囲から注目される人間だ。彼に心酔している者は、数え切れないくらい居るだろう。

 けっこう遊び人だし、これまでは特定の誰かというのは作らなかった。

 だからこそ、クラウドが嫉妬と羨望の対象になり、それが高じて何かされるのではないかと、心配性の俺はそんなことまで考えてしまったのだ。

 だが、そいつは杞憂だったらしい。

 セフィロスは恥も外聞もなく、クラウドを猫可愛がりに可愛がっている。むしろクラウドのほうが、人目を気にして困惑しているような状況だ。

 この有様の中、クラウドにちょっかいを出したら、セフィロスが黙っていないことは誰だとて想像に難くない。

 彼は一旦敵だと見なした人物には容赦がないのだ。

 

 

 

12:00

 

「いただきま〜す!!」

 窓から、少年たちの合唱が聞こえる。

 どうやら無事調理実習が終わり、試食の時間になったようだ。

 いつもは緊張しているクラウドも、クラスメイトと一緒に食事をするのは楽しいらしい。子供らしい笑顔を見せ、ジャガイモの固さがどうだとか、御飯の味付けがどうとか、互いに言い合い、それでも美味そうに食っている。

「ほら、無事に終わったろ。俺たちもそろそろ引き上げよう」

 俺は辛抱強くセフィロスに言った。

 面倒くさいが任務は任務だ。一応、終業時刻を過ぎたし、パトロールは滞りなく終了したと報告したい。

「まだだ。……クラウドが食事をしている」

「あの……アンタ……」

「あの子は好き嫌いが多いからな。上官として健康管理に懸念があるのだ」

「いや……あの……」

 アンタはクラウドのママですか!?

 と、怒鳴りつけたいところをグッとガマンして、もう一度、彼のとなりに腰を沈める。

 

 

 

12:40 

  

 皆で一斉に後かたづけが始まる。

 野営の時は、なかなか炊事場などないから、川や、間に合わせの施設を利用するしかない。

「あ、ねぇ、スポンジ取って!」

「これ、油切りしてからのほうがいいんじゃないか?」

「余分の分、とりあえず、ラップかなんかに包んでおく?」

「あぁ!水、跳ねてるよ!」

「ここ拭いた方がよくない? なんかベタベタしてる」

 闊達に動き回る修習生。

 俺だって、つい最近まで、そんな立場だったはずなのに、ずいぶんとオッサンになってしまった気がした。

 セフィロスのとろけるような眼差しからもわかるように、修習生は一律に「少年」と呼ばれる年代の子がほとんどで、二十歳を超える者はいない。

 実際、クラウドも14才になるとき入社してきた。もちろん学校教育をここで受けることになる。

 修習生の制服は、何着か支給されていて、その中からなら、好きなものを自由に着用できるのだ。今日のクラウドは、動きやすい服装がいいと思ったのだろう。サスペンダーで吊った、膝丈のハーフパンツとシンプルなシャツ、ネクタイははずして着ているのが彼らしい。

 

 

 

12:50

 

 トラブルが発生したのは、もういい加減に引き上げないとまずいぞ、とセフィロスを促している最中であった。

 ボッという破裂音。

 そしてコンロの真上に、一瞬火柱が立ち、そのままゴォォォと音を立てて火を吹き続けた。

 部屋の中心で発火したのだ。

 

「キャアッ!」

「うわぁ!」

 修習生が飛び退く。

 火を切れだの、元栓を閉めろだの、口々にいうものの、すぐに行動できる子がいない。立ち上る黒い煙が子供たちの動揺を煽った。コンロからの出火がどうやら回りに飛び散った油に着火したらしい。

 

 ガシャン! ガラガラガラガッシャーン!!

 片づけている食器を落とす者……きっとその破片で怪我をしたヤツもいるに違いない。

 先輩パトロールとしては、ここは出番だろう。

 と、思った、その瞬間……

 

「クラウドッ!!」

 飛び出した俺のとなりを、長身の男が追い抜かした。

「クラウドッ! クラウド、どこだッ!」

「おい、ちょっ……セフィロス!!」

 何考えてんの、この人〜〜〜っ!?

 もはや、騒ぎを起こすどころの話ではない。いや、騒ぎは出火事件で起きてしまっているのだから。

 だが、興奮している修習生の眼前に、神羅の英雄が飛び出していってどうすんだよ!?

 おまけに若干一名の名前を叫んで。

「クラウドッ!クラウドッ!」

「セフィロス、おい、ちょっ……よせ。い、いや、まずは火だ!」

 いやいや、ここはセフィロスを止めるよりも、まずは火の始末だ。俺はすぐに修習生を下がらせると、近くにあった断熱性のボウルをコンロの上にかぶせた。そう、アルコールランプの火を消す要領だ。

 真上に昇った人工的な炎は、上から防ごうとしても熱でやられる。脇から炎の通り道を遮断するのが常道なのである。いきなり水をぶっかけると熱の蒸気でガラス製品が割れることがあるのだ。

「みんな、下がってろ。そこらのものには触れるなよ」

 美味い具合に火を閉じこめ、手袋をしたまま、コンロの元栓を閉めた。