〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

「ザックス? どうしたの、難しい顔して?」

 とクラウドが小首をかしげて訊ねてきた。別に隠すことでもないから、思ったことをそのまま口にする。

「いや……別にこの記事の内容がどうのってんじゃないんだけどよ。なんで今になってミッドガルで号外なんか出るのかと思ってな」

「……そうですね、確かに事件が起こってから、そこそこ日にちが経っています」

 とイングス。きっと聡明な彼は同じコトを考えていたのだと思う。

「ああ、でも、地元の新聞にはちょこっと載ったって、友達から聞いたけど。もちろんこんな大きな扱いじゃなくて、写真なんかもない記事だったけど」

「……そうだろ? この新聞取材協力には、研修所地元の新聞社の名前が入っているがな。あの状況だったし、当然マスコミなんか来ていなかったから……」

「えー、でも、この写真、すごくよく撮れてますよ?」

 そうなのだ。特にこのクラウドを抱きかかえたセフィロスの全身アップなんて、わざとか?ってくらい、上手い具合に朝陽が差し込み、神々しい雰囲気なのである。

「……ああ、まったくだよな……でも、俺も他のソルジャー連中も、写真なんて撮ってる場合じゃなかったし、新聞社なんて来ていなかったと思うんだけど……」

 俺は首をひねった。

「それにいきなり号外って……なァ? どうしてこの時期に、この内容がリークされてんだろ……?」

「まぁ、難しいことはいいじゃないッスか! でも、本社としてはウハウハじゃないんスかね! これでまた神羅カンパニーの名声が高まるだろうし、ソルジャーのイメージアップにもつながりますよ!」

「え……ああ、まぁな……」

「軍事部門長も鼻高々ですよね〜! セフィロスが居る限り、軍事部門のトップが一番おいしいポジションじゃないッスかね!」

「おい、こら、調子に乗りすぎだ、バッツ。部門長の立場になれば、ソルジャーのことだけではなく、他にもいろいろと大変なことがあるだろう。もちろんクラス1stの人たちの力はとても頼もしいだろうが」

 穏やかに諫めるイングス。だが、バッツの言っていることも、もっともだと認めているのだろう。

 確かにこうしたソルジャーの『お手柄』は、人事のラザード……そして最終的には軍事部門の統括者ハイデッカーのお手柄となる。もっともルーファウス神羅あたりは、あくまでもソルジャー単独の手柄だと考えていそうだが、社内的に見れば前者の認識が正しい。

 俺は二、三部放置してあった号外のひとつを手に取ると、部屋を出ようとした。

「ザックス、どうしたの? またどこか行くの?」

 と、クラウド。そりゃそうだ。俺は仕事を終えてこの部屋に戻ってきたのだから。

「あ、ああ、ちょっと忘れてたことがあった。すぐに済ませるから、後でみんなでメシ食いに行こうぜ!」

 と、クラウド含め、部屋にいた皆にごくいつもどおり声を掛け、俺は退室した。

 ……そしてダッシュだ!

 

 これは……

 こいつは間違いなくジェネシスのしわざだ。

 実際、ローカル紙ではなく大都会の新聞で、こうしておおっぴらに記事になったことで、上層部としては下手にクラウドを処分するのは難しくなったと言わざるを得ない。

 おまけに終いのページのセフィロスのどアップ。

 やさしげな面持ちで修習生を見つめている写真は、何も知らない者が見れば、記事の内容と相まって涙腺を刺激されるに違いない。

 一度、セフィロスの部屋に寄ろうかと思ったのだが、今日は朝っぱらからふて寝していたはずだった。何度か寮に忍び込もうとしたのを、俺に阻止されているから機嫌が悪いのだ。

 こいつもこいつなりに、いろいろと考えてみたらしいが、基本実力行使の男だ。あれこれと画策するのは性に合っていないのだろう。

 セフィロスに伝えると返って面倒くさいことになる……

 そう考えた俺は、ジェネシスの姿を探して、社内を走り回った。

 いつもいるはずの執務室にも、ソルジャーのミーティングルームにも姿が見えなかったから……

 

 

 

 

 

 

「ったくどこ行ったんだよ!」

 俺はひとり舌打ちした。こんなときに限って肝心のヤツが見つからない。

 いつもは、フラフラとそこら辺を浮遊しているくせに!

「おう、ザックス、何走り回ってんだよ。次のミッションの調べ物か?」

 同期のカムランが、図書スペースから舌打ちして出てきた俺に声を掛けてきた。

「ああ、カムランか。いや、そーじゃねぇんだけどよ…… ちょっとジェネシスに用があってな」

 今はまだ下手なことは言えない。あいまいな返事でぼかしておいたのだが……

「ああ、ジェネシス? そういや、59階で見たぜ。秘書室に書類届けに寄ったとき、チラ見しただけだけどよ」

「59階……? あ、ああ、そうか。サンキュ、カムラン」

「おう、またそのうち飲みに行こうぜー」

 そう言いながら気のいい同僚は、手を振るとさっさと歩いていってしまった。

 しかし59階だと……?

 そこは秘書室とタークス中央本部室があるだけだ。後は宿泊施設があるが……

 タークスの本部室にはツォンがいるはずだ。その上の60階には副社長室があるし……

 ぞわぞわと背筋を撫でられるような気分に、俺は走り出した。

 図書スペースのある40階からは、19階も上のフロアだったが、俺は非常階段を使ってダッシュしたのだ。

 ひとつは俺がその場所に行くのを誰かに見られたくなかったという理由……

 そしてもうひとつは気が急いて、各駅停車のエレベーターなんぞ使う心境じゃなかったのだ!