〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 それから三日後。

 一応、平穏に時間が過ぎていった。

  合宿所の座学、体力づくりにバトル演習…… もちろん、やることはたくさんあるし、けっこうハードな毎日だが、滞りなく予定が進んでいくのに、俺は安心していた。

 最後まで気は抜いちゃいけない。当然のことだと理解はしていたのだが……

 

 プルルルルル……プルルルルル……

(ん……? なんだよ……)

 プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……

(……う〜……うるさい……まだ、そんな時間じゃ……)

 

「あッ、ヤベっ!」

 俺はベッドから飛び起きると、慌ててカーテンを開けた。

 わいわいガヤガヤとさざ波のように聞こえたのは、集合した修習生たちの声だったのだ。

 

 プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……

 

 相変わらず鳴り続ける耳障りな電子音に、ようやく俺はそれが宿舎専用電話からのコールだと気づいた。

「あ、は、はい、ザックスっす! スンマセン、すぐ外に……」

「おはよう、ザックス。よく眠れたかい?」

「……は?」

「フフフ、今の調子だとお寝坊さんかな?」

「…………」

「ちょっと聞いているのか、ザックス? 俺だよ。わざわざモーニングコールをしてやったのに、わからないのか?」

 のんきな声に思わず受話器を投げつけたくなった。

「アホか、オメーは! 電話してくんなっつっただろッ!」

「ご挨拶だなァ。せっかく……」

「モーニングコールなんていらねーんだよッ! だいたい俺じゃなくて、別のヤツが電話とってたらどうするつもりだったんだ!」

「別にいいじゃない。『間違えました』って言えばいいんだから」

「わざわざ神羅の合宿所に間違え電話してくるヤツがいるかってーの! それにおまえのしゃべり方は特徴がありすぎんだよ! 教務官はともかく、他のソルジャーが電話に出たらすぐにバレるぞ!」

 話しながらTシャツを脱ぎ、ソルジャーの制服に着替える。

「ねぇ、ザックス、今日の予定は?」

「ああん? 修習生は実地訓練だよ。登山と薬草摘み」

 そうなのだ。だからこの早い時間から、皆宿舎前に集合している。

 今日はいよいよ実習のハイライトの登山キャンプ、そして薬草摘みが予定されている。泊まりがけで宿舎を出るのは今回の実習だけだ。

 合宿所は、ちょうど山のふもとあたりに位置する。そこから下れば、ジェネシスたちの滞在している町に出られるし、さらに登ることもできる。それほど高い山ではないが、ハイキング気分では危険だ。アップダウンが多いし、渓流や滝、深くえぐられた谷間などもあるから……

 だが、めずらしい薬草も自生しており、そいつから応急処置用の薬を作ることが今回の目的なのである。

「ああ、山登りの日なんだね。ザックスも同行するのか?」

「たりめーだろ。何のための護衛ソルジャーだか」

「そうかァ、じゃあ、今日は会えないねェ」

「あのなァ! 今日だけじゃなくて、合宿中は絶対にツラ出すなって言っただろ! 周りの連中の迷惑も考えろっつーんだ! もし、アンタがセフィロスと一緒に居るんなら、あいつにもきちんとクギを刺しておけよ? いいなッ? わかったな!」

「わかったよ。怒らなくてもいいじゃないか。最近、おまえ、可愛くないぞ」

「ガキ扱いすんな!」

 最後に、そう言って怒鳴りつけると、野郎の返事を待たず、そのまま電話を叩き切った。

 

 

 

 

 

 

「ど、どうも、スンマッセン!」

 俺よりずっと年配の管理主事に謝罪し、慌ててソルジャーグループの方へ走る。

 途中で目の合ったクラウドが、声を出さず、

『ザックス、ね・ぼ・う!』

 と、口の形だけで告げてきた。ぼりぼりと頭をかく仕草でそいつに返事をし、受け持ちの場所へ移動した。

 事務方の教官である管理主事および教務主任たちは、合宿所で待機だ。

 修習生たちは今夜は山頂でキャンプの予定だから、丸一日宿を空けることになる。俺たちはもちろん修習生と同行する。突発的な事態に対応するため、ソルジャーを三名ほど宿舎で待機させてあるが、おそらく何も問題はなかろう。

「おい、ザックス、おせーよ」

 同僚のカムランにつっつかれ、『悪ィ』と苦笑いで返事をした。

 やれやれ目覚めは最悪だったが、天は快晴……もってこいの登山日和だ。

「いい感じに晴れたな」

 と俺が言うと、

「おう。だが、風がけっこう強いぜ、ザックス。気をつけていこう」

 とカムラン。

 俺たちは修習生を整列させ、注意事項を述べた後、チームごとに出発するよう声を掛けた。

 

 抜けるような青い空……確かに風はあったが、陽の出ている今は、寒いというほどではない。

 人の多いミッドガルから抜け出して、修習生の研修旅行同伴……というのは、セフィロスの言葉ではないが、けっこう美味しい仕事なのかもしれないと思った。

 後から考えれば、そいつは甚だしい思い違いで、責任の重さを考えれば、とうていそんな風に考えるべきではなかったのだ。

 

 油断してはいけない……と、ちゃんとわかってはいたのだが。

 少なくともそんなつもりはまったくなかったのだが。

 

 俺は自らの無力さと、判断力のなさを、この後の出来事で思い知らされることとなった。