〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「……セフィロスはね。案外そういった事柄には疎いんだよ」

 苦笑混じりに答えるジェネシス。

「少し気をつければ、彼の立場ならイヤというほど情報入手が可能なんだけどね。あまり他人の思惑に興味がないんだろう」

「……そ、そりゃ……だが、今回ばっかりは状況が違うじゃんか! クラウドのコト好きだってんなら、今みたいなときこそ、手ェ貸してやって欲しいんだ!」

「気持ちはわかるけどね。……じゃあ、チョコボっ子の危機的状況が、セフィロスの耳に入ったらどうなると思う? 彼は上手く立ち回れると思うかい?」

 ジェネシスは気の毒そうな面持ちで、俺にそう言った。

 

 ……きっとヤツはクラウドが除籍処分の危機に瀕しているなどと、想像もしていないだろう。

 この状況でルーファウス始め、それにつられるように、上層部が、厳しい処断を考えていることを知ったら……

 

 おそらく、ソルジャークラス1stのセフィロスは、冷静かつ迅速に、クラウドの……

 

 ……って、あいつが冷静に行動できるわけないじゃん!!

 下手をしたら、怒れるゴジラのごとく、この本社ビルを粉々に…… いや、コレ、冗談じゃないから! あの人、本当にやりかねないからッ!

 いやいや、その前に上層部のじいさん&おっさん共を皆殺しに…… まずはルーファウス神羅からだろうか…… そうしたら、きっとタークスは副社長を守ろうとするだろうから、セフィロスvsタークス?

 だが、ツォン他、タークスが束になってかかっても、セフィロスには敵わないだろう。

 

「……まずいな、血を見る可能性がある」

 俺は低くつぶやいた。

「……そうだろう? まぁ、最悪の処分が出たとしたら、セフィロスが暴れるのも時間の問題だろうけどね」

 そういいながら、ジェネシスは俺を手招きして、喫茶スペースに連行してくれた。無理矢理連れて行かれたような状況だったのだが、彼のオススメのホットレモンを口にしたら、少しだけ落ち着いた気分になった。

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、ジェネシス」

 俺はティーカップを両手で包み込みつつ、吐息混じりに彼に話しかけた。

「ん……?」

「俺に出来るコトって……なんかないかなぁ」

「…………」

「だってさ、修習生はあくまでも修習生だろう。未熟で当たり前だと思うんだよ。あ、別にこれはクラウドのことばかりを言っているわけじゃなくて」

「……そうだな。だから、修習期間で軍人としての基本的なスキルを身につけさせるわけだろう」

 湯気の立つホットレモンをすすりながら、ジェネシスが応じた。

「……だよな? だったらさ、やっぱ、今回の一件だけで除籍処分っていうのはおかしいと思うんだ。もし、それなら、修習生のクラウドじゃなくて、俺がそうなるべきなんだよ。俺は修習生ではないし、研修の引率を任されたソルジャーなんだから」

「……おまえのいうことも一理あるとは思うよ」

 あっさりとジェネシスはそう答えた。問いかけた俺が拍子抜けするほどに。

「なんて顔してるんだ、ザックス? 公平に見ればおまえのいうとおりだよ。あの子はまだ未完成の修習生だ。注意義務を怠った引率ソルジャーに責めがあるのは当然だと思う」

「……だったら! だったらさ! 俺を降格処分にして、クラウドを訓告にするってのはどうだ? それなら道理が立つだろう?」

「降格処分ならもう受けたんだろう」

「違うよ!単に来期1stへ上がるって言う話がなくなっただけ。だいたい俺には早すぎる昇進だったんだ」

「……それで? だから?」

 と、興味なさそうなジェネシスの促し。

「だからさ! 俺がソルジャークラス2ndから3rdに降格すれば筋は通るじゃねぇか。お偉いさんたちだって、ちゃんと処分をしたって納得できるだろうし。もちろん、クラウド本人に何の処分もなしってのがまずいなら、自室謹慎くらいでいいじゃねぇか。責任があるのは引率ソルジャーの俺の方なんだから!」

 俺はまるでジェネシスが、その上役でもあるように熱心に説得した。

 だが、彼はふぅ……と、顔を伏せてため息を吐き出すと、気の毒そうに俺を見つめた。

「……ザックス、おまえのいうことはひどくまっとうな意見だよ。教科書どおりのね」

「……なんだよ、その言い方」

「抜本的に、論点はそこじゃないってことがわからないかな」

 ジェネシスは空になった俺のカップを取り上げ、自分のものと一緒にカウンターに戻しにいった。手持ち無沙汰で待つ俺に、今度はコーヒーをもらってきてくれた。

「あのな、ザックス。今回の問題は、トラブルを起こしたのがセフィロス気に入りのチョコボっ子だってのが、ひとつ大きなポイントなんだよ。そりゃ、確かに他の子が同じ真似をしたとしても、軽くない処分は下るだろう。なんせ地元の警察にヘリまで出させたんだからね」

「……まぁな」

「そして俺たちソルジャークラス1stまでが、関わることになった」

「……でも、そいつは俺のせいだろ! 俺がアンタに応援を頼んだんだから!」

「そうだな。チョコボっ子じゃない、他の子が引き起こした事件なら、ルーファウス神羅もそう考えるだろうね」

 『ルーファウス神羅』

 やはり、この名前が出てくるか……

「いっただろう? 今回、あの子の除名を声高に唱えているのは、副社長と取り巻きのタークス連中なんだよ。それから副社長の顔色をうかがっているウチの部門長……」

「ハイデッカーか!?」

「そうだよ、知らなかったの?」

「ぐ、軍事部門のハイデッカーはともかく…… タークスって……奴らは関係ないだろうが!」

「表向きにはね。ただ、ルーファウス副社長と懇意にしている者たちなわけだから。こういったときには、副社長の味方をするだろうよ」

「チッ……くそッ!」

 俺は頭を抱えて悪態を吐いた。