〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ザックス・フェア
 

 

「いや、クラウドもティファちゃんも、田舎の子供だったからな。素朴で純粋なんだろ。お互いに気にはしていたみたいだが、いわゆる『お付き合い』までは発展しなかったらしい」

「ふぅん……なるほどねェ。ミッドガルで育ってきたセフィロスとは大違いってわけだ」

 そういうと、ジェネシスがクスリと笑った。

 だが、都合の良さも英雄クラスのセフィロスは、ジェネシスの嫌み発言を、まったく歯牙にも掛けなかった。というか、嫌みとすら気づいていない様子だったのだ。

「クラウドはスレていないからな。今時の小娘の相手など、しようはずもない。……オレはこの出逢いに感謝しなければな……」

「すいません。まだ、アンタとクラウドが付き合うってことにはなってないんですけど」

 無駄かと思ったが、一応口を挟んでおいた。

「……だから。これからオレの気持ちを、あの子に告げに行くんだろう。晴れて恋人になった暁には、毎週休日には共に連れ立って……」

「いや、ちょっと待てよ。アンタ…… 告白はいいけど、どの程度の付き合いを望んでるんだよ。これはかなり重要なポイントなんだけどな」

 俺は真正面から切り込んだ。

 セフィロスの想いは恋愛感情というのはよいとして、交際の仕方には様々な形がある。

 プラトニックな関係なら……まぁ、それもアレなんだけど、まだマシだ。

 いわゆる世の恋人同士のような付き合いは、クラウドには無理だと思うのだ。

「どの程度って? 決まってんだろ。恋人同士になるんだからな」

「……Hとかもですか?」

 思わず敬語になって確認してしまう。

「たりめーだろ。ソレ抜きで恋人同士と言えるか?ボケ」

 ……そうだよな。

 ただでさえ、下半身に節操のない両刀遣いのセフィロスだ。

 きっとプラトニック・ラブの「プラ」の字も知らんのだろう。……ああ、何言ってんだ、俺。

 いや、言っておくけど、別に差別とかじゃないから。同性との関係を否定している訳じゃなくてだ。

 ため息をひとつ吐き、

「あー、悪いけど、そんじゃ、やっぱ時期尚早だワ」

 俺はヒラヒラと手を振ってそう言ってやった。

 『交換日記から始めましょう』的恋愛ならばともかく、このエロ魔人のように、いきなりHを大前提にという付き合いはクラウドには無理だ。

 え? いや、別に本人に確認したわけではない。むしろ、確認どころか……

「何だ、貴様、もったいつけやがって。多少幼くても、あの子くらいの年齢なら……」

 言いかけたセフィロスの言葉に覆い被せるように、口を挟んだ。

「あー、悪いけど、アンタの想像以上にあの子は幼いんだよ。自慰行為も知らないような天然だからな」

「え……ッ」

「な……ッ?」

 傍らで話しを聞いていたジェネシスまでも絶句する。

 セフィロスは、一言呻くと、次の瞬間片手で顔半分を覆った。

 ……案の定、鼻血がしたたり落ちてきている。ったく、この人はどんだけ血がたぎっているんだか。

 

 

 

 

 

 

「いや……ちょっと、ザックス…… それはないんじゃないか? いくらなんでも……」

 と、ジェネシスが苦笑混じりに問い返す。

「いや、俺だってそう思いたいよ。……俺自身、クラウドくらいの年のころは…… と、まぁ、俺はいいとして!」

 『毎日マスかいてました! そして、今も!』

 などと、アホなことを口走る前に、話題を元に戻す。

 

「ホントなんだよ…… 寮生同士での会話が、上手く咬み合ってないなとは思っていたんだけど…… クラウドはそういったことに本当に疎いんだよな。フツー、あれくらいの年なら、エロ本見て、ムズムズくらいはするもんなんだが……」

「ああ、なるほどねぇ」

 ジェネシスが軽く頷き、言葉を続けた。

「まぁ、確かに、あの子の場合、生まれも育ちも例の田舎町だものな。ミッドガルに出てきたといっても、まだ数ヶ月だ」

「まぁな。だがちょっとなぁ。田舎育ちって言えば、俺自身そうだしさ」

 俺の生まれた村、ゴンガガはニブルヘイムに負けず劣らずのど田舎なのだ。

「うーん、チョコボッ子はひとりっこみたいだし、身体も小さくて幼い感じだからね。でも、今、寮生だろう? そのうちいろいろ覚えていくんじゃないのか?」

 色っぽい目をしてジェネシスが笑う。

 この人はソルジャーだが、寮生になったことはないはずだ。だが、まぁ、あの空間にそれくらいの年齢の男共が缶詰になっていれば、エロ話が尽きることなどないもんだ。

 きっと、そう言いたいんだと思う。……いや、実際、そんなもんだし。

「おい、テメェ、そりゃどういうことだ?同じ寮生の中にクラウドを狙っている輩がいるっつーのか!?」

 またもや見当外れの発言が飛んでくる。俺とジェネシスはそれを華麗にスルーした。

 

「……今、この状態で、男から告白なんかされたら……」

 俺はちらりとセフィロスに目線を向け、低くつぶやいた。

 本当は、『こんな男』と言ってやりたかったんだが。

「ああ、なるほどね。ザックスがそう考えるのももっともだな」

「……だろう? アンタだってそう思うわけだろ、ジェネシス」

「まぁな。でも、ある意味、あの子は恋愛についての先入観がないんじゃないのか? 男だからいけないとか、女だから好きになれるかもとか、そういった感覚はなさそうだ」

「そりゃそうかもしれないけど、一発目がこの人っつーのは……ちょっと……」

 ふたりで、じっとセフィロスの顔を凝視し、ため息を吐いた。

 俺とジェネシスは、当事者のセフィロスを完全に置き去りに会話を交わしているのだ。

 

「何なんだ、テメェら! ふたりでヒソヒソと! オレさまとクラウドが結ばれるのがそんなに不愉快か? ねたましいか?」

「いや……誰もそんなこと言ってねーだろ。つーか、結ばれるとか決めつけてんな」

「だから、そのための第一歩を……!」

 鼻息も荒くセフィロスが叫んだ。万年発情期のオッサンが!

「そうか、そうだね。でも、セフィロス。どんなふうに気持ちを告げるつもりだい? 今、ザックスが言ったように、普通の少年より、遥かに無知で幼いあの子に」

 淡い笑みを浮かべながら、冷静に問い返すジェネシス。

「あ? ええと、そりゃ…… おまえ、『好きだ』って……」

「ふぅん。そうしたら、きっとチョコボっ子は、『ハイ、僕もです』と答えると思うよ。なんせ、あの子はおまえのことを尊敬しているようだからね」

 ジェネシスの言わんとしていることを察したのか、セフィロスがウッと詰まった。

 そう、セフィロスがこれまで相手にしてきたのは、基本的に玄人ばかりなのだ。色っぽいやり取りはあっても、『告白』などという経験はあるまい。

 ましてや、クラウドみたいな何も知らない子供相手に、それを行うのはどれほど難しいことか。

 『好き』という言葉は、シチュエーションによって、いかようにも取りようがあるのだから。

「セフィロス。俺はおまえが告白したければ言えばいいよ思うよ。人を好きになる気持ちは自由なんだから。ただ、最初の一歩を誤ると取り返しのつかないことになるから気をつけろよ」

 いっそやさしい口調でそう言うと、彼は時計を見て、立ち上がった。

「じゃあな」

 といってMTルームを退出する彼に、俺もくっついていく。

 小難しい顔つきで悩んでいるセフィロスの側にいたら、やつあたりされる恐れもある。

 

「……なんか、サンキュ、ジェネシス」

「ん? なんだ、それは。別に礼を言われるようなことはしてないじゃないか」

「いや、アンタがああいってくれたおかげで、セフィロスもちょっと考えてくれそうだ」

「……あきらめるということはなさそうだけどね」

 ふふと低く笑って、ジェネシスはつぶやいた。

「ああ、まぁ、そいつは難しそうだけど。……でも、アンタ、どっちかってと、セフィロスにたきつけてる側だろ。あんなふうに冷静になれって言い方、意外だった」

 正直に俺はそう言った。だって、さっきのやりとりで、本当にそう感じたから。

 俺の言葉に、強烈な流し目を送ってくると、彼はまた笑った。今度はなんだかくすぐったそうに。

「……あのね。地下室の女神とは全然違うけど、俺にとってセフィロスは特別なんだよ。だから、あんまりあの子に夢中になられると、少し寂しくてね」

「ゲッ……」

 『特別の意味』とやらを曲解しそうになり、思わず口から呻きが漏れた。

「そんな顔しなさんな。……ハハハ、おまえも特別に好きだよ、ザックス」

 ポンと俺の頭に手を置くと、迷える吟遊詩人は、今度こそ早足で去っていってしまった。