〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「あー、まぁ、アレだ。セフィロス……」

 人の居なくなったミーティングルームに残された俺たち。案の定、人の好いアンジールがフォローに回る。

「今回は……その……致し方がないだろう? おまえが修習生の安全を心配する気持ちは共感できるが…… 何もそう危険な場所へ行くわけではないし……」

「………………」

「引率は3rdが中心とはいえ、2ndのザックスなどもいるのだし、充分な管理を……」

「………………」

「あ、あの、セフィロス……?」

 先ほどから俯いたまま一言も発しないセフィロスに、恐る恐るアンジールが声を掛ける。

「……ッソ〜……」

「え?」

「……クッソ〜、クソクソ!あの変態メガネめ〜ッ!」

 ダンッ!と力任せにデスクに手刀を落とすセフィロス。恐るべきことにその一撃で強固なスチール製の天版がぐにゃりとひしゃげた。

「お、おい、社の備品を破損させるな!」

「クソ〜ッ! このオレ様に向かっていい度胸だ、あの野郎!」

「お、おい、セフィロス。別にラザードだって、悪気があって決めたことでは……」

「おい、貴様ら! 何かラザードの弱みはないのかッ!? 脅しのネタになるような……」

 そこまでするかよ、セフィロス!?

 たかが研修旅行の引率じゃねーか。だいたい修習生100名近くが一緒なんだぞ? そんな……アンタが期待するような甘い展開になろうはずがないと言うのに……

 きっと、そんな俺の思考が顔に出ていたのだろう。セフィロスは怒りの矛先をこちらに向けてきた。

「……おい、ハリネズミ。なんだ、その余裕かましたツラは? ああん?」

「は? いや、あの別に自顔だけど……」

 って、アンタ、やくざかよ!?

「貴様はいいよなぁ?ああ? みごと引率係にご指名だ! 美味しい仕事ばっか回されやがって、てめェ、あの変態メガネと出来てるんじゃねーだろうな!?」

「気色悪いことをいうな!」

 オレは胸ぐらつかんでくる勢いのセフィロスを、思わず突き飛ばした。もちろんその程度でびくともする英雄ではない。

「言っておくがな。遊びで旅行するわけじゃないんだぞ?ただ単に任命されたから、仕事として行くんだ。フツーのミッションと変わりねーんだよ」

「行きたくないなら代わってくれ」

 直球ストレートな英雄であった。

「いや……アンタ、さっき話聞いてただろ? オレの代わりにアンタとかそーゆーんじゃないじゃんか。1stには1stの仕事ってもんがあるだろうがよ」

「別に好きでクラス1stになったわけじゃない」

 ソルジャーを目指している連中が聞いたら、歯噛みしそうなセリフを忌々しげに吐き出し、セフィロスは大きくため息を吐いた。

 さすがの彼も今回は分が悪いとわかっているのだろう。

 研修旅行は来週に迫っている。そしてセフィロスたち1stの次週の予定が決まるのは、今週末の重役会議の結果だ。

 この人自身も出席することを考えると、ゾッとしなくもないが、いずれにせよ日程の余裕がなさ過ぎる。もし仮に次週に大きなミッションが入らなかったとしても、同行するのはほとんど不可能だろう。

 だからこいつは歯噛みするほどに苛立っているのだ。

「あ〜ッ! クソックソッ! オレだって旅行に行きたい!」

 ……子どもかよ。

 愛人連れでエロイ旅行には何度も行ってるじゃんかよ。今回のはただの研修旅行なんだから、ちゃらついたイベントがあるわけじゃない。

 そりゃ野外でのバーベキューや飯ごう炊飯、キャンプファイヤーなんかは楽しめるかもしれないけど……

 

 

 

 

 

 

「行きたい!行きたい!」

 地団駄踏んで駄々をこねる英雄。身長だけじゃなく精神的にも成長してくれ。

「ま、まぁまぁ、落ち着いてくれ。またの機会もあるかもしれないだろう?」

 きかん気の強いガキを宥める辛抱強さで、アンジールがセフィロスを説得する。

「仕方ないよ、セフィロス。会議は今週末。旅行は来週からなんだから。タイミングが悪かったんだよ」

 ジェネシスはそれほどの執着もないのだろう。あっさりと引き下がる様子だった。

 どうせ、こいつの参加したい理由なんざ、ただ単に「面白そうだから」だけだろう。しかも、セフィロス乱入がなければ旅行自体にもたいして興味はないらしい。

 あくまでも『クラウドとセフィロスが同行する』その面白くなりそうな旅行に、観客として参加したいだけなのだ。

 話が長引く前に俺はさっさと席を立つことにした。これ以上わがままをいうセフィロスに付き合ういわれはない。

「あー、じゃ、この話はここまでな。俺、部屋帰るわ」

「待て、ザックス!傷心のオレ様に一言もないのか!? 『今夜は寮の部屋に泊めてやる』とかそういう友情めいた発言は……」

「あるわけねーだろッ! いいかげんにしろ!」

 怒鳴りつける俺の傍らで、アンジールが『セフィロスは一般寮に泊まってみたいのか?』などと明後日の質問をジェネシスに投げかけている。

「おい、せめて晩飯くらい……」

「ああ、もう、クラウドの予定だってわかんねーだろ? 俺が部屋に帰って、アイツもいいタイミングで戻ってきていたら一緒に食いに行くんだよ。アイツだって同級生と約束してくることくらいあるだろ?」

 うんざりとした物言いで俺は吐き出した。本当に鬱陶しいぜ、このオッサン。クソデカイ図体で『クラウド、クラウド』って、あんな小さなガキを追い回して。

 未だ告白はしていないらしいが、さっさと告げて玉砕しちまえばいいのに!